膵臓がんとは?初期症状から原因・治療・予防まで徹底解説

膵臓がんは「沈黙の臓器のがん」とも呼ばれ、早期には症状が現れにくく発見が難しいがんです。

そのため、見つかった時には進行しているケースが多く、治療が難しいことで知られています。本記事では、膵臓がんについて基本知識から主な症状・診断方法、そして原因となるリスク要因最新の治療法、さらに予防のための生活習慣まで幅広く解説します。

膵臓がんとは?基本的な知識をわかりやすく解説

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膵臓は胃の後ろ側、肝臓(ピンク色)と十二指腸(薄赤色)の間に位置する長さ約20cmの臓器です。

膵臓は頭部・体部・尾部という部分に分かれ、十二指腸に接する右側が膵頭部、左側の細くなった部分が膵尾部と呼ばれます。

膵臓には2つの重要な役割があり、ひとつは膵液(消化酵素)を分泌して食べ物の消化を助けること、もうひとつはインスリンなど血糖値を調節するホルモンを分泌することです。

膵液は膵臓内の膵管という管を通り、肝臓からの胆汁と合流して十二指腸へ排出されます。このように消化と血糖調節に関わる膵臓ですが、この膵臓に発生する悪性腫瘍が膵臓がんです。

膵臓がんの多くは膵管の細胞から発生する膵管がん(腺がん)であり、全体の約90%を占めます。

膵臓がんは小さいうちから周囲のリンパ節や肝臓に転移しやすく、腹膜にがん細胞が散らばる腹膜播種を起こすこともあります。

このため、膵臓がんは他のがんに比べて進行が早く、予後(治療後の経過)が悪い傾向があります。

早期段階では自覚症状がほとんど現れず発見が難しいため、膵臓がんは「沈黙の臓器のがん」と言われるゆえんです。実際、膵臓がんは罹患者数こそ多くありませんが死亡率が非常に高く、5年生存率は約10%程度と主要ながんの中でも最も低い水準にあります。

日本でも膵臓がんによる死亡者数は年々増加傾向にあり、がん死亡原因の中で男性は4位・女性は3位に位置しています。このように膵臓がんは非常に恐ろしい病気ですが、正しい知識を持ちリスクに備えることが重要です。

主な症状と診断方法

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症状:

膵臓がんは早期には目立った症状が出にくいですが、がんが進行すると徐々に体調の変化が現れます。

代表的な症状のひとつが腹痛で、みぞおちから背中にかけて痛みを感じることがあります。この痛みは鈍くじんわりと持続し、姿勢を変えても楽にならないのが特徴です。

また、原因のはっきりしない体重減少も注意が必要です。特に食事量が変わっていないのに急激に体重が減る場合、膵臓がんによる食欲低下や全身の倦怠感が影響している可能性があります。

食欲不振やお腹の張り(腹部膨満感)、吐き気なども見られることがあり、これは膵臓がんで消化酵素の分泌が妨げられるために起こる症状です。

もう一つの重要なサインが黄疸(おうだん)です。膵臓がん、とくに膵頭部にできるがんが胆管をふさぐと胆汁の流れが滞り、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れることがあります。

黄疸に伴い、尿の色が濃く茶色っぽくなったり、便の色が白っぽくなる(淡色便)こともあります。

また、原因不明の糖尿病の発症や、既存の糖尿病の急激な悪化も膵臓がんの隠れたサインとなり得ます。急に血糖値のコントロールが悪くなった場合には膵臓がんが潜んでいないか注意が必要です。

ただし、これらの症状は膵臓がん以外の病気でも起こり得ますし、膵臓がんでも必ず出るわけではありません。少しでも気になる症状が続く場合は自己判断せず、早めに医療機関で検査を受けることが大切です。

診断方法:

膵臓がんが疑われるのは、上述した症状が現れた場合や、人間ドック・健康診断の血液検査や腹部超音波検査で異常が見つかった場合です。

血液検査では膵臓から分泌される消化酵素(アミラーゼやリパーゼなど)や、腫瘍マーカーと呼ばれる物質(CA19-9など)の値を調べます。

膵臓がんではこれらの値が高くなることがありますが、あくまで補助的な検査であり、値が正常でも安心はできません。

画像検査としては造影CT検査MRI検査、腹部の超音波検査が用いられ、膵臓に腫瘍がないか詳しく調べます。

より精密な検査としては、内視鏡を使った超音波内視鏡検査(EUS)があります。EUSでは胃や十二指腸から超音波で膵臓を直接観察できるため、小さな病変も発見しやすくなります。

これらの画像検査で膵臓がんが強く疑われた場合には、確定診断のため生検(組織や細胞を採取する検査)を行います。

内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)という検査で膵管から細胞を採取したり、EUS下で細い針を刺して組織を採取(EUS-FNA)して、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。このように複数の検査を組み合わせることで膵臓がんを正確に診断します。

原因を理解する:リスク要因と予防法

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膵臓がんの明確な発生メカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかのリスク要因が知られています。

これらの要因に当てはまるからといって必ず膵臓がんになるわけではありませんが、該当する方は注意が必要です。

主なリスク要因として、遺伝・家族歴基礎疾患(持病)、そして生活習慣の3つの観点があります。以下に詳しく見ていきましょう。

遺伝的要因と家族歴

膵臓がんは家族歴が一つのリスク要因です。血縁のある家族(両親や兄弟姉妹など)に膵臓がんの患者さんがいる場合、一般の方より膵臓がんになるリスクが高まることがわかっています。

特に、近親者に膵臓がんが2人以上いる場合は「家族性膵がん」と呼ばれ、遺伝的素因による発症の可能性が指摘されています。

家族性膵がんの方々を対象に早期診断や予防の研究も進められており、必要に応じて遺伝カウンセリングや定期的な検査を検討することが推奨されています。もしご家族に膵臓がんの方が複数いる場合には、自身も消化器内科で相談し、リスク管理について専門医の助言を受けると良いでしょう。

基礎疾患(糖尿病・慢性膵炎など)

膵臓がんのリスクを高める疾患として糖尿病慢性膵炎が挙げられます。

糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンの作用不足による病気ですが、膵臓がんの中には糖尿病を引き起こすものがあり、反対に長年糖尿病を患っていること自体が膵臓がんのリスクとなる場合もあります。

特に発症から間もない糖尿病は膵臓がんによって引き起こされている可能性があるため注意が必要です。

慢性膵炎は膵臓の慢性的な炎症疾患で、膵臓組織の障害が長期間にわたって続くことで膵がん発生の土壌になることがあります。また、膵臓にできる嚢胞性疾患である膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)も膵臓がんの前兆となり得る病変です。

IPMN自体は良性腫瘍ですが、一部は膵臓がんに進展する可能性があるため、IPMNと診断された場合は定期的な検査で経過観察を行います。

生活習慣(喫煙・飲酒・肥満)

喫煙(タバコ)は膵臓がん最大のリスク要因の一つです。タバコに含まれる有害物質が膵管に炎症や細胞異常を引き起こし、発がんにつながると考えられています。

長年のヘビースモーカーほどリスクが高まることがわかっており、逆に禁煙することでリスクを大きく下げることができます。

過度の飲酒も注意が必要です。大量の飲酒は慢性膵炎を招きやすく、それが膵臓がんリスクに結びつく可能性があります。適度な飲酒量にとどめ、できれば休肝日を設けるなど飲酒習慣を見直しましょう。さらに肥満も膵臓がんのリスク要因とされています。

肥満の方は糖尿病や膵炎にもなりやすいため、間接的に膵臓がんリスクを高めると考えられます。バランスの良い食事と適度な運動で適正体重を維持することが大切です。

以上のように、膵臓がんには様々なリスク因子がありますが、喫煙や肥満、飲酒など生活習慣に関わるものは自分自身の努力で減らすことができます。

一方で家族歴や基礎疾患といった自分では変えられない要因もあります。そうしたリスクを抱えている方ほど、次に述べる予防策に積極的に取り組むことが望まれます。

治療法を詳しく解説:最新の医療と対策

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膵臓がんと診断された場合、病状(ステージ)に応じて最適な治療法が検討されます。

大きく分けると、手術(外科治療)薬物療法(化学療法)放射線治療、そして症状を和らげる緩和ケアの4つが柱になります。

治療方針は、「がんを切除(手術で取り切れる)できるかどうか」によって大きく異なります。以下では最新のガイドラインに基づいた治療戦略と各治療法の内容について説明します。

手術による治療(外科治療)

手術は、膵臓がんを根治(完全に治す)できる可能性がある唯一の治療法です。がんが周囲に広がっておらず切除可能と判断された場合、できる限り手術によって腫瘍を摘出します。膵臓がんの手術には主に3つの術式があります。

  • 膵頭十二指腸切除術: 膵臓の頭部にがんがある場合に行う手術です。膵頭部とともに十二指腸、胆管、胆のうを一塊に切除します。必要に応じて胃の一部や巻き込まれた血管も切除します。切除後は、膵臓の残りと小腸をつなぎ直し(膵空腸吻合)、胆管や胃も小腸につなげて消化管の通り道を再建します。
  • 膵体尾部切除術: 膵臓の体部~尾部(左側)にがんがある場合に行う手術で、膵体尾部と隣接する脾臓を切除します。膵体尾部の切除では膵頭部手術よりも再建が少ない分、回復は比較的早いですが、膵臓を多く切除するため術後に糖尿病が悪化したり、消化吸収障害が起こることがあります。
  • 膵全摘術: 膵臓全体にがんが広がっている場合などに行われる手術で、膵臓を丸ごと全て切除します。膵臓を失うことでインスリンと膵酵素の分泌が完全になくなるため、術後は一生にわたり糖尿病の治療(インスリン注射)と消化酵素剤の服用が必要になります。

手術後は合併症のリスクにも注意が必要です。膵液や胆汁が縫合部から漏れ出すことで腹膜炎を起こしたり、一時的に胃の動きが悪くなって食事が摂れない場合があります。その際は点滴や経静脈栄養で回復を待ち、感染が起きれば抗生剤で対処します。術後の経過を見るためにも、専門医のもとで適切な管理が行われます。

薬物療法(抗がん剤治療)

膵臓がんは進行度が高いため、手術後に再発を防ぐ目的で補助化学療法(術後の抗がん剤治療)が行われることが多くあります。

また、がんが切除不能と判断された場合や、遠隔転移(他の臓器への転移)がある場合には抗がん剤治療(化学療法)が治療の中心となります。

これらの併用療法は副作用も強い傾向がありますが、患者さんの体力や年齢に応じて可能な範囲で実施されます。抗がん剤治療中は吐き気や食欲不振、脱毛などの副作用が現れることがありますが、必要に応じて対症療法や支持療法で患者さんの負担を和らげます。

最近では、膵臓がんの治療に分子標的薬免疫療法を組み合わせる試みもなされています。

放射線治療と化学放射線療法

放射線治療は、高エネルギーのX線などを照射してがん細胞を死滅させる治療法です。

膵臓がんの場合、手術が難しい局所進行がんに対して化学放射線療法(抗がん剤と放射線の併用療法)が行われることがあります。

抗がん剤と組み合わせることで相乗効果が期待でき、腫瘍の縮小や進行抑制を図ります。ただし膵臓は周囲に腸や胃など放射線に弱い臓器が多いため、照射範囲や線量には細心の注意が払われます。

近年では放射線の照射技術も進歩しており、正常組織への影響を抑えつつ高精度に腫瘍に集中させる治療(強度変調放射線治療: IMRTや粒子線治療など)が一部で導入されています。

放射線治療の副作用としては、照射部位の皮膚の炎症や、吐き気・下痢など消化器症状が出ることがありますが、多くは一過性です。患者さんの状態に応じて放射線治療の適否が判断されます。

緩和ケアと支持療法

膵臓がんは進行が速く症状も出やすいため、治療経過において緩和ケアが非常に重要になります。

緩和ケアとは、がんそのものを治す治療だけでなく、痛みや不快な症状を和らげて生活の質(QOL)を維持・向上させるための医療です。

膵臓がんでは腹痛や背部痛が強く出ることが多いため、医療用麻薬を含む鎮痛剤の投与による疼痛コントロールを行います。また食欲不振や黄疸によるかゆみ、消化不良による下痢など症状に合わせた対症療法も並行します。

病状が進み手術や抗がん剤治療が難しくなった場合には、無理な治療をせず緩和ケアに専念する選択肢もとられます。

緩和ケアは終末期だけのものではなく、診断時から適宜取り入れることで患者さんの苦痛を軽減し、治療を最後まで続けやすくする効果もあります。医師や緩和ケアチームと相談しながら、身体的・精神的な痛みに対処していくことが大切です。

膵臓がんの治療法はこのように多岐にわたりますが、近年は集学的治療(複数の治療法を組み合わせた戦略)が重視されています。

例えば、術前化学療法といって手術の前に抗がん剤治療を行い腫瘍を小さくしてから手術に挑む方法や、手術後に抗がん剤を追加して再発リスクを下げる方法などがガイドラインで推奨されています。

患者さん一人ひとりの状態(年齢や体力、がんの広がり具合など)に合わせて最適な治療の組み合わせが検討されますので、主治医と十分に話し合って治療方針を決めていきましょう。

予防するための生活習慣と注意点

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膵臓がんを予防するために、日頃から生活習慣に気をつけることが大切です。

特にリスク要因となり得る喫煙や飲酒、肥満を避け、健康的な生活を送ることが予防に直結します。ここでは膵臓がん予防のために心がけたい習慣と注意点をまとめます。

禁煙を徹底する

タバコを吸っている方は、できるだけ早く禁煙しましょう。

喫煙者は非喫煙者に比べて膵臓がんになるリスクが高いことが明らかになっており、禁煙によってそのリスクは時間とともに減少します。

特に男性では膵臓がん予防には禁煙が非常に効果的であると報告されています。禁煙することで膵臓だけでなく肺がんやその他のがん、心疾患の予防にもつながります。ご自身だけで難しい場合は、禁煙外来など医療機関のサポートを受けて計画的に禁煙に取り組みましょう。

飲酒はほどほどに

飲酒習慣がある方は、お酒は適量に控えることを心がけてください。

適度な飲酒そのものが直接膵臓がんの大きなリスクになるという明確な証拠はありませんが、飲み過ぎは慢性膵炎や肝疾患の原因となり、結果的に膵臓がんのリスクを高める可能性があります。

厚生労働省の指針では「節度ある適度な飲酒」はビール中瓶1本程度、日本酒1合程度とされています。休肝日を設ける、一度に大量に飲まないなど、飲酒量のコントロールをしましょう。アルコールは膵臓だけでなく全身の健康に影響しますので、長期的な視点で嗜好を見直すことが大切です。

健康的な食事と適度な運動

日々の食生活運動習慣も膵臓がん予防に影響します。野菜や果物、魚などをバランス良く摂取し、脂肪分や糖分の過剰摂取を控えることで適正体重の維持に努めましょう。

肥満は糖尿病や膵炎を招きやすく、結果的に膵臓がんのリスク因子となります。過度な食べ過ぎ飲み過ぎを避け、規則正しい食習慣を身につけてください。

また、運動不足も肥満の原因になります。ウォーキングやジョギング、体操など無理のない範囲で日常的に体を動かす習慣を持ちましょう。活発に身体を動かすことはがん全般の予防に有効であることが研究で示されています。適度な運動は免疫力の向上やストレス解消にもつながり、膵臓がんに限らず様々な病気のリスク低減に役立ちます。

まとめ

膵臓がんは早期発見が難しく進行が早い非常に注意すべきがんです。

しかし、本記事で解説したように、主な初期症状(腹痛・背部痛、黄疸、体重減少、食欲不振、急な糖尿病の発症など)を知っておくことで隠れたサインを見逃さないようにできます。

また、原因となりうるリスク要因として喫煙・飲酒・肥満・糖尿病・慢性膵炎・家族歴などが挙げられることから、日頃の生活習慣を見直し、禁煙や適度な飲酒、バランスの良い食事と運動を心がけることが予防につながります。

万が一膵臓がんと診断されても、手術・抗がん剤・放射線治療を組み合わせた最新の治療法が整備されつつあり、適切な治療と緩和ケアによって症状を和らげながら治療に取り組むことが可能です。大切なのは「おかしい」と思ったときにすぐ医師の診察を受ける行動力と、日頃からの健康管理です。

この記事をきっかけに、ぜひご自身やご家族の生活習慣を振り返り、膵臓がん予防に役立ててください。そして少しでも気になる症状があれば早めに専門医に相談し、大切な命を守る一歩を踏み出しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。