椎骨脳底動脈循環不全症(ちいこつのうていどうみゃくじゅんかんふぜんしょう)は、脳の後方に血液を供給する動脈の血流が一時的に低下することで、めまいやふらつき、視覚異常などの神経症状を引き起こす疾患です。
この病気は中高年層を中心に見られ、耳の異常とは異なる中枢性の症状が特徴です。早期の診断と生活習慣の見直しが非常に重要であり、放置すると脳梗塞などの重大な合併症を引き起こす可能性があります。
本記事では、「椎骨脳底動脈循環不全とは何か」「めまいとの関係」「主な原因」「受診すべき診療科」「治療と予防法」についてわかりやすく解説します。
目次
椎骨脳底動脈循環不全症とは?脳の血流障害による症状
椎骨脳底動脈循環不全症は、主に椎骨動脈と脳底動脈という脳の後方を栄養する血管の血流が一時的に悪くなることで発症します。
椎骨動脈と脳底動脈の役割
脳には2つの大きな動脈系統があります。その一つが椎骨動脈で、左右の首の後ろ側を通り、頭蓋内で脳底動脈と合流します。この血管は小脳・脳幹・後頭葉といった、生命維持や姿勢・視覚にかかわる重要な部位を支えています。
血流の一時的な低下が神経症状を招く
何らかの原因でこれらの動脈の血流が一過性に低下すると、脳の機能が一時的に障害され、めまいや視覚障害、運動機能の異常などの症状が現れます。慢性化すると、脳梗塞の前段階となるケースもあるため、早期の対応が必要です。
主な症状と「めまい」との関係性
この病気でもっともよく見られる初期症状はめまいです。耳の異常による末梢性のめまいとは異なり、中枢性のめまいである点が特徴です。
椎骨脳底動脈循環不全による症状
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回転性の強いめまい(グルグルと景色が回る感覚)
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立っていられないようなふらつき
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視野がぼやける、ものが二重に見える
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言葉がうまく出ない、呂律が回らない
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一過性の意識障害やぼーっとする感覚
めまいの特徴
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長時間続いたり、繰り返し起こる
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姿勢や首の動きで症状が誘発されることがある
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吐き気を伴うことも多く、耳鳴りや難聴がない点が末梢性との鑑別ポイントとなる
このような症状が見られる場合、耳鼻科で異常がなければ、脳神経内科での評価が必要です。
血流障害の背景にある要因
椎骨脳底動脈の循環が悪くなる背景には、加齢や生活習慣病、頸椎の変形など、さまざまな原因が関与しています。
主な原因
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動脈硬化:血管内壁が狭くなり血流が滞る
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頸椎の変性:椎骨動脈が骨棘や変形した骨により圧迫される
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高血圧・糖尿病・脂質異常症:動脈硬化を進行させる基礎疾患
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不整脈(特に心房細動):血栓が飛び、脳の血流を遮断するリスク
姿勢や日常動作との関連
特に、首を急に後ろに反らす動作や、振り返る動作によって椎骨動脈が一時的に圧迫されることがあります。これにより血流が減少し、症状が一時的に現れるケースが報告されています。
椎骨脳底動脈循環不全は何科を受診すべきか?
症状が現れた際、どの診療科に行くべきか迷うことも多いですが、適切な診療科への受診が早期診断と治療のカギとなります。
主に受診すべき診療科
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脳神経内科:めまいや視覚異常、ふらつきなど中枢性の症状の評価に最適
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脳神経外科:椎骨動脈解離や高度な血管狭窄などの構造的異常がある場合
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循環器内科:心原性の血栓症などが疑われる場合
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耳鼻咽喉科:末梢性めまいとの鑑別に有効
診断に使われる検査
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MRI・MRA:血管の走行や狭窄、血流の有無を視覚化
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頸動脈エコー:動脈の動きや血流の確認
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血液検査・心電図:全身状態の把握
治療法と日常での注意点
この疾患の治療は、脳への血流を安定的に保つこと、そして再発を防ぐことが目的です。
内科的治療
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抗血小板薬(アスピリンなど):血栓形成の予防
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高血圧・高脂血症・糖尿病の管理:血管の状態を安定させる
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生活習慣の改善:禁煙、食事の見直し、適度な運動
外科的対応(重症例)
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血管形成術(ステント挿入):高度な狭窄に対して行う
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頸椎固定術:頸椎性要因が強い場合に整形外科的手術が検討されることも
日常生活での工夫
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起床時や入浴後など、ふらつきが出やすいタイミングは慎重に行動する
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急な首の動きは避ける
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十分な水分摂取と、脱水予防を意識する
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寝る前や入浴中の転倒に注意し、生活環境を安全に保つ
椎骨脳底動脈循環不全は「ただのめまい」ではない
椎骨脳底動脈循環不全症は、一見すると軽度な「めまい」や「ふらつき」から始まることが多いため、軽視されがちです。しかし、その背後には脳の重要部位への血流障害が潜んでおり、放置すれば脳梗塞や重大な神経障害へつながる可能性もあります。
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繰り返すめまいやふらつきがある場合は、早期に脳神経内科を受診することが重要です。
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原因の多くは生活習慣病や加齢による血管の変化であり、予防と再発防止には日常生活の見直しが不可欠です。
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首の姿勢や動きが関連するケースもあるため、日常の動作にも注意を払う必要があります。
めまいは身体からの重要なサインです。適切な医療機関で検査を受け、正しい診断と治療を受けることが、健康を守る第一歩となります。