甲状腺機能検査とは?TSH・FT3・FT4の基準値と異常を徹底解説

甲状腺機能検査は、首の前面にある甲状腺という小さな臓器が正常に働いているかを調べる血液検査です。甲状腺は体の新陳代謝を調節する甲状腺ホルモンを分泌しており、このホルモンのバランスが崩れると、さまざまな体調不良を引き起こします。

検査項目には主にTSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT3(遊離トリヨードサイロニン)、FT4(遊離サイロキシン)があり、これらの値を測定することで、甲状腺の機能が正常か、亢進しているか、低下しているかを判断できます。

本記事では、甲状腺機能検査の基本知識から各検査項目の意味、基準値、異常値が示す疾患、そして検査を受ける際の注意点まで、わかりやすく解説していきます。

甲状腺とは?その役割と重要性

甲状腺は、のどぼとけの下に位置する蝶のような形をした内分泌器官です。重さは約15~20グラムと小さな臓器ですが、体の代謝を司る甲状腺ホルモンを分泌し、全身のさまざまな機能に影響を与える重要な役割を担っています。

甲状腺ホルモンは、体温の調節、心拍数の維持、エネルギー代謝の促進、成長と発達の支援など、生命活動に欠かせない働きをしています。子どもの場合は、脳の発達や身体の成長にも深く関わっています。

甲状腺ホルモンの分泌が多すぎると代謝が過剰に活発になり、逆に少なすぎると代謝が低下します。どちらの状態も健康に悪影響を及ぼすため、適切なバランスを保つことが重要です。

甲状腺ホルモンの種類と働き

甲状腺から分泌される主なホルモンには、T4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)の2種類があります。T4は甲状腺ホルモンの約90%を占め、体内でT3に変換されます。T3は実際に細胞に作用する活性型ホルモンで、T4の約3~4倍の生理活性を持っています。

これらのホルモンは、ヨウ素を原料として作られます。そのため、ヨウ素の摂取不足や過剰摂取は、甲状腺機能に影響を与える可能性があります。日本人は海藻類を多く摂取するため、ヨウ素不足は稀ですが、過剰摂取には注意が必要です。

甲状腺ホルモンの分泌は、脳の視床下部と下垂体によって精密にコントロールされています。この調節システムに異常が生じると、甲状腺機能の異常につながります。

甲状腺機能検査の主な項目と意味

甲状腺機能検査では、主に3つの項目が測定されます。それぞれの項目が持つ意味を理解することで、検査結果をより深く理解できるようになります。

TSH(甲状腺刺激ホルモン)

TSHは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの分泌を促す役割を果たします。TSH値は、甲状腺機能を評価する上で最も重要な指標とされています。

血液中の甲状腺ホルモンが少なくなると、それを補うためにTSHの分泌が増加します。逆に、甲状腺ホルモンが過剰になると、TSHの分泌は抑制されます。このように、TSHは甲状腺ホルモンの量を調節するフィードバック機構の中心的な役割を担っています。

TSHの基準値は一般的に0.5~5.0μU/mL程度です(検査機関によって若干異なります)。TSH値が高い場合は甲状腺機能低下症、低い場合は甲状腺機能亢進症が疑われます。

FT4(遊離サイロキシン)

FT4は、血液中を自由に循環しているT4ホルモンのことです。血液中のT4の大部分はタンパク質と結合していますが、実際に生理活性を持つのはタンパク質と結合していない遊離型(Free)のT4です。

FT4の基準値は、おおむね0.9~1.7ng/dL程度です。FT4が高値の場合は甲状腺機能亢進症、低値の場合は甲状腺機能低下症を示唆します。FT4はT3の前駆体であり、体内で必要に応じてT3に変換されます。

FT4値は、甲状腺そのものの機能を直接反映するため、甲状腺疾患の診断や治療効果の判定に重要な指標となります。

FT3(遊離トリヨードサイロニン)

FT3は、血液中を自由に循環しているT3ホルモンです。T3はT4よりも強力な生理活性を持ち、細胞の代謝を直接調節します。FT3の基準値は、一般的に2.3~4.0pg/mL程度です。

通常、甲状腺機能のスクリーニングではTSHとFT4が測定され、必要に応じてFT3が追加されます。特に、甲状腺機能亢進症の初期段階では、FT3だけが上昇し、FT4は正常という「T3優位型」の状態が見られることがあります。

また、治療中の経過観察や、甲状腺疾患の病型を詳しく診断する際にも、FT3の測定が有用です。

甲状腺機能検査の基準値と異常パターン

甲状腺機能検査の結果は、TSH、FT4、FT3の組み合わせによって解釈されます。それぞれの値がどのように変動しているかによって、異なる病態が推測されます。

甲状腺機能亢進症のパターン

甲状腺機能亢進症では、TSHが低値(またはほぼ検出されないレベル)、FT4とFT3が高値を示すのが典型的なパターンです。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるため、フィードバック機構によってTSHの分泌が抑制されます。

代表的な疾患は、自己免疫疾患であるバセドウ病です。バセドウ病では、甲状腺を刺激する抗体(TSH受容体抗体)が作られ、甲状腺が過剰に刺激されて、ホルモンの分泌が増加します。

その他、甲状腺の一部が自律的にホルモンを産生するプランマー病(中毒性結節性甲状腺腫)や、無痛性甲状腺炎の初期段階でも、甲状腺機能亢進症のパターンが見られることがあります。

甲状腺機能低下症のパターン

甲状腺機能低下症では、TSHが高値、FT4とFT3が低値を示します。甲状腺ホルモンの分泌が不足しているため、それを補おうとしてTSHの分泌が増加します。

最も一般的な原因は、慢性甲状腺炎(橋本病)です。橋本病は自己免疫疾患で、自分の免疫系が甲状腺を攻撃し、徐々に甲状腺の機能が低下していきます。日本人女性に特に多く見られる疾患です。

その他、甲状腺の手術後、放射性ヨウ素治療後、ヨウ素過剰摂取、特定の薬剤の使用などでも、甲状腺機能低下症が生じることがあります。

潜在性甲状腺機能異常

TSHだけが異常値を示し、FT4とFT3は正常範囲内にある状態を、潜在性甲状腺機能異常と呼びます。潜在性甲状腺機能低下症では、TSHが軽度高値でFT4は正常を示します。

この状態は、将来的に顕性の甲状腺機能低下症に進行する可能性があります。症状がない場合は経過観察となることが多いですが、TSH値が10μU/mL以上の場合や、症状がある場合、妊娠を希望する女性などでは、治療が検討されます。

潜在性甲状腺機能亢進症では、TSHが低値でFT4とFT3は正常です。心房細動や骨粗鬆症のリスクが高まる可能性があるため、定期的な経過観察が重要です。

甲状腺機能異常の症状

甲状腺機能の異常は、全身にさまざまな症状を引き起こします。症状を知っておくことで、早期発見につながります。

甲状腺機能亢進症の症状

甲状腺機能亢進症では、代謝が過剰に活発になるため、動悸、頻脈、体重減少、多汗、手指の震え、イライラ感などの症状が現れます。食欲は増加するにもかかわらず、体重が減少するのが特徴的です。

その他、暑がり、疲れやすい、集中力の低下、不眠、下痢、月経不順などの症状も見られます。バセドウ病では、眼球突出や甲状腺腫大(首の腫れ)を伴うことがあります。

高齢者では、これらの典型的な症状が乏しく、無気力や心房細動などの心臓症状が主体となることがあり、診断が遅れる場合があります。

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下症では、代謝が低下するため、疲労感、体重増加、寒がり、便秘、皮膚の乾燥、むくみなどの症状が現れます。動作や思考が緩慢になり、無気力感や抑うつ気分を伴うこともあります。

その他、脱毛、声のかすれ、記憶力の低下、月経過多、筋肉のこわばりなども見られます。症状は徐々に進行するため、本人や周囲が気づきにくいことがあります。

特に高齢者では、認知症と間違われることもあります。また、コレステロール値の上昇や、心機能の低下を伴うこともあります。

甲状腺機能検査を受ける際の注意点

甲状腺機能検査は、通常の血液検査と同様に、腕の静脈から採血して行います。特別な前処置は不要で、食事の影響もほとんど受けないため、空腹時でなくても検査が可能です。

ただし、ヨウ素を多く含む食品(昆布、わかめ、海苔など)やヨウ素含有のサプリメント、造影剤を使用した検査を受けた場合は、甲状腺機能に一時的な影響を与える可能性があります。検査前には医師にその旨を伝えておくことが望ましいです。

また、ビオチン(ビタミンB7)のサプリメントを大量に摂取していると、検査結果に誤差が生じる可能性があります。サプリメントを服用している場合は、医師や検査技師に申告してください。

検査結果に影響を与える薬剤

いくつかの薬剤は、甲状腺機能や検査結果に影響を与えることがあります。リチウム、アミオダロン、インターフェロンなどは、甲状腺機能自体に影響を与える可能性があります。

また、ステロイド薬やドパミン作動薬は、TSH値を抑制することがあります。エストロゲン製剤(経口避妊薬やホルモン補充療法)は、総T4値を上昇させますが、FT4には影響しません。

現在服用中の薬がある場合は、必ず医師に伝えてください。薬剤による影響を考慮して、検査結果を解釈する必要があります。

甲状腺機能異常が見つかったときの対応

健康診断や人間ドックで甲状腺機能の異常が指摘された場合は、内分泌内科や甲状腺専門医を受診することをお勧めします。詳しい検査を受けて、原因を特定し、適切な治療方針を決定します。

追加検査としては、甲状腺の自己抗体(抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体、TSH受容体抗体など)の測定、甲状腺超音波検査、必要に応じて甲状腺シンチグラフィーなどが行われます。

治療法は、疾患の種類や重症度によって異なります。甲状腺機能亢進症では、抗甲状腺薬、放射性ヨウ素治療、手術などが選択肢となります。甲状腺機能低下症では、不足している甲状腺ホルモンを補充する薬物療法が基本となります。

定期的な検査の重要性

甲状腺疾患は慢性的な経過をたどることが多く、定期的な検査とフォローアップが重要です。治療中の方は、医師の指示に従って定期的に血液検査を受け、薬の量を調整します。

また、家族に甲状腺疾患の方がいる場合、甲状腺疾患のリスクが高まります。特に女性は、妊娠・出産、更年期などのライフイベントで甲状腺機能が変動しやすいため、定期的なチェックが推奨されます。

潜在性甲状腺機能異常と診断された方も、定期的な検査によって、顕性の甲状腺機能異常への進行を早期に発見できます。

まとめ

甲状腺機能検査は、TSH、FT4、FT3の値を測定することで、甲状腺の働きを評価する重要な検査です。TSHは下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激します。FT4とFT3は甲状腺から分泌されるホルモンで、体の代謝を調節しています。

TSHが低くFT4・FT3が高い場合は甲状腺機能亢進症、TSHが高くFT4・FT3が低い場合は甲状腺機能低下症が疑われます。バセドウ病や橋本病などの疾患が代表的です。症状には、動悸、体重変動、疲労感、体温調節の異常などがあります。

検査は簡単な血液検査で行えますが、服用中の薬剤やサプリメントについては事前に医師に伝えることが重要です。異常が見つかった場合は、専門医を受診して詳しい検査を受け、適切な治療を開始しましょう。定期的な検査とフォローアップによって、甲状腺の健康を保つことができます。

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20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。