近年、糖尿病患者数は増加の一途をたどり、日本では約1,000万人が糖尿病、さらに予備群を含めると約2,000万人に達すると推定されています。糖代謝検査は、糖尿病の早期発見や血糖コントロールの評価に欠かせない重要な検査です。本記事では、糖代謝検査の各項目の意味と基準値、糖尿病の診断基準、そして予防・改善方法について詳しく解説していきます。
目次
糖代謝検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
糖代謝検査は、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度や、過去の血糖状態を反映する指標を測定する検査です。食事から摂取した糖質は、消化されてブドウ糖となり、血液中に吸収されます。
健康な人では、インスリンというホルモンの働きで血糖値が適切にコントロールされています。しかし、インスリンの分泌不足や働きの低下により、血糖値が慢性的に高い状態が続くと、糖尿病と診断されます。
糖尿病を放置すると、網膜症、腎症、神経障害などの合併症を引き起こし、生活の質を大きく低下させます。また、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
糖代謝検査の主な項目
糖代謝検査では、主に以下の項目が測定されます。
空腹時血糖値:10時間以上絶食後の血糖値
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):過去1~2か月間の平均血糖値を反映
グリコアルブミン(GA):過去2週間程度の平均血糖値を反映
食後血糖値:食事後の血糖値
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT):ブドウ糖を飲んで血糖値とインスリンの変化を調べる精密検査
これらの検査を組み合わせることで、糖尿病の診断や血糖コントロール状態の評価を正確に行うことができます。
検査を受ける際の注意点
空腹時血糖値の測定では、前日の夕食後から10時間以上絶食する必要があります。水やお茶など無糖の飲み物は摂取可能ですが、ジュースやコーヒーに砂糖を入れることは避けてください。
一方、HbA1cは過去の血糖状態を反映するため、食事の影響を受けません。そのため、空腹でなくても測定可能です。
激しい運動やストレス、体調不良は血糖値に影響を与えることがあるため、検査前は安静にしていることが望ましいです。
空腹時血糖値の基準値と評価
空腹時血糖値は、10時間以上絶食した状態で測定する血糖値です。糖尿病の診断に最も基本的な検査項目です。
空腹時血糖値の基準値
正常型:110mg/dL未満
正常高値:100~109mg/dL
境界型(糖尿病予備群):110~125mg/dL
糖尿病型:126mg/dL以上
空腹時血糖値が126mg/dL以上の場合、糖尿病が強く疑われます。ただし、1回の検査だけでは診断は確定せず、別の日に再検査を行って確認します。
空腹時血糖値が高くなる原因
2型糖尿病
日本の糖尿病患者の約95%を占めます。遺伝的要因と生活習慣(過食、運動不足、肥満、ストレス)が重なって発症します。インスリンの分泌低下や働きの低下(インスリン抵抗性)が原因です。
1型糖尿病
自己免疫機序により、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなります。若年で発症することが多いです。
妊娠糖尿病
妊娠中に初めて発見される糖代謝異常です。出産後は正常化することが多いですが、将来的に糖尿病を発症するリスクが高くなります。
その他の原因
膵臓の病気(慢性膵炎、膵臓がんなど)、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症、クッシング症候群など)、薬剤(ステロイドなど)によっても血糖値が上昇することがあります。
空腹時血糖値が低い場合
空腹時血糖値が70mg/dL未満の場合、低血糖と判定されます。糖尿病治療薬の使用、インスリノーマ(インスリンを過剰に分泌する腫瘍)、肝臓の病気、内分泌疾患などが原因となります。
低血糖では、冷や汗、動悸、手の震え、空腹感、頭痛、眠気などの症状が現れ、重症の場合は意識障害を起こすこともあります。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の基準値と重要性
HbA1cは、過去1~2か月間の平均的な血糖状態を反映する非常に重要な指標です。赤血球に含まれるヘモグロビンに糖が結合した割合を測定します。
HbA1cの基準値
正常:5.6%未満
正常高値:5.6~5.9%
糖尿病予備群:6.0~6.4%
糖尿病型:6.5%以上
HbA1cが6.5%以上の場合、糖尿病が強く疑われます。空腹時血糖値と同様に、別の日に再検査を行って診断を確定します。
HbA1cの利点
HbA1cには以下のような利点があります。
食事の影響を受けない
空腹でなくても測定可能で、いつでも検査できます。
過去の血糖状態を反映
その時点の血糖値だけでなく、過去1~2か月間の平均的な血糖コントロール状態がわかります。
日内変動が少ない
血糖値のように時間帯や食事によって大きく変動しないため、血糖コントロールの評価に適しています。
そのため、糖尿病の診断だけでなく、治療効果の判定にも広く用いられています。
HbA1cの管理目標
糖尿病と診断された方のHbA1c管理目標は、年齢や合併症の有無、低血糖のリスクなどを考慮して個別に設定されます。
一般的な目標:7.0%未満
より厳格な目標(若年で合併症なし):6.0%未満
緩やかな目標(高齢者や低血糖リスクが高い方):8.0%未満
HbA1cが7.0%未満に維持されると、糖尿病の慢性合併症(網膜症、腎症、神経障害)の発症や進行を抑制できることが多くの研究で示されています。
HbA1cの注意点
HbA1cは赤血球の寿命(約120日)を前提とした検査のため、貧血や溶血性貧血、腎不全などで赤血球の寿命が短い場合、実際の血糖状態よりも低く測定されることがあります。
逆に、鉄欠乏性貧血では高く測定されることがあります。このような場合は、グリコアルブミンなど他の指標を併用します。
グリコアルブミン(GA)の特徴と活用
グリコアルブミンは、血液中のアルブミンというタンパク質に糖が結合した割合を測定する検査です。
グリコアルブミンの基準値
正常:16.5%未満
糖尿病のコントロール目標:20%未満
グリコアルブミンは、過去2週間程度の平均血糖値を反映します。アルブミンの半減期(約17日)がヘモグロビンより短いためです。
グリコアルブミンの活用場面
HbA1cが使えない場合
貧血や溶血性疾患など、HbA1cの測定値が不正確になる場合に有用です。
短期間の血糖変動を評価したい場合
治療開始後の効果判定や、血糖コントロールが急激に変化した場合の評価に適しています。
妊娠糖尿病
妊娠中は血糖コントロールを厳格に行う必要があり、短期間での評価が重要なため、グリコアルブミンが活用されます。
HbA1cとの比較
HbA1cは長期的な血糖コントロールの指標として、グリコアルブミンは短期的な変動を捉える指標として、それぞれの特性を活かして使い分けられます。
一般的には、HbA1cを主要な指標とし、必要に応じてグリコアルブミンを併用する形が多いです。
食後血糖値と糖尿病リスク
食後血糖値は、食事開始から2時間後の血糖値を測定します。
食後血糖値の基準値
正常:140mg/dL未満
境界型:140~199mg/dL
糖尿病型:200mg/dL以上
食後2時間血糖値が200mg/dL以上で、かつ典型的な糖尿病症状(多尿、口渇、体重減少など)がある場合、1回の検査で糖尿病と診断されることがあります。
食後高血糖の重要性
糖尿病の初期段階では、空腹時血糖値は正常でも、食後血糖値だけが上昇する「食後高血糖」の状態になることがあります。
食後高血糖は、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることが知られています。そのため、空腹時血糖値だけでなく、食後血糖値も評価することが重要です。
最近では、連続血糖測定器(CGM)やフラッシュグルコースモニタリング(FGM)を使用して、24時間の血糖変動を詳細に把握する方法も普及してきています。
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の方法と評価
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)は、糖尿病の診断や糖代謝異常の評価に用いられる精密検査です。
検査の方法
10時間以上絶食した状態で来院し、まず空腹時の血糖値を測定します。その後、75gのブドウ糖を溶かした液体を飲み、30分後、1時間後、2時間後に血糖値を測定します。
同時にインスリンの値も測定することがあり、インスリンの分泌能力やインスリン抵抗性を評価できます。
OGTTによる診断基準
正常型
空腹時血糖値110mg/dL未満、かつ2時間値140mg/dL未満
境界型(糖尿病予備群)
正常型にも糖尿病型にも該当しない場合
糖尿病型
空腹時血糖値126mg/dL以上、または2時間値200mg/dL以上
境界型と判定された方は、将来的に糖尿病を発症するリスクが高いため、生活習慣の改善と定期的な検査が重要です。
OGTTが必要な場合
以下のような場合に、OGTTが推奨されます。
空腹時血糖値が110~125mg/dLの境界型の方
HbA1cが6.0~6.4%の方
食後高血糖が疑われる方
妊婦で妊娠糖尿病のスクリーニングが必要な方
糖尿病の家族歴がある方
肥満や高血圧などの危険因子を持つ方
糖尿病の診断基準
糖尿病は、以下の基準に基づいて診断されます。
診断基準(日本糖尿病学会)
以下のいずれかに該当する場合、糖尿病型と判定されます。
空腹時血糖値126mg/dL以上
75gOGTTで2時間値200mg/dL以上
随時血糖値200mg/dL以上
HbA1c 6.5%以上
糖尿病型と判定された場合でも、別の日に再検査を行い、再び糖尿病型が確認された場合に糖尿病と診断されます。
ただし、典型的な糖尿病症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)や、糖尿病網膜症がある場合は、1回の検査で診断が確定します。
血糖値とHbA1cの組み合わせによる診断
血糖値(空腹時または75gOGTT 2時間値または随時)とHbA1cの両方が糖尿病型の場合、初回検査のみで糖尿病と診断できます。
どちらか一方のみが糖尿病型の場合は、別の日に再検査が必要です。
糖尿病を予防・改善するための生活習慣
糖尿病の予防や血糖コントロールの改善には、生活習慣の見直しが最も重要です。
食事療法
適切なエネルギー摂取
自分に必要なエネルギー量を守り、食べすぎを避けます。標準体重×25~30kcalが目安です。
バランスの良い食事
炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂取します。食物繊維を多く含む野菜、海藻、きのこ、豆類を積極的に摂ることで、血糖値の上昇を緩やかにできます。
食べる順番
野菜(食物繊維)→タンパク質(肉、魚)→炭水化物(ご飯、パン)の順に食べることで、血糖値の急上昇を防げます。
低GI食品の選択
GI(グリセミック・インデックス)が低い食品は、血糖値の上昇が緩やかです。玄米、全粒粉パン、そばなどがお勧めです。
間食の工夫
甘いお菓子や清涼飲料水は避け、どうしても間食する場合はナッツ類やチーズなどを選びます。
運動療法
運動は、インスリンの働きを改善し、血糖値を下げる効果があります。
有酸素運動
ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどを、週3~5回、1回30分以上行います。
レジスタンス運動(筋力トレーニング)
週2~3回の筋トレは、筋肉量を増やし、基礎代謝を上げることで血糖コントロールを改善します。
食後の運動
食後30分~1時間後に軽い運動を行うと、食後血糖値の上昇を抑える効果が高いです。
その他の生活習慣
体重管理
肥満(BMI 25以上)の方は、5~10%の体重減少を目指しましょう。体重が減ると、インスリン抵抗性が改善します。
禁煙
喫煙は、インスリンの働きを低下させ、血糖コントロールを悪化させます。
適度な飲酒
過度の飲酒は血糖コントロールを悪化させます。適量(1日ビール500mL程度)を守りましょう。
ストレス管理
ストレスホルモンは血糖値を上昇させます。十分な睡眠とリラックスする時間を持ちましょう。
定期的な検査の重要性
糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどありません。年に1回以上の定期的な検査で早期発見し、早期に対応することが重要です。
特に、家族に糖尿病患者がいる方、肥満の方、40歳以上の方は、定期的に糖代謝検査を受けることをお勧めします。
まとめ
糖代謝検査は、糖尿病の診断と血糖コントロールの評価に不可欠な検査です。空腹時血糖値126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上が糖尿病型の基準です。HbA1cは過去1~2か月間の平均血糖を反映し、食事の影響を受けないため、診断や治療効果の判定に広く用いられます。グリコアルブミンは短期間の血糖変動を評価でき、75g経口ブドウ糖負荷試験は境界型の診断に有用です。
糖尿病の予防と改善には、適切なエネルギー摂取と食物繊維の多い食事、有酸素運動と筋力トレーニング、体重管理が重要です。糖尿病は自覚症状が乏しいため、定期的な検査による早期発見が大切です。異常を指摘されたら、生活習慣の改善に積極的に取り組みましょう。










