子宮頸がん検診とは?細胞診とHPV検査を徹底解説

子宮頸がん検診は、子宮の入り口部分(子宮頸部)にできるがんを早期に発見するための検査です。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因で発症することが明らかになっており、定期的な検診により、がんになる前の異常(前がん病変)の段階で発見・治療することができます。

検査方法には、子宮頸部の細胞を採取して顕微鏡で調べる細胞診と、HPVの感染を調べるHPV検査があります。近年では、従来の細胞診に加えて、より精度の高いLBC法(液状化検体細胞診)や、HPV検査との併用検診も普及してきています。

本記事では、子宮頸がん検診の方法、細胞診の結果の見方(ベセスダシステム)、HPV検査の意義、検査を受けるべき年齢と頻度、異常が見つかった場合の対応まで、わかりやすく解説していきます。

子宮頸がんとその原因

子宮頸がんは、子宮の入り口部分(子宮頸部)にできる悪性腫瘍です。かつては日本の女性のがんによる死亡原因の第1位でしたが、検診の普及により死亡率は大幅に低下しました。しかし、近年は20~30代の若い女性での発症が増加傾向にあり、注意が必要です。

子宮頸がんのほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因です。HPVは性交渉により感染するウイルスで、性経験のある女性の約80%が一生のうちに一度は感染すると言われています。

多くの場合、HPVに感染しても免疫の働きで自然に排除されますが、一部の人では感染が持続し、数年から十数年かけて前がん病変(異形成)を経て、がんへと進行します。この長い経過があるため、定期的な検診により早期発見が可能なのです。

HPV(ヒトパピローマウイルス)とは

HPVには150種類以上の型があり、そのうち子宮頸がんの原因となるのは高リスク型HPVと呼ばれる約15種類です。特にHPV16型と18型は、子宮頸がんの約70%を占める重要な型です。

HPVは非常にありふれたウイルスで、性交渉の経験があれば誰でも感染する可能性があります。しかし、感染したからといって必ずがんになるわけではありません。約90%の感染は2年以内に自然消失します。

問題となるのは、感染が長期間持続した場合です。持続感染により子宮頸部の細胞に異常が生じ、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成という段階を経て、最終的にがんへと進行する可能性があります。

子宮頸がん検診の方法

子宮頸がん検診は、主に細胞診とHPV検査の2つの方法があります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

子宮頸部細胞診

細胞診は、子宮頸部の表面から細胞を採取し、顕微鏡で観察して異常な細胞がないかを調べる検査です。子宮頸がん検診の基本となる検査で、簡便かつ精度が高いことから、世界中で広く実施されています。

検査は、内診台に座った状態で行われます。膣鏡(クスコ)という器具を膣内に挿入して子宮頸部を観察し、専用のブラシやヘラで子宮頸部の表面を軽くこすって細胞を採取します。

採取にかかる時間は数秒程度で、通常は痛みをほとんど感じません。採取後に少量の出血がある場合がありますが、通常は数時間から1日程度で止まります。検査後の日常生活に特別な制限はありませんが、当日の性交渉や入浴は控えることが推奨されます。

従来法とLBC法(液状化検体細胞診)

細胞診には、従来法とLBC法の2つの方法があります。従来法は、採取した細胞をスライドガラスに直接塗抹して固定する方法です。長年使用されてきた標準的な方法ですが、細胞が重なったり乾燥したりして、判定が難しい場合があります。

LBC法(Liquid-Based Cytology)は、採取した細胞を専用の保存液に入れて保存し、機械的に処理して薄く均一な標本を作成する方法です。細胞の重なりが少なく、きれいな標本が得られるため、診断精度が向上します。

LBC法のもう一つの利点は、同じ検体からHPV検査も実施できることです。一度の細胞採取で両方の検査が可能になるため、患者さんの負担が軽減されます。近年では、多くの医療機関でLBC法が採用されるようになっています。

HPV検査

HPV検査は、子宮頸部に高リスク型HPVが感染しているかどうかを調べる検査です。細胞診と同様に、子宮頸部から細胞を採取して検査します。採取方法は細胞診と同じで、痛みもほとんどありません。

HPV検査には、高リスク型HPVの有無を調べる検査(HPV DNA検査またはHPV RNA検査)と、特定の型(16型、18型など)を識別する型別検査があります。

HPV検査は、細胞診よりも感度が高く、異常を見逃しにくいという利点があります。しかし、若年者では一時的な感染が多く、不要な精密検査や治療につながる可能性があるため、一般的には30歳以上の方に推奨されます。

ベセスダシステムによる細胞診の結果

日本では、子宮頸部細胞診の結果報告にベセスダシステム(The Bethesda System)という国際的な分類が広く用いられています。このシステムでは、細胞の異常の程度を明確に示すことができます。

NILM(ニルム):陰性(異常なし)

NILMは「Negative for Intraepithelial Lesion or Malignancy」の略で、上皮内病変や悪性を示す所見なし、つまり異常なしという意味です。子宮頸がん検診の結果として最も望ましい状態です。

NILM判定の場合は、通常通り定期的な検診(通常は2年に1回)を継続することが推奨されます。ただし、HPV陽性の場合やリスク要因がある場合は、より短い間隔での検診が推奨されることがあります。

ASC-US(アスカス):意義不明な異型扁平上皮細胞

ASC-USは「Atypical Squamous Cells of Undetermined Significance」の略で、異常な扁平上皮細胞が見られるが、その意義が不明という判定です。明らかな病変とは言えないが、完全に正常とも言い切れない微妙な細胞変化が見られる状態です。

ASC-US判定の場合、HPV検査が推奨されます。HPV陰性であれば経過観察、HPV陽性であればコルポスコープ(膣拡大鏡)を用いた精密検査が必要になります。

ASC-USの多くは一時的な変化で、経過観察中に自然に正常化することが多いです。過度に心配する必要はありませんが、指示通りに精密検査や経過観察を受けることが重要です。

LSIL(エルシル):軽度扁平上皮内病変

LSILは「Low-grade Squamous Intraepithelial Lesion」の略で、軽度の異形成(CIN1)に相当します。HPV感染による細胞の変化が見られる状態で、多くの場合、免疫の働きで自然に消失します。

LSIL判定の場合、コルポスコープ検査と組織診(子宮頸部の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)が推奨されます。組織診で軽度異形成が確認された場合は、通常は経過観察となります。

多くの場合、2年以内に自然に正常化しますが、一部は持続したり進行したりするため、定期的な検査が必要です。

ASC-H:高度扁平上皮内病変を除外できない異型扁平上皮細胞

ASC-Hは「Atypical Squamous Cells, cannot exclude HSIL」の略で、高度な異常の可能性を否定できない細胞変化が見られる状態です。ASC-USよりも高度な病変が隠れている可能性が高い判定です。

ASC-H判定の場合、速やかにコルポスコープ検査と組織診を受ける必要があります。約20~40%の症例で高度異形成以上の病変が発見されるため、精密検査が重要です。

HSIL(エイチシル):高度扁平上皮内病変

HSILは「High-grade Squamous Intraepithelial Lesion」の略で、中等度から高度の異形成(CIN2、CIN3)に相当します。がんへと進行するリスクが高い前がん病変です。

HSIL判定の場合、コルポスコープ検査と組織診が必須です。組織診で高度異形成が確認された場合、通常は治療(円錐切除術など)が推奨されます。適切な治療により、ほぼ100%治癒します。

SCC:扁平上皮がん、AGC・AIS・Adenocarcinoma:腺系の異常

SCCは扁平上皮がんが疑われる判定で、速やかな精密検査と治療が必要です。AGC、AIS、Adenocarcinomaは、腺細胞の異常を示す判定で、こちらも精密検査が必須です。

これらの判定が出た場合は、婦人科専門医(特に子宮頸がんの治療経験が豊富な医師)を速やかに受診し、適切な検査と治療を受けることが重要です。

子宮頸がん検診を受けるべき年齢と頻度

日本では、20歳以上の女性に2年に1回の子宮頸がん検診が推奨されています。市区町村の住民検診では、20歳以上の女性を対象に、多くの場合は無料または低額で検診を受けることができます。

20歳未満では、HPV感染が一時的であることが多く、不必要な精密検査や治療につながる可能性があるため、一般的には検診の対象とされていません。

検診の上限年齢は特に定められていませんが、70歳以上で過去10年間に異常がなかった方は、検診を終了することも選択肢の一つです。ただし、症状がある場合や、医師が必要と判断した場合は、年齢に関係なく検査を受けるべきです。

HPV検査併用検診

近年、細胞診とHPV検査を併用する検診方法が注目されています。30歳以上の女性に対して、細胞診とHPV検査を同時に実施することで、より高い精度で子宮頸がんやその前段階を発見できます。

両方の検査が陰性の場合、次回の検診までの間隔を3~5年に延ばすことができます。これは、HPV検査の高い陰性的中率(陰性であれば本当に病気がない確率)によるものです。

ただし、HPV検査併用検診は、まだすべての自治体で実施されているわけではありません。希望する場合は、自費で受けることも可能です。

精密検査と治療

細胞診で異常が指摘された場合、コルポスコープ検査と組織診という精密検査を受けることになります。

コルポスコープ検査

コルポスコープは、膣拡大鏡とも呼ばれ、子宮頸部を数倍から数十倍に拡大して観察する器具です。特殊な薬液を塗布することで、異常な部分を識別しやすくします。

検査は内診台で行われ、膣鏡を挿入した状態でコルポスコープを用いて子宮頸部を観察します。異常が疑われる部分があれば、その部位から組織を採取します(組織診)。

組織採取時に軽い痛みや出血がありますが、通常は軽度です。採取した組織は病理検査に提出され、1~2週間後に結果が判明します。

治療方法

軽度異形成(CIN1)の場合、多くは自然に消失するため、通常は経過観察となります。3~6か月ごとに細胞診やコルポスコープ検査を繰り返し、変化を追跡します。

中等度から高度の異形成(CIN2、CIN3)の場合、治療が推奨されます。最も一般的な治療法は、円錐切除術です。これは、子宮頸部の異常な部分を円錐状に切除する手術で、診断と治療を兼ねています。

円錐切除術は、通常は局所麻酔または腰椎麻酔下で行われ、入院期間は数日程度です。切除した組織は病理検査に提出され、がんの有無や切除範囲の適切性が確認されます。適切に治療されれば、将来の妊娠・出産も可能です。

まとめ

子宮頸がん検診は、細胞診とHPV検査により、子宮頸がんとその前がん病変を早期に発見する検査です。ベセスダシステムによる分類で結果が報告され、NILM(異常なし)からHSIL、がんまで、異常の程度に応じた適切な対応が取られます。

検診は20歳以上の女性に2年に1回推奨されており、異常が見つかった場合は、コルポスコープ検査と組織診による精密検査が行われます。前がん病変の段階で発見・治療することで、子宮頸がんはほぼ100%予防できます。

子宮頸がんは、定期的な検診により予防できる数少ないがんの一つです。20歳を過ぎたら定期的に検診を受け、異常が指摘された場合は速やかに精密検査を受けることが大切です。自分の健康を守るために、積極的に検診を活用しましょう。

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20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。