食道がんとは?初期症状から治療法・予防まで徹底解説

食道がんは自覚症状が現れにくく、気づかないうちに進行してしまうこともある怖い病気です。

特に初期段階では症状が軽微で見逃されやすく、発見が遅れるケースも少なくありません。本記事では食道がんの基本知識から、初期症状や見逃しやすい兆候、主な原因とリスク因子、診断方法と進行度(ステージ)分類、治療法の種類、進行による身体への影響や起こりうる合併症、予防のための生活習慣、そして日常生活で気をつけることや治療後の注意点までを総合的に解説します。

食道がんの定義と基本知識

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食道がんとは、喉(咽頭)と胃をつなぐ長さ約25~30cmの食道の粘膜から発生する悪性腫瘍です。

食道の内側を覆う粘膜上皮の細胞ががん化して増殖し、どの部位にも生じる可能性がありますが、日本人では約半数が胸部中部(食道の中央付近)に発生します。まれに食道内に複数のがんが同時にできることもあります。

日本の食道がんの約90%は扁平上皮がん(食道の粘膜の最も内側にある扁平上皮から発生するタイプ)で、約7%が腺がん(胃酸の逆流による炎症から生じるバレット食道などに由来するタイプ)とされています。後者の腺がんは欧米で多く、日本ではまだ少数ですが近年増加傾向があります。

食道がんは男性に多い疾患で、男性は女性より約5倍発症しやすく、発症年齢も50~60代以降に増加する傾向があります。食道の壁は内側から粘膜→粘膜下層→筋層→外膜の順に4層構造になっており、がんが進行すると徐々に深い層へと浸潤していきます。

初期に粘膜内にとどまる場合を早期食道がん、粘膜下層までにとどまる場合を表在食道がん、それより深く筋層や外膜まで達したものを進行食道がんと呼びます。

食道がんが大きくなると食道壁を突き破って外側の臓器(気管、肺、大動脈、心臓など)に直接広がることがあり、さらにリンパ管や血流に乗ってリンパ節や肺・肝臓など遠くの臓器へ転移します。

このように食道がんは進行すると周囲への浸潤や遠隔転移を起こしやすく、治療が難しくなるため、早期発見・治療が極めて重要です。

初期症状と見逃されやすい兆候

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食道がんは初期には自覚症状がほとんどありません

がんが小さいうちは痛みや不調を感じにくいため、人間ドックや検診の胃カメラで偶然見つかることもあります。やがて腫瘍が大きくなり食道の内腔が狭くなってくると、少しずつ症状が現れ始めます。代表的な兆候には次のようなものがあります。

胸の違和感・軽い痛み

飲食物を飲み込んだ際に胸の奥がチクチクと刺すように痛んだり、熱い飲み物を飲んだときにしみる感じがすることがあります。これは食道の粘膜にがんができているサインで、特に早期発見の手がかりとなる重要な症状です。

しかし、こうした違和感や痛みは一時的に消えてしまうことも多く、つい「胃もたれかな」「胃炎かな」と見逃されやすい点に注意が必要です。胸やけやのどの違和感といった症状も、人によっては現れることがありますが、逆流性食道炎など他の病気と区別がつきにくいため見過ごされることがあります。

嚥下障害(飲み込みにくさ)

がんが大きくなり食道内が狭まってくると、食べ物が喉や胸につかえる感じ(停滞感)を覚えるようになります。

初めは固いものや大きな食べ物で感じる程度ですが、さらに進行すると柔らかい食べ物や液体ですら飲み込みづらくなります。食事に時間がかかったり、水で流し込まないと飲み込めないといった状態になったら注意が必要です。嚥下障害が起こる段階ではかなり病変が大きくなっていることが多いため、この症状を決して放置してはいけません

体重減少・食欲不振

食べ物がスムーズに通らなくなると食事量が減り、栄養不足に陥ります。その結果として体重が減少したり、全身の倦怠感を感じたりします。

特に意識していないのに体重がみるみる落ちていく場合、何らかの病気が隠れている可能性があり、食道がんもその一つです。体重減少は進行がんによく見られるサインですが、「年齢のせいかな」などと見過ごさず原因を調べることが大切です。

胸や背中の痛み

がんが食道壁を越えて周囲の臓器(肺や胸骨、背骨、大動脈など)に浸潤すると、胸の奥や背中に痛みを感じることがあります。進行した食道がんでは胸部の鈍い痛みや背部痛が持続することがありますが、これも心臓病や筋肉痛と誤解されやすい症状です。

咳・嗄声(声がかすれる)

大きくなった腫瘍が気管や気管支を圧迫・侵食すると、その刺激で慢性的な咳が出ることがあります。

また、声帯を動かす神経(反回神経)にまでがんが及ぶと、声帯の麻痺によって声がかすれる(嗄声)症状が現れます。長引く咳や声のかすれは風邪や喉の不調でも起こりますが、喫煙者や飲酒習慣のある方でこれらの症状が続く場合は要注意です。

以上のように、食道がんの症状は他の病気でも起こり得るため見逃されがちです。例えば胸や背中の痛みは心臓や肺の病気、声がれは風邪や喉頭炎などと間違われることがあります。

しかし、「いつもと違う」「おかしいな」と感じる症状が断続的にでも続く場合は、念のため消化器内科などで食道の検査を受けることが重要です。特に上述したような兆候があるのに心肺の検査で異常がない場合は、食道内視鏡検査を検討しましょう。

早期の食道がんであれば症状が軽いため本人も気づきにくいですが、「飲み込みにくい」「胸がチクチクする」などの小さなサインを見逃さないことが早期発見につながります。

主な原因とリスク因子

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食道がんの発生には様々な要因が関与しますが、医学的に確立された最大の危険因子は喫煙と飲酒です。これらの習慣は食道の粘膜に慢性的な刺激とダメージを与え、がんを引き起こしやすくします。以下に主なリスク因子を解説します。

喫煙

タバコの煙に含まれる数百種もの有害物質が食道粘膜に直接触れて蓄積することで、細胞の癌化を促進します。

長年の喫煙習慣がある人ほどリスクは高く、喫煙単独でも非喫煙者に比べて約3倍食道がんになりやすいとの報告があります。喫煙本数や喫煙年数が多い人は特に注意が必要です。

飲酒

アルコールそのものより、体内でアルコールが分解される際に生じるアセトアルデヒドという物質が発がん性を持ちます。

日本人を含む東アジア人には、このアセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)の働きが生まれつき弱い体質の人が多くいます。お酒を少量飲んだだけで顔が赤くなるタイプの方はこの酵素が弱い可能性が高く、そのような方が無理に飲酒量を増やして習慣的に飲み続けると、通常の人の何十倍も食道がんのリスクが高くなることがわかっています。

実際、酒を飲む人の食道がんリスクは全く飲まない人の約3倍とのデータもあり、過度の飲酒は非常に大きな危険因子です。特にお酒で顔が赤くなる人は食道がんに要注意で、できれば飲酒量を控えることが望まれます。

喫煙と飲酒の相乗効果

さらに厄介なのは、喫煙と飲酒を両方習慣にしている場合です。タバコとお酒の両方を嗜む人では、どちらか一方だけの人に比べて食道がんになる確率が格段に高まるとされています。

日本人男性の食道がんの約8割は喫煙または飲酒が原因とも言われ、これらを併用する生活習慣は非常にリスキーです。したがって予防の観点からも禁煙・節酒が強く推奨されます。

食習慣(熱いもの・栄養状態)

日常的な食生活も食道がん発生に影響します。例えば、熱い飲み物や辛い食べ物などの刺激物を頻繁に摂取する習慣は食道粘膜に慢性的な炎症を起こし、細胞の遺伝子にダメージを与えます。

熱いお茶や熱燗、激辛食品などによる繰り返しの粘膜障害が蓄積すると、正常な細胞が修復しきれず癌化する可能性が高まると報告されています。

また、野菜や果物の不足に代表される偏った食生活や栄養不足もリスク因子です。ビタミン類や食物繊維の不足により食道粘膜の防御機能が低下し、発がん物質の影響を受けやすくなると考えられています。

反対に、野菜や果物を十分に摂取している人では、たとえ喫煙・飲酒をしていても食道がんのリスクが低下するとの研究報告もあります。栄養バランスの良い食事は発がん抑制に寄与する重要な要素です。

その他の要因

年齢(高齢になるほどリスク増加)や性別(前述の通り男性に多い)も食道がんの発症リスクに影響します。また、逆流性食道炎によって食道下部の粘膜が胃酸で傷つき、バレット食道という状態になると腺がんが発生しやすくなります。

欧米では肥満に伴う逆流性食道炎の増加から腺がんが多い傾向にありますが、日本でも生活習慣の変化で注意が必要です。さらに、食道の運動障害であるアカラシア(食道下部括約筋が開かず食物が停滞する病気)も、長年放置すると食道内に残留物が溜まって粘膜が傷つくため食道がんのリスクが高まることが知られています。

これら基礎疾患を持つ方は定期的な経過観察が望ましいでしょう。また、一部には遺伝的要因も指摘されていますが、大多数のケースでは生活習慣因子の積み重ねが主な原因と考えられています。

以上をまとめると、喫煙者・大量飲酒者・熱いもの好き・野菜不足の方などが特に食道がんを発症しやすい人の特徴と言えます。こうしたリスク因子を複数抱えている場合は、後述する予防策を積極的に実践することが望ましいです。

診断方法と進行度の分類

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食道がんの診断は主に内視鏡検査によって行われます。症状やバリウム検査などで食道がんの疑いがある場合、まずは上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を実施し、直接食道内を観察します。

内視鏡では食道粘膜のただれや隆起、発赤などの病変部位を詳細に観察でき、異常があればその場で組織の一部を採取して生検(病理組織検査)を行います。生検により癌細胞の有無を顕微鏡で確認し、がんであることを確定診断します。

この内視鏡+生検が食道がん診断の決め手であり、早期の小さながんも発見できる有力な方法です。一方、バリウムを飲むレントゲン検査(上部消化管造影)も以前から用いられており、食道の狭窄や形態変化を映し出すのに有用ですが、初期のわずかな病変は見逃す可能性があります。そのため、最近では胃がん検診の場でも内視鏡検査が併用される例が増えています。

食道がんと確定した後は、病変の広がり具合(進行度)を調べる検査を行います。治療方針を決めるには「がんが食道壁のどの深さまで達しているか」「周囲のリンパ節に転移しているか」「肺や肝臓など遠くの臓器に転移があるか」を把握する必要があります。

具体的には、超音波内視鏡検査(EUS)で腫瘍の深達度(深さ)や近傍リンパ節の状況を評価し、CT検査MRI検査で胸部・腹部内の臓器やリンパ節転移の有無を調べます。また、PET検査(陽電子放射断層撮影)は全身のがんの転移を画像で描出でき、遠隔転移の検索に用いられます。これら複数の検査結果を総合して病気のステージ(病期)を決定します。

食道がんの進行度(ステージ)分類は国際的にはTNM分類に基づきI期~IV期に区分されます(日本ではさらに細かく0期やIVa/IVb期まで設定)。

一般的にはステージI早期がん(腫瘍が食道壁の浅い層にとどまりリンパ節転移がない)段階、ステージII~III局所進行がん(腫瘍が筋層や外膜まで達していたり、周囲リンパ節への転移があるが遠隔転移はない)段階、ステージIV進行がん(肺や肝臓などへの遠隔転移が認められる段階)です。

ステージ0とは上皮内癌(極めて早期の粘膜内がん)で、内視鏡治療で治癒が期待できる状態を指します。

ステージ分類は治療選択に直結し、例えばステージIであれば内視鏡治療や外科手術で根治が見込めますが、ステージIVになると抗がん剤や放射線による延命・緩和治療が主体となります。正確な進行度評価のため、診断時にはこれらの検査をしっかり受けることが重要です。

治療法(手術・放射線・抗がん剤・内視鏡治療など)

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食道がんの治療は病期(ステージ)や腫瘍の種類・大きさ、患者さんの全身状態によって最適な方法が選択されます。主な治療手段には、内視鏡的切除、手術(外科治療)、放射線治療、抗がん剤による薬物療法(化学療法)、および化学放射線療法(放射線と抗がん剤の併用)があります。ここでは代表的な治療法について解説します。

内視鏡治療(内視鏡的切除)

早期の食道がんでリンパ節転移のリスクが極めて低い場合には、内視鏡的切除によって食道を温存しつつ治療できることがあります。内視鏡的切除とは、胃カメラの要領で挿入した内視鏡の先端から特殊な器具を用い、食道の内側(粘膜面)からがん病変を切り取る治療です。

主に内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の2種類があり、EMRはスネアという輪っかワイヤーでポリープ状の病変を切除する方法、ESDは電気メスで粘膜下層から病変部を剥がし取る方法です。

いずれも体への負担が比較的小さく、食道を残せる利点があります。適応となるのは粘膜内にとどまるごく早期のがん(0期または一部のI期)で、腫瘍の大きさや広がりが限局している場合です。

例えば病変が食道全周の3/4未満の範囲で長さ5cm以内に収まるような場合など、ガイドラインに沿って適応が判断されます。内視鏡治療で切除した組織は詳しく病理検査を行い、万一、粘膜下層への微小な浸潤やリンパ管侵襲が見られた場合は追加治療(手術や化学放射線療法)を検討します。

適切に施行された内視鏡治療では早期がんの多くが根治可能であり、体への負担も軽いためQOL(生活の質)を維持しやすい治療法です。

外科手術(食道切除術)

腫瘍が粘膜下層より深く達している場合(進行がん)や、内視鏡治療では取り切れない条件のときは、手術による根治切除が基本となります。

食道がん手術では、がんを含む食道とその周囲組織を一括して切除します。具体的には、食道本体のほとんど(病変部位によっては一部残すこともあります)と、隣接する胃の上部を切除し、加えて転移の可能性があるリンパ節を頸部・縦隔・腹部にわたり広範囲に切除します(リンパ節郭清)。

そして再建手術として、胃の残りの部分や結腸・小腸の一部を細長く形成して、切除した食道の替わりに咽頭から胃へつなぐ新しい通路を作ります。これにより食物の通り道を再建し、嚥下機能を維持します。

手術の方法はがんの位置によって異なり、例えば頸部食道がんなら頸部を切開して腫瘍を摘出し小腸で再建、胸部食道がんなら開胸・開腹(あるいは胸腔鏡・腹腔鏡)で食道と胃上部を取って胃や結腸で再建、といった具合です。食道は体の中央を貫く長い臓器のため、手術侵襲は大きいですが、根治を目指す最も確実な治療法です。

近年は内視鏡手術の発達により可能な限り低侵襲に行う工夫もされています。手術適応となるのは主にステージII~IIIの局所進行がんですが、患者さんの体力や臓器機能によっては手術に耐えられない場合もあり、その際は別の治療法が検討されます。

放射線治療

放射線治療は、高エネルギーの放射線を照射してがん細胞のDNAを破壊し、腫瘍を縮小・消滅させる治療です。食道がんでは単独で行われることもありますが、通常は抗がん剤との併用(化学放射線療法)が多く、後述します。

放射線治療の利点は、手術が困難なケースでも体の外から照射するだけで治療できると、食道を温存できる点です。

特に高齢者や心肺機能に問題があり手術リスクが高い患者さんでは、放射線治療が選択肢となります。照射は週5日ペースで数週間にわたり行い、総線量60Gy前後が一般的です。

治療中は食道炎による飲み込みづらさや胸やけ等の副作用が出ることもありますが、多くは一時的なものです。放射線治療単独ではステージI~IIIの一部症例に根治が期待できますが、リンパ節転移が多い場合や腫瘍が大きい場合には効果不十分なこともあります。そのため現在では抗がん剤との併用(同時化学放射線療法)が標準的となっています。

抗がん剤治療(化学療法)と化学放射線療法

抗がん剤治療は、いわゆる化学療法として全身に作用する抗がん薬を投与する方法です。食道がんに対して用いられる薬剤には、プラチナ製剤(シスプラチンなど)や5-FU系薬剤、タキサン系薬剤などがあります。

化学療法は主に(1)手術前に腫瘍を小さくするネオアジュバント(術前)化学療法、(2)手術や放射線後に残存微小がんを叩くアジュバント(術後)化学療法、(3)手術不能・遠隔転移ありの場合の延命目的の全身治療、の目的で行われます。

中でも食道がん治療で重要なのが化学放射線療法(CRT)です。

これは抗がん剤による全身効果と放射線の局所効果を組み合わせることで、相乗的に治療効果を高める方法です。同時化学放射線療法はステージII~IIIの食道がんに対して手術と並ぶ標準治療であり、手術とほぼ同等の治療成績が得られるとの報告もあります。実際、体力的に手術が難しい患者さんや手術を希望しない場合には、根治を目指して根治的化学放射線療法が行われます。

ステージIV(遠隔転移あり)の進行がんでは手術で根治できないため、延命と症状緩和を目的として抗がん剤治療が中心となります。近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ等)も食道がんの治療に導入されつつあり、特に免疫療法は治療後の補助療法や再発・転移症例で効果が期待されています。

例えば、術前の化学放射線療法を行ったのち手術をした場合、病理検査でがんが残っていれば術後に免疫療法(ニボルマブ)の追加が推奨されるなど、新たな治療法も取り入れられています。

進行した場合の身体への影響と合併症

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食道がんが進行して大きくなると、がんそのものや治療の影響で様々な身体への支障や合併症が生じます。まず、腫瘍の増大により食道が狭窄すると、先述のように食べ物だけでなく水さえ通らなくなり、唾液すら飲み込めず口からあふれるような状態になります。

この段階では経口摂取が困難になるため、深刻な栄養失調や脱水を引き起こし、衰弱が進みます。体重も大幅に減少し、免疫力が低下することで感染症のリスクも高まります。食事が取れない場合には点滴や経腸栄養(鼻からチューブで栄養投与)などの医療的サポートが必要になります。

腫瘍の局所浸潤に伴う合併症も見逃せません。食道のすぐ近くには気管・気管支、肺、大動脈、心臓、脊椎など重要な器官が密集しています。がんがこれらへ直接広がったり圧迫したりすると、それぞれに応じた症状や合併症を引き起こします。

例えば、気管や気管支への浸潤が起これば気管と食道の間に異常な通路(瘻孔)が形成され、飲食物や唾液が気管に漏れ込んでしまうことがあります。その結果、重篤な誤嚥性肺炎や持続的な気管支炎を引き起こし、呼吸困難や発熱、肺感染症など生命を脅かす状態になる可能性があります。

また、大動脈など大血管にがんが侵入した場合、血管壁が破れて大出血を起こす危険があります。

大動脈食道瘻と呼ばれる状態になると突然の大量吐血を来し、致命的になりえます。こうした事態は頻度こそ高くありませんが、進行食道がんの重大な合併症として念頭に置く必要があります。

さらに、食道がんが反回神経(声帯を動かす神経)を侵せば片側の声帯麻痺が起こり嗄声(声が出ない、かすれる)が永続することがあります。片方の横隔神経に及べば横隔膜が麻痺して呼吸機能が低下します。肺や肝臓へ転移すればそれぞれ肝機能障害呼吸不全の原因となります。

また、食道がん患者さんは同じ原因(喫煙・飲酒)から頭頸部がん胃がんなど別のがんを続発する(重複がん)ことも少なくありません。そのため一度食道がんになると、他の臓器のがん検診や注意深い経過観察も必要になります。

治療に関連する合併症としては、手術の場合吻合部狭窄縫合不全反回神経麻痺肺炎などが起こり得ます。特に食道再建後の吻合部(つないだ箇所)が狭くなれば食べ物が通りにくくなるため、内視鏡で拡張する処置が行われることがあります。

放射線治療では一時的な食道炎や肺炎、稀に心膜炎など、化学療法では骨髄抑制や腎機能障害などが起こりえます。ただし近年の治療技術向上により重篤な合併症の頻度は下がってきています。

食道がんを予防するための生活習慣

食道がん予防には、先に述べたリスク因子を避けることが何より重要です。「喫煙しない」「過度の飲酒を控える」ことが最大の予防策であり、実際にタバコやお酒をやめることで食道がんになる確率は半分以下に減らせるとも言われています。

日本人を対象とした研究でも、禁煙や節酒ががん全般の予防に有効であることは明らかです。特にお酒に弱い体質の人(少量で顔が赤くなる方)は、飲酒量を減らす・控えることでリスク低減効果が大きいでしょう。

次に、バランスの良い食生活を心がけることです。野菜や果物に含まれるビタミン類や食物繊維、抗酸化物質は発がんを抑制する働きが期待できます。

実際、野菜・果物を豊富に摂っている人は喫煙や飲酒をしていても食道がんのリスクが低かったという調査結果があります。一方で、熱いものや辛いものなど刺激物の頻繁な摂取は避けるのが望ましいです。

飲み物は少し冷ましてから飲む、鍋料理やお茶も適温で楽しむ、激辛料理は控えめにする、といった工夫で粘膜への過度なダメージを防げます。塩辛い食品の過剰摂取も粘膜を傷つける可能性があるため注意しましょう。

また、適度な運動適正体重の維持も大切です。肥満は逆流性食道炎を招きやすく、その結果バレット食道から腺がんが発生するリスクとなります。

日頃から体をよく動かし、標準体重を保つことは食道がんのみならず生活習慣病全般の予防になります。さらに、ウイルスや細菌感染予防(例えばピロリ菌除菌は胃がん予防になりますが、間接的に食道下部の炎症軽減につながる可能性もあります)など、総合的な健康管理ががん予防には有効です。

日本では現在、胃がんや大腸がんに比べて食道がんの検診プログラムは確立されていません。そのため、症状がない健康な人への定期検診という形では食道がん検診は行われていないのが現状です。

しかし、逆にいえばリスクの高い人は自発的に検査を受けに行くことが重要です。たとえば長年お酒とタバコを嗜んできた50代以上の方は、人間ドックなどで上部消化管内視鏡検査を追加して受けることを検討しても良いでしょう。

特に胃のバリウム検査だけでは初期の食道がんは見逃されることがあるため、検診の際に「胸の違和感がある」など症状があれば事前に申し出て食道までしっかり観てもらうことが大切です。

まとめると、「禁煙・節酒の励行」「熱すぎる飲食の回避」「野菜果物中心の食生活」「適度な運動と体重管理」が食道がん予防の柱です。これらは他のがん予防や健康増進にも直結する基本事項でもあります。今日からできることばかりですので、ぜひ生活習慣を見直してみてください。

日常生活で気をつけることと治療後の注意点

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食道がんを予防・早期発見するためには日常生活での体調管理と自己チェックも欠かせません。まず、喫煙・飲酒などの習慣をお持ちの方は前述の通り生活習慣の改善に努めてください。

特に「おかしいな」という症状が少しでも現れたら決して放置せず、早めに医療機関を受診することが大切です。「飲み込みづらい」「胸がしみる感じがする」といった軽い症状でも、短期間であっても繰り返す場合は一度内視鏡検査を受けてみることをおすすめします。

症状がない段階でがんを見つけるには内視鏡検査しかありませんリスクの高い方は定期的にチェックする習慣をつけましょう。

既に食道がんと診断され治療中・治療後の方は、再発予防と体力維持が日常生活のポイントになります。手術や放射線治療後は食道や胃の形態・機能が変化しているため、食事のとり方を工夫しましょう。よく噛んでゆっくり食べる、少量ずつ頻回に摂るなど、消化管への負担を減らす食事法が勧められます。

特に食道を切除して胃を胸部に挙上再建した方では、一度に多く食べると消化不良や逆流を起こしやすいため、1日5~6回に分けて食事をとるのが望ましいです。食後すぐに横にならず、上体を少し起こして過ごすことで胃内容物の逆流(胸やけ)を防げます。喉の渇きを感じなくても意識的に水分を補給し、粘膜を潤すことも心掛けましょう。

また、術後も喫煙や過度の飲酒は厳禁です。これらを続けると残った食道や移植した消化管に新たながんが発生したり、他の臓器(肺や咽頭等)のがんが誘発される恐れがあります。再発防止のみならず全身の健康のため、生活習慣は必ず改善してください。

治療後は定期的な通院検査(経過観察)が欠かせません。通常、術後や治療後は少なくとも年に数回は内視鏡検査やCT検査などを行い、再発の有無をチェックします。特に術後2年以内は再発が起こりやすい時期なので、医師の指示通りの頻度で受診してください。

経過観察の目的は再発の早期発見・早期治療だけでなく、治療後の体調やQOLの維持向上、さらに重複がんの監視にもあります。実際、食道がん経験者は頭頸部や胃などに新たながんを生じる可能性が一般の方より高いため、定期検査でそうした異変もチェックします。自覚症状がなくても検査は継続しましょう。

逆に、少しでも異常を感じたら予定日を待たずすぐ受診することも重要です。例えば「首にしこりが触れる」「声がまたかすれてきた」「背中が痛む」「息苦しい」「血痰が出た」等の症状は再発や転移のサインの可能性がありますので、放置せず医師に伝えてください。

日常生活では体力が落ちすぎないよう、適度に運動やリハビリを行い筋力維持に努めましょう。大手術後はどうしても筋力低下しますので、散歩や簡単な体操から始めて無理なく体を慣らしてください。

嚥下機能に不安がある場合は言語聴覚士などによる嚥下リハビリを受けると安全に食事がとれるようになります。首の手術で声帯を失った方は、人工喉頭や発声訓練によって声を出すリハビリを進めます。退院後の生活で困ったことや不安なことがあれば、遠慮なく担当医や看護師、地域の患者会などに相談しましょう。

各地域の「がん相談支援センター」では、同じ病を経験した患者さん同士の交流支援や、療養生活の悩み相談にも乗ってくれます。周囲のサポートを得ながら、焦らず自分のペースで日常を取り戻していくことが大切です。

最後に、治療後も含め常に自分の身体の声に耳を傾けるようにしましょう。食道がんは再発だけでなく、他の消化器がんの発症リスクも伴う病気です。少しでも「変だな」と思ったら早めに検査する習慣を続け、二度と見逃しをしないことが、これからの健康維持の鍵となります。

まとめ

食道がんは初期症状に乏しく見逃されやすい反面、進行すると命に関わる深刻な病気です。本記事では食道がんの定義や特徴、症状、原因から診断・治療・予防まで幅広く解説しました。重要なのは、リスク因子である喫煙・飲酒を避け、胸の違和感や嚥下困難などの小さな異変を見逃さず早期に対処することです。

早期に発見できれば内視鏡治療などで完治も期待でき、仮に進行がんでも手術や化学放射線療法など適切な治療で根治や長期生存が可能なケースも増えてきています。この記事を通じて得た知識をぜひ今後の行動に活かしてください。具体的には、「今日から禁煙を始めてみる」「お酒の量を見直す」「野菜中心の献立に変えてみる」「毎年胃カメラを受けるようにする」など、できることから取り組んでみましょう。

少しでも不安があれば迷わず専門医に相談し、早め早めの対応を心がけましょう。各種公的機関や専門サイトには食道がんに関する情報や相談窓口も整備されていますので、上手に活用しながら、健康で安心な毎日を送っていただきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。