「最近、歩くのが遅くなった」「以前と比べてつまずきやすい」「ペットボトルのふたが開けにくくなった」——こうした変化は、加齢に伴う筋肉量・筋力の低下、すなわち「サルコペニア」のサインかもしれません。
サルコペニアを放置すると転倒・骨折・寝たきりのリスクが高まります。しかし、適切な運動と栄養管理によって進行を遅らせ、改善することも可能です。正しい知識を持って早めに対策を始めることが大切です。
目次
サルコペニアとは?定義とフレイルとの違い
サルコペニアとは、加齢に伴って骨格筋量・筋力・身体機能が低下した状態を指します。ギリシャ語で「筋肉」を意味する「sarcos(サルコス)」と「喪失・減少」を意味する「penia(ペニア)」を組み合わせた造語です。
よく混同される言葉に「フレイル」があります。フレイルは身体的虚弱だけでなく、認知機能・社会的孤立なども含む概念で、サルコペニアよりも広い概念です。サルコペニアはフレイルの主要な原因の一つであり、両者は密接に関連しています。
サルコペニアの診断基準(AWGS2025)
アジアのサルコペニア診断には「AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)」の基準が用いられており、2025年に最新のAWGS2025が発表されました。
診断では①筋肉量の低下(四肢骨格筋量の測定)②筋力の低下(握力の測定)の2つが評価されます。筋肉量はDXA法またはBIA法で測定し、65歳以上の場合の基準値はDXA法で男性7.0kg/m²未満・女性5.4kg/m²未満です。握力の基準値は男性28kg未満・女性18kg未満です。
スクリーニングとして、簡単に自己チェックできる「指輪っかテスト」もあります。両手の親指と人差し指でふくらはぎの最も太い部分を囲んだときに隙間ができる(輪が余る)場合は、サルコペニアのリスクが高いとされています。
サルコペニアの症状と進行
サルコペニアの初期は自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行します。症状として現れてくるものには以下のようなものがあります。
歩行速度の低下・歩幅が小さくなる・階段の昇降が困難になるなどの運動機能低下、握力の低下(ビンのふたが開けにくいなど)、疲れやすい・体力の低下、転倒しやすくなるなどが典型的です。
進行すると日常生活動作(ADL)が制限され、転倒・骨折・寝たきりへとつながります。サルコペニアがあると骨粗鬆症との合併(「骨粗鬆症性サルコペニア」)も起こりやすく、骨折リスクがさらに高まります。
サルコペニアの予防と改善:運動編
レジスタンス運動(筋力トレーニング)
サルコペニアの予防・改善に最も効果的な運動がレジスタンス運動(筋力トレーニング)です。スクワット・踵の上げ下ろし・椅子に座って膝を伸ばす運動など、下肢の大きな筋肉を中心に鍛えることで、転倒予防・歩行能力の維持に直接貢献します。
推奨頻度は週2〜3日で、少なくとも6か月間継続することが効果発現の目安です。体力に自信がない方でも、椅子に座ったまま行える「椅子スクワット」や「ゆっくり立ち上がり運動」から始めることができます。
有酸素運動との組み合わせ
ウォーキング・水中歩行・自転車などの有酸素運動も心肺機能と持久力の維持に有効です。筋力トレーニングと組み合わせることで、より総合的な身体機能改善が期待できます。1日8,000〜10,000歩のウォーキングを目標にすることが一つの目安です。
サルコペニアの予防と改善:栄養編
タンパク質の十分な摂取
筋肉の合成に不可欠な栄養素がタンパク質です。日本人の食事摂取基準では65歳以上の推奨量は体重1kgあたり1.0g以上とされていますが、サルコペニア予防には体重1kgあたり1.2〜1.5gのタンパク質摂取が推奨されています。
体重60kgの方なら1日72〜90gのタンパク質が目安です。肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などをバランスよく摂取しましょう。特に乳清タンパク(ホエイプロテイン)に含まれるロイシンは筋肉合成を促進する効果が高いとされています。
ビタミンDの摂取
ビタミンDは筋肉の機能維持にも重要な栄養素です。ビタミンD不足はサルコペニアのリスクを高めることが研究で示されており、魚類(サーモン・サバ・イワシ)・キノコ類・卵などビタミンDを多く含む食品の摂取と適度な日光浴が推奨されています。
まとめ:サルコペニアは「老化だから仕方ない」ではない
サルコペニアは加齢に伴う変化ですが、適切な運動(週2〜3回の筋力トレーニング)と十分なタンパク質摂取を組み合わせることで、何歳からでも筋肉量・筋力の改善が可能です。
「転倒しやすくなった」「体力が落ちた」と感じたら、ぜひかかりつけ医や地域の介護予防教室に相談してみてください。指輪っかテストや握力測定で自己チェックをしながら、筋肉への投資を今日から始めましょう。










