「すい臓がんは怖い」という印象を持つ方は多いですが、その理由は「見つかったときにはすでに進行していることが多い」ことにあります。すい臓がん(膵臓がん)は日本人のがん死亡数で第3〜4位に位置する重篤な悪性腫瘍です。しかし近年は早期発見に向けた検査や治療の進歩が進んでいます。この記事では、すい臓がんの初期症状・早期発見が難しい理由・CA19-9・治療法・生存率まで詳しく解説します。
目次
すい臓がんとはどんながんか
すい臓(膵臓)は、胃の後ろに位置する長さ約15〜20cmの臓器で、消化酵素(アミラーゼ・リパーゼなど)を十二指腸に分泌する外分泌機能と、インスリン・グルカゴンなどのホルモンを血液に分泌する内分泌機能を担っています。
すい臓がんの約85〜90%は膵管から発生する膵管腺がんで、単に「すい臓がん」というときは通常この型を指します。残りはINPC(膵管内乳頭粘液性腫瘍)・膵内分泌腫瘍などがあり、これらは膵管腺がんより比較的予後が良いです。
日本での膵臓がん罹患数は年間約4万4000人、死亡数は年間約3万8000人で、発症数に対して死亡数が多いのが際立った特徴です。
すい臓がんの初期症状——「サイレントキラー」と呼ばれる理由
すい臓がんが「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれるのは、早期(ステージI〜II)では症状がほとんどなく、自覚症状が出たときにはすでにステージIII〜IVに進行していることが多いからです。
初期によく見られる症状
腹痛・背中の痛みはすい臓がんで最もよく訴えられる症状です。膵臓は後腹膜(お腹の後ろ側)にあるため、がんが進行すると背中(肩甲骨下部〜腰の間あたり)の鈍い痛みが現れます。みぞおちから背中に抜けるような痛みや、食後に悪化する痛みが続く場合は要注意です。
食欲不振・体重減少は多くのがんに共通しますが、すい臓がんでは消化酵素の分泌低下による消化吸収障害も重なり、体重減少が著明になることがあります。短期間(数か月以内)に5kg以上の体重減少がある場合は精査が必要です。
黄疸(おうだん)は、膵臓の頭部(膵頭部)にがんができると胆管を圧迫し、胆汁の流れが滞ることで皮膚・白目が黄色くなる症状です。尿の色が濃くなる(ビール色・紅茶色)、便が白っぽくなる(灰白色便)、皮膚のかゆみを伴います。黄疸は膵頭部がんの比較的早期から現れることがあり、発見の重要な手がかりになります。
糖尿病の急激な発症・悪化も、すい臓がんの初期症状として注目されています。特に50歳以降に糖尿病が急に発症した場合、または以前コントロールできていた血糖値が急に悪化した場合は、すい臓がんの除外が推奨されます。
CA19-9——膵臓がんの腫瘍マーカー
CA19-9はすい臓がん・胆道がん・消化器がんで上昇する腫瘍マーカーで、正常値は37 U/mL未満とされます。ただし、CA19-9はすい臓がんの早期発見には感度・特異度とも限界があります。
CA19-9の限界と注意点
早期すい臓がん(ステージI)では約50%の患者でCA19-9が正常値内に収まることがあり、「正常だから安心」とは言えません。また、胆管炎・膵炎・肝硬変など良性疾患でも上昇することがあります(偽陽性)。さらに、ルイス式血液型がa陰性b陰性の人(日本人の約10%)はCA19-9が産生されず、がんがあっても上昇しません。
したがって、CA19-9単独での診断より、CEA・膵酵素(アミラーゼ・エラスターゼ1)・画像検査(超音波・CT・MRI・EUS)との組み合わせで評価することが重要です。
早期発見のための検査方法
すい臓がんを早期に発見するためには、どのような検査が有効なのでしょうか。
腹部超音波検査(エコー)
健康診断の腹部エコーで膵管拡張・膵嚢胞・腫瘤が偶然発見されるケースがあります。ただし、膵臓は消化管ガス・脂肪に隠れやすく、腫瘍の描出が難しい臓器でもあります。
造影CT・MRI・MRCP
造影CT(マルチスライスCT)は膵臓がんの診断・ステージングに最も広く使われる画像検査です。MRCP(MR胆管膵管撮影)は造影剤不要で膵管・胆管の状態を評価できます。
超音波内視鏡(EUS)
超音波内視鏡(EUS:Endoscopic Ultrasound)は、内視鏡の先端に超音波プローブを装備した検査で、消化管の内側から直接膵臓を描出できるため、CTやMRIより小さな病変(5mm以下)の発見に優れています。高リスク群(家族歴・糖尿病の急変・CA19-9上昇)のスクリーニングに特に有用です。
ハイリスク群のスクリーニング
以下の方はすい臓がんのハイリスク群として、定期的な精密検査を推奨します。第一度近親者(親・兄弟・子ども)にすい臓がん患者が2人以上いる方、BRCA1/BRCA2遺伝子変異を持つ方、慢性膵炎の方、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)を指摘されている方、新規糖尿病の発症(特に50歳以降)がある方などです。
すい臓がんのステージ別生存率
すい臓がんの5年生存率は、日本膵臓学会のデータに基づくと以下の通りです(大まかな目安)。
ステージ別の予後
ステージIA(腫瘍が膵臓内に限局、2cm以下)での5年生存率は約40〜60%、ステージIB(2cm超の膵臓内限局)は約35〜50%とされます。ステージIIは10〜30%程度、ステージIII(隣接大血管への浸潤あり)は5〜10%程度、ステージIV(遠隔転移あり)は3〜5%未満とされます。
ステージIでの発見・手術ができれば比較的良好な予後が期待できます。発見時にステージIは全体の約10〜15%にとどまるため、ハイリスク群の定期スクリーニングがいかに重要かがわかります。
すい臓がんの治療
すい臓がんの治療は手術・化学療法・放射線治療の組み合わせで行われます。
手術(切除術)
手術切除はすい臓がんの唯一の根治的治療手段です。膵頭部がんには膵頭十二指腸切除術(ウィップル手術)、膵体尾部がんには膵体尾部切除術が行われます。いずれも高難度手術であり、術後の入院期間・回復期間が長く(2〜4週間の入院)、外分泌・内分泌機能への影響(消化吸収障害・糖尿病)に対する長期管理が必要です。
化学療法
切除後の再発予防(術後補助化学療法)や進行がんの治療としてゲムシタビン・アブラキサン(nab-パクリタキセル)の併用療法やFOLFIRINOX療法が標準治療として使われます。近年、BRCA遺伝子変異を持つ患者にはオラパリブ(PARP阻害薬)が有効とされ、遺伝子プロファイリング(コンパニオン診断)の重要性が高まっています。
まとめ
すい臓がんは早期発見が命に関わる疾患ですが、自覚症状が乏しいため「気づいたら進行している」ことが多いのが現状です。背中の鈍い痛み・急激な体重減少・黄疸・新規の糖尿病発症などのサインを見逃さず、リスク因子がある方は積極的に精密検査(EUS・造影CT)を受けることが早期発見への近道です。健康診断の腹部エコーや血液検査で「膵管が拡張している」「CA19-9が高め」と指摘された際は、必ず消化器内科・消化器外科に相談してください。










