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腎機能検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
腎機能検査は、血液検査の一種で、腎臓が正常に機能しているかを評価するための検査です。腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排泄する重要な臓器です。左右に1つずつある豆のような形をしており、1日に約150リットルもの血液をろ過しています。
腎機能が低下すると、老廃物が体内に蓄積し、むくみ、高血圧、貧血などのさまざまな症状が現れます。
腎臓には、血液のろ過、老廃物の排泄、体液量の調節、電解質のバランス維持、血圧の調節、赤血球の産生を促すホルモンの分泌など、多くの重要な機能があります。
腎機能検査では、クレアチニン、尿素窒素、尿酸、eGFR(推算糸球体ろ過量)などの項目を測定します。これらの値から、腎臓がどの程度機能しているかを評価し、慢性腎臓病(CKD)などの早期発見につなげます。
クレアチニンとeGFR:腎機能の最も重要な指標
クレアチニンとeGFRは、腎機能を評価する上で最も重要な指標です。これらの値により、慢性腎臓病の有無やステージ(病期)を判定します。
クレアチニンとは
クレアチニンは、筋肉で作られる老廃物で、通常は腎臓でろ過されて尿中に排泄されます。腎機能が低下するとろ過能力が落ち、血液中のクレアチニンが増加します。
クレアチニンの正常値は、男性で0.65~1.09 mg/dL、女性で0.46~0.82 mg/dLです。男性の方が値が高いのは、筋肉量が多いためです。筋肉量が多い方やスポーツ選手では、正常でもやや高めの値を示すことがあります。
eGFR(推算糸球体ろ過量)の意味
eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)は、クレアチニン値、年齢、性別から計算される、腎臓が1分間にろ過できる血液の量(ml/分/1.73m²)を示す指標です。腎機能を最も正確に反映する値として重視されています。
eGFRの正常値は60以上です。60未満が3ヶ月以上続くと、慢性腎臓病(CKD)と診断されます。90以上が理想的な値ですが、高齢者では加齢により徐々に低下するのが一般的です。
慢性腎臓病(CKD)のステージ分類
慢性腎臓病は、eGFRの値によって5つのステージに分類されます。ステージG1(eGFR 90以上)は正常~軽度低下、ステージG2(60~89)は軽度~中等度低下です。これらの段階では自覚症状がほとんどありません。
ステージG3a(45~59)、G3b(30~44)は中等度~高度低下で、疲労感やむくみが出始めることがあります。ステージG4(15~29)は高度低下、ステージG5(15未満)は末期腎不全で、透析療法や腎移植が必要になる段階です。
クレアチニン・eGFR異常が見つかった場合
eGFRが60未満、またはクレアチニンが正常範囲を超えている場合は、必ず再検査を受け、腎臓専門医への相談が推奨されます。尿検査(尿タンパク、尿潜血)、腎臓の超音波検査、血圧測定などの追加検査が必要です。
慢性腎臓病の原因疾患(糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎など)を特定し、適切な治療を開始することで、進行を遅らせることができます。
尿素窒素(BUN):腎機能と栄養状態の指標
尿素窒素(Blood Urea Nitrogen: BUN)は、タンパク質が分解される際に生成される老廃物で、主に腎臓から排泄されます。クレアチニンと同様に、腎機能の評価に用いられます。
尿素窒素の正常値と特徴
尿素窒素の正常値は、8~20 mg/dLです。腎機能が低下すると上昇しますが、クレアチニンに比べて食事(特にタンパク質摂取量)、脱水、消化管出血、ステロイド薬の使用などの影響を受けやすいという特徴があります。
そのため、腎機能の評価には、BUN単独ではなく、クレアチニンとの比(BUN/Cr比)を見ることが重要です。BUN/Cr比が10以上の場合、脱水や消化管出血が疑われます。
尿素窒素が上昇する原因
腎機能低下以外にも、高タンパク食の摂取、脱水、消化管出血、感染症、発熱、ステロイド薬の使用、甲状腺機能亢進症などで上昇します。一方、低い場合は、低タンパク食、肝障害、妊娠などが原因として考えられます。
BUNが40 mg/dL以上に上昇している場合は、高度の腎機能低下または脱水の可能性があり、速やかな医療機関受診が必要です。
尿酸:痛風と腎機能の関連
尿酸は、プリン体という物質が代謝されてできる老廃物で、主に腎臓から排泄されます。尿酸値の異常は、痛風や腎結石のリスクだけでなく、腎機能との関連も深いです。
尿酸の正常値と高尿酸血症
尿酸の正常値は、男性で3.7~7.0 mg/dL、女性で2.5~7.0 mg/dLです。7.0 mg/dLを超えると高尿酸血症と診断されます。女性は女性ホルモンに尿酸の排泄を促す作用があるため、閉経前は男性より低い値を示します。
高尿酸血症が長期間続くと、尿酸の結晶が関節に沈着して痛風発作を起こしたり、腎臓に沈着して腎機能を低下させたりします。特にeGFRが低下している方では、尿酸のコントロールが重要です。
尿酸値異常と腎機能の関係
腎機能が低下すると、尿酸の排泄が低下するため、尿酸値が上昇します。逆に、高尿酸血症が持続すると、尿酸が腎臓に沈着して腎障害を引き起こし、さらに腎機能が低下するという悪循環が生じます。
慢性腎臓病の患者では、尿酸値を6.0 mg/dL以下にコントロールすることで、腎機能の悪化を抑制できるとの報告があります。高尿酸血症と腎機能低下が同時に見られる場合は、積極的な治療が推奨されます。
尿酸値を下げる方法
プリン体を多く含む食品(レバー、白子、エビ、イワシ、カツオなど)を控え、水分を1日2リットル以上摂取することで尿酸の排泄を促進します。アルコール、特にビールは控えましょう。
適正体重を維持し、適度な運動を行うことも重要です。生活習慣の改善で効果が不十分な場合は、尿酸降下薬(アロプリノール、フェブキソスタットなど)による薬物治療が行われます。
シスタチンC:より正確な腎機能評価
シスタチンC(Cystatin C)は、比較的新しい腎機能マーカーで、クレアチニンよりも早期に腎機能低下を検出できると注目されています。
シスタチンCの特徴とメリット
シスタチンCは、全身の有核細胞から一定の速度で産生され、腎臓でろ過されて完全に代謝されます。筋肉量、性別、年齢、食事の影響を受けにくいため、より正確な腎機能評価が可能です。
特に高齢者、筋肉量が少ない方、筋肉量が多いアスリートなど、クレアチニンでは正確な評価が難しい場合に有用です。シスタチンCの正常値は、0.61~1.00 mg/Lです。
シスタチンC based eGFR
シスタチンCの値からもeGFRを計算できます(eGFRcys)。クレアチニンベースのeGFRと組み合わせることで、より正確な腎機能評価が可能になります。
両方の値に大きな差がある場合は、筋肉量の影響を考慮する必要があります。シスタチンC検査は保険適用ですが、すべての施設で実施されているわけではありません。
腎機能を守るための生活習慣
慢性腎臓病は一度進行すると元に戻らないため、予防と早期発見が極めて重要です。以下の生活習慣を心がけることで、腎機能を守ることができます。
血圧と血糖のコントロール
高血圧と糖尿病は、慢性腎臓病の2大原因です。血圧は130/80 mmHg未満、血糖値はHbA1c 7.0%未満を目標にコントロールしましょう。降圧薬や血糖降下薬を処方されている場合は、必ず服用を継続します。
特にACE阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という種類の降圧薬は、腎臓を保護する作用があるため、慢性腎臓病の患者によく使用されます。
適切な食事療法
塩分摂取を1日6g未満に制限することで、血圧のコントロールと腎臓への負担軽減につながります。タンパク質の過剰摂取も腎臓に負担をかけるため、腎機能が低下している場合は制限が必要です。
ただし、過度のタンパク質制限は栄養不良を招くため、医師や管理栄養士の指導のもとで適切な量を摂取することが重要です。カリウムやリンの制限が必要な場合もあります。
適度な水分摂取と薬剤の注意
十分な水分摂取(1日1.5~2リットル)は、腎臓の老廃物排泄を助けます。ただし、腎機能が著しく低下している場合や心不全がある場合は、水分制限が必要なこともあります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、痛み止めや解熱剤)、一部の抗生物質、造影剤などは腎臓に負担をかける可能性があります。薬を服用する際は、必ず医師や薬剤師に腎機能低下があることを伝えましょう。
定期的な検査とフォロー
年に1回以上、血液検査(クレアチニン、eGFR)と尿検査(尿タンパク、尿潜血)を受けましょう。慢性腎臓病と診断された場合は、3~6ヶ月ごとの定期的な検査が推奨されます。
eGFRが30未満に低下した場合は、腎臓専門医による継続的な管理が必要です。透析療法や腎移植の準備、食事療法の徹底、合併症の管理などを行います。
まとめ
腎機能検査は、クレアチニン、eGFR、尿素窒素、尿酸などの項目を測定し、腎臓の働きを評価する検査です。クレアチニンの正常値は男性0.65~1.09 mg/dL、女性0.46~0.82 mg/dLで、eGFRは60以上が正常です。
eGFRが60未満が3ヶ月以上続くと慢性腎臓病と診断され、ステージに応じた管理が必要になります。
尿素窒素の正常値は8~20 mg/dL、尿酸の正常値は男性3.7~7.0 mg/dL、女性2.5~7.0 mg/dLです。高血圧と糖尿病は慢性腎臓病の主な原因であり、これらのコントロールが腎機能保護に重要です。
塩分制限(1日6g未満)、適切なタンパク質摂取、十分な水分摂取を心がけ、定期的な検査を受けることで、腎機能を守り、透析導入を遅らせることができます。異常が見つかった場合は、早期に専門医を受診しましょう。










