目次
骨粗鬆症とは?基本的な知識をわかりやすく解説
骨粗鬆症は、骨の強度が低下し、骨折しやすくなる疾患です。骨の量(骨量)が減少し、骨の質も劣化することで、骨がスカスカの状態になります。「骨粗鬆症」という名前は、骨の中に多くの空洞ができて粗い状態になることに由来しています。
日本では約1280万人が骨粗鬆症と推定されており、その約80%は女性です。特に閉経後の女性は、女性ホルモンの減少により骨量が急激に低下し、発症リスクが高まります。
骨粗鬆症自体には痛みなどの自覚症状がほとんどありません。しかし、進行すると些細な衝撃でも骨折しやすくなり、背骨の圧迫骨折や大腿骨頸部骨折などを起こします。
特に大腿骨頸部骨折は、寝たきりや要介護状態の主要な原因の一つとなっており、生活の質(QOL)を大きく低下させます。早期発見と予防が極めて重要です。
骨密度検査とは?検査方法と診断基準
骨密度(骨量)は、骨の強さを判定する重要な指標です。骨密度検査では、骨に含まれるカルシウムなどのミネラル成分の量を測定します。
検査方法にはいくつかの種類があり、測定部位や精度、費用などが異なります。最も精度が高く、世界標準とされているのがDXA法(デキサ法)です。
DXA法による骨密度測定
DXA法は、2種類の異なるエネルギーのX線を使用して骨密度を測定する方法です。腰椎や大腿骨頸部など、骨折しやすい部位を直接測定できるため、診断精度が高いのが特徴です。
検査時間は5~10分程度で、放射線被曝量も非常に少なく、安全性が高い検査です。多くの医療機関で実施されており、骨粗鬆症の診断や治療効果の判定に用いられます。
骨密度の評価基準:YAM値とTスコア
骨密度は、若年成人(20~44歳)の平均値を100%としたときの割合である「YAM値」で評価されます。日本骨粗鬆症学会の診断基準では、YAM値80%以上が正常、70~80%が骨量減少、70%未満が骨粗鬆症とされています。
また、国際的にはTスコアという指標も用いられます。Tスコアは若年成人平均値との差を標準偏差で表したもので、-2.5以下が骨粗鬆症と診断されます。
その他の骨密度測定法
超音波法は、かかとの骨に超音波を当てて測定する方法です。放射線を使用しないため安全で、健診などでよく用いられます。
ただし、精度はDXA法に劣るため、異常が見られた場合はDXA法での精密検査が推奨されます。MD法はX線撮影時に骨密度も同時に測定する方法で、簡便ですが精度は低めです。
骨粗鬆症の原因とリスク要因
骨は一生を通じて新陳代謝を繰り返しています。古い骨を壊す「骨吸収」と新しい骨を作る「骨形成」のバランスが保たれることで、骨の健康が維持されます。
しかし、加齢や様々な要因により骨吸収が骨形成を上回ると、骨量が減少し、骨粗鬆症が発症します。
女性ホルモンの減少
女性ホルモン(エストロゲン)には骨吸収を抑制する働きがあります。閉経後は女性ホルモンが急激に減少するため、骨吸収が進み、骨量が急速に低下します。
閉経後5~10年間で骨量の約10~20%が失われるとされており、この時期の骨量減少が骨粗鬆症の主要な原因となります。男性でも加齢により性ホルモンが減少し、骨粗鬆症のリスクが高まります。
カルシウムとビタミンDの不足
カルシウムは骨の主要な構成成分であり、不足すると骨量が減少します。日本人のカルシウム摂取量は慢性的に不足しており、特に高齢者では不足が顕著です。
ビタミンDはカルシウムの吸収を促進し、骨の形成に重要な役割を果たします。ビタミンD不足は骨粗鬆症のリスクを高めるため、適切な摂取が必要です。
運動不足と生活習慣
骨は負荷がかかることで強くなります。運動不足は骨への刺激が減り、骨量の減少を招きます。また、喫煙はカルシウムの吸収を妨げ、骨量を減少させます。
過度のアルコール摂取や極端なダイエット、ステロイド薬の長期使用なども骨粗鬆症のリスク要因です。遺伝的要因や、糖尿病・甲状腺機能亢進症などの疾患も影響します。
骨粗鬆症による骨折:圧迫骨折と大腿骨頸部骨折
骨粗鬆症の最も深刻な合併症は骨折です。特に問題となるのが、背骨の圧迫骨折と大腿骨頸部骨折です。
脊椎圧迫骨折:知らぬ間に進行する骨折
背骨(脊椎)の椎体が潰れてしまう圧迫骨折は、骨粗鬆症による骨折の中で最も頻度が高いです。重いものを持ったり、くしゃみをしたりといった日常の動作で発生することがあります。
痛みがない、または軽度の腰痛程度で気づかないこともあり、知らぬ間に複数の椎体が骨折していることもあります。圧迫骨折が進行すると、背中が丸くなる(円背)、身長が縮む、慢性的な腰痛や背部痛が生じます。
大腿骨頸部骨折:寝たきりの原因に
転倒などにより、太ももの付け根の骨(大腿骨頸部)が折れる骨折です。多くの場合、手術が必要となり、高齢者では術後のリハビリが困難で、寝たきりや要介護状態になるリスクが高まります。
大腿骨頸部骨折後1年以内の死亡率は約10%とも言われており、生命予後にも影響を及ぼします。骨粗鬆症の治療により、骨折リスクを大幅に減少させることができます。
骨粗鬆症を予防するための食事と栄養
骨粗鬆症の予防には、カルシウムとビタミンDを中心とした適切な栄養摂取が不可欠です。
カルシウム:1日700~800mgを目標に
成人のカルシウム推奨摂取量は1日700~800mgです。牛乳・乳製品(牛乳コップ1杯約200mgのカルシウム)、小魚(干しエビ、煮干し)、大豆製品(豆腐、納豆)、緑黄色野菜(小松菜、チンゲン菜)などに多く含まれます。
一度に大量に摂取しても吸収率が下がるため、3食に分けてこまめに摂取することが効果的です。サプリメントを利用する場合は、過剰摂取に注意し、1日の上限量(2500mg)を超えないようにしましょう。
ビタミンD:日光浴と食事で確保
ビタミンDは食事からの摂取に加え、日光を浴びることで皮膚でも生成されます。1日15~30分程度の日光浴で十分な量が生成されます。
食品では、鮭やサンマなどの魚類、きくらげや干し椎茸などのきのこ類に多く含まれます。高齢者や日光を浴びる機会が少ない方は、食事やサプリメントでの摂取が重要です。
その他の重要な栄養素
ビタミンKは骨の形成を促進する作用があり、納豆や緑黄色野菜に多く含まれます。タンパク質は骨の基質(コラーゲン)の材料となるため、適切な摂取が必要です。
マグネシウム、リン、ビタミンCなども骨の健康に関与しています。バランスの良い食事を心がけることが、骨粗鬆症予防の基本です。
骨粗鬆症予防のための運動と生活習慣
適度な運動は骨に刺激を与え、骨量を増加させる効果があります。骨密度を高めるには、骨に負荷がかかる運動が効果的です。
ウォーキングやジョギング
体重を支える運動(荷重運動)は、骨に適度な刺激を与えます。ウォーキングは誰でも手軽に始められ、継続しやすい運動です。1回30分以上、週に3~5回を目標にしましょう。
慣れてきたら、速歩きや軽いジョギングに進むことで、さらに効果が高まります。階段の昇降も効果的な運動です。
筋力トレーニングとバランス運動
筋力トレーニングは、骨への刺激を増やすとともに、転倒予防にも役立ちます。スクワットや片足立ちなど、自宅でできる簡単なトレーニングを取り入れましょう。
バランス運動は転倒リスクを減らし、骨折予防に直接つながります。ヨガや太極拳も、バランス感覚を養うのに適しています。
骨粗鬆症の治療:薬物療法の種類と効果
骨粗鬆症と診断された場合、食事・運動療法に加えて薬物療法が行われます。現在、様々な種類の治療薬があり、患者の状態に応じて選択されます。
骨吸収を抑制する薬
ビスホスホネート製剤は、骨粗鬆症治療の第一選択薬として最も広く使用されています。骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑え、骨量の減少を防ぎます。
内服薬(週1回または月1回)と注射薬(月1回または年1回)があります。SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、骨に対して女性ホルモン様の作用を示し、特に閉経後女性に適しています。
骨形成を促進する薬
副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチド)は、骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きを活性化し、骨形成を促進します。重症の骨粗鬆症や骨折リスクが高い患者に使用されます。
自己注射(毎日または週2回)で投与され、投与期間は最長2年間と定められています。抗スクレロスチン抗体製剤は、骨形成促進と骨吸収抑制の両方の作用を持つ新しいタイプの治療薬です。
まとめ
骨粗鬆症は骨の強度が低下し、骨折しやすくなる疾患で、特に閉経後の女性に多く見られます。自覚症状がないまま進行するため、定期的な骨密度検査による早期発見が重要です。
DXA法による骨密度測定でYAM値70%未満の場合、骨粗鬆症と診断され、治療が必要となります。
予防には、カルシウム(1日700~800mg)とビタミンDの十分な摂取、適度な運動(特に荷重運動)、日光浴が効果的です。禁煙や適度な飲酒も重要です。
骨粗鬆症と診断された場合は、ビスホスホネート製剤などの薬物療法を継続することで、骨折リスクを大幅に減少させることができます。正しい知識を持ち、早めの対策を始めることで、健康な骨を維持し、活動的な生活を送ることができます。










