尿蛋白検査は、腎臓の機能を評価する最も基本的で重要な検査の一つです。健康な人の尿にはほとんどタンパク質が含まれませんが、腎臓に障害があると尿中にタンパク質が漏れ出てきます。本記事では、尿蛋白検査の詳細、蛋白尿と微量アルブミン尿の違い、腎疾患やネフローゼ症候群の診断基準と治療法について詳しく解説していきます。
目次
尿蛋白検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
尿蛋白検査は、尿中に排泄されるタンパク質の量を測定し、腎臓の機能障害の有無や程度を評価する検査です。腎臓は血液をろ過して尿を作る臓器で、通常は血液中のタンパク質をほとんど通しません。
健康な腎臓では、糸球体という微細な血管の集まりが、大きな分子であるタンパク質を通さないフィルターの役割を果たしています。しかし、腎臓に障害が生じると、このフィルター機能が低下し、タンパク質が尿中に漏れ出てきます。
尿蛋白の持続的な陽性は、慢性腎臓病(CKD)の重要なサインであり、心血管疾患のリスクとも関連することが知られています。早期発見・早期治療により、腎機能の低下を遅らせることが可能です。
尿蛋白検査の種類
尿蛋白検査には、主に以下の種類があります。
定性検査(試験紙法)
健康診断や人間ドックで一般的に行われる簡易検査です。試験紙を尿に浸して色の変化で判定します。(-)、(±)、(1+)、(2+)、(3+)、(4+)で表されます。
定量検査
尿中のタンパク質の正確な量を測定します。24時間蓄尿または随時尿で測定します。
尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)
随時尿でタンパク質とクレアチニンの比を測定します。24時間蓄尿の煩雑さを避け、より簡便に評価できます。
微量アルブミン尿検査
試験紙法では検出できない少量のアルブミン(タンパク質の一種)を測定します。糖尿病性腎症や高血圧性腎症の早期発見に有用です。
検査を受ける際の注意点
正確な検査結果を得るために、以下の点に注意しましょう。
激しい運動を避ける
検査前日から当日にかけて、激しい運動は避けてください。運動により一時的に尿蛋白が陽性になることがあります。
発熱時は避ける
発熱時も一時的に尿蛋白が陽性になることがあるため、体調が良い時に検査を受けることが望ましいです。
起立性蛋白尿の考慮
長時間立っていると尿蛋白が陽性になる方がいます(起立性蛋白尿)。朝起きてすぐの尿(早朝尿)で再検査を行うことがあります。
蛋白尿の分類と基準値
蛋白尿は、その程度によって分類されます。
定性検査による分類
試験紙法では、以下のように判定されます。
陰性(-):15mg/dL未満、正常
偽陽性(±):15~30mg/dL、境界域
1+:30~100mg/dL、軽度の蛋白尿
2+:100~300mg/dL、中等度の蛋白尿
3+:300~1000mg/dL、高度の蛋白尿
4+:1000mg/dL以上、著しい高度の蛋白尿
定量検査による分類
1日の尿中タンパク質排泄量で評価します。
正常:150mg/日未満
軽度蛋白尿:0.15~0.5g/日
中等度蛋白尿:0.5~3.5g/日
高度蛋白尿:3.5g/日以上(ネフローゼレベル)
3.5g/日以上の高度蛋白尿は、ネフローゼ症候群の診断基準の一つです。
尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)
随時尿で測定するため、24時間蓄尿よりも簡便です。
正常:0.15g/gCr未満
軽度蛋白尿:0.15~0.49g/gCr
高度蛋白尿:0.50g/gCr以上
UPCR 0.5g/gCrは、おおよそ1日尿蛋白0.5gに相当します。
微量アルブミン尿とは
微量アルブミン尿は、試験紙法では検出できない少量のアルブミンが尿中に出ている状態です。
微量アルブミン尿の基準値
アルブミンは、血液中のタンパク質の中で最も多く存在し、分子量が比較的小さいため、腎障害の初期段階で尿中に漏れ出てきます。
正常アルブミン尿:30mg/日未満(または30mg/gCr未満)
微量アルブミン尿:30~300mg/日(または30~300mg/gCr)
顕性アルブミン尿(蛋白尿):300mg/日以上(または300mg/gCr以上)
微量アルブミン尿は、糖尿病性腎症や高血圧性腎症の早期段階を示す重要な指標です。
微量アルブミン尿の重要性
微量アルブミン尿の段階で発見し、適切に治療を行うことで、腎機能の低下を遅らせたり、透析導入を遅らせることができます。
また、微量アルブミン尿は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスク因子でもあります。糖尿病や高血圧の方は、定期的に微量アルブミン尿検査を受けることが推奨されます。
微量アルブミン尿の検査対象
以下の方は、定期的に微量アルブミン尿検査を受けることが推奨されます。
糖尿病の方(特に罹病期間が5年以上)
高血圧の方
メタボリックシンドロームの方
慢性腎臓病のリスクが高い方
試験紙法で尿蛋白が陰性でも、微量アルブミン尿が陽性のことがあるため、リスクの高い方は積極的に検査を受けましょう。
蛋白尿の原因と分類
蛋白尿の原因は、大きく分けて以下の4つに分類されます。
腎性蛋白尿
腎臓自体の障害により、タンパク質が漏れ出る場合です。最も重要で、精密検査が必要です。
糸球体性蛋白尿
糸球体の障害により、タンパク質のろ過機能が低下します。慢性糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、ネフローゼ症候群などが原因となります。
通常、中等度から高度の蛋白尿を呈し、糸球体障害が進行すると腎機能が低下していきます。
尿細管性蛋白尿
尿細管でのタンパク質再吸収機能が低下します。間質性腎炎、薬剤性腎障害、腎盂腎炎などが原因となります。
通常、軽度の蛋白尿を呈します。
腎前性蛋白尿
血液中のタンパク質が異常に増加し、腎臓でのろ過量が増える場合です。
多発性骨髄腫(ベンスジョーンズ蛋白の増加)、溶血性貧血(ヘモグロビンの増加)などが原因となります。
腎臓自体には問題がないため、原因疾患の治療が重要です。
腎後性蛋白尿
尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)からの出血や炎症により、タンパク質が混入する場合です。
尿路感染症、尿路結石、膀胱がん、前立腺炎などが原因となります。
通常、軽度から中等度の蛋白尿で、尿潜血や白血球尿を伴うことが多いです。
機能性蛋白尿(一過性蛋白尿)
腎臓に器質的な障害がなく、一時的に蛋白尿が出現する場合です。
発熱性蛋白尿
発熱時に一時的に出現します。解熱すれば消失します。
運動性蛋白尿
激しい運動後に一時的に出現します。休息後に消失します。
起立性蛋白尿
長時間立位でいると出現し、臥位では消失します。若年者(特に思春期)に多く、予後は良好で病的意義は少ないとされています。
体位性蛋白尿
起立性蛋白尿と同様で、体位により変動します。
機能性蛋白尿は、原因が解消すれば消失するため、経過観察で良い場合が多いです。ただし、持続する場合は腎性蛋白尿の可能性があるため、精密検査が必要です。
慢性腎臓病(CKD)と尿蛋白
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の障害または腎機能低下が3か月以上持続する状態です。
CKDの診断基準
以下のいずれかが3か月以上持続する場合、CKDと診断されます。
腎障害の存在(蛋白尿、血尿、画像異常など)
GFR(糸球体濾過量)が60mL/分/1.73m²未満
尿蛋白はCKDの最も重要な指標の一つで、蛋白尿が多いほど腎機能低下の進行が速く、心血管疾患のリスクも高くなります。
CKDの重症度分類
CKDは、GFRと尿蛋白の程度により重症度が分類されます。
GFRによる分類(G分類)
G1:90以上(正常または高値)
G2:60~89(正常または軽度低下)
G3a:45~59(軽度~中等度低下)
G3b:30~44(中等度~高度低下)
G4:15~29(高度低下)
G5:15未満(末期腎不全)
蛋白尿による分類(A分類)
A1:正常または軽度増加(30mg/gCr未満)
A2:中等度増加(30~299mg/gCr)
A3:高度増加(300mg/gCr以上)
GFRと蛋白尿の組み合わせにより、腎不全への進行リスクや心血管疾患のリスクを評価します。例えば、G3bA3は非常に高リスクです。
CKDの原因疾患
日本におけるCKDの主な原因疾患は、以下の通りです。
糖尿病性腎症:最も多い原因(約40%)
慢性糸球体腎炎(IgA腎症など):約20%
腎硬化症(高血圧性):約15%
多発性嚢胞腎:約3%
その他:間質性腎炎、膠原病性腎症など
原因疾患によって治療法が異なるため、正確な診断が重要です。
ネフローゼ症候群とは
ネフローゼ症候群は、大量の蛋白尿により、さまざまな症状を呈する病態です。
ネフローゼ症候群の診断基準
以下の基準を満たす場合、ネフローゼ症候群と診断されます。
必須項目
1. 蛋白尿:3.5g/日以上(または尿蛋白/クレアチニン比3.5g/gCr以上)
2. 低アルブミン血症:血清アルブミン3.0g/dL以下
随伴症状
3. 浮腫(むくみ)
4. 脂質異常症(高コレステロール血症)
必須項目の2つを満たせばネフローゼ症候群と診断されます。
ネフローゼ症候群の原因
一次性(原発性)ネフローゼ症候群
腎臓自体の疾患が原因です。
微小変化型ネフローゼ症候群:小児に多く、ステロイドに反応しやすい
巣状分節性糸球体硬化症:ステロイド抵抗性のことが多い
膜性腎症:成人に多く、緩徐に進行
膜性増殖性糸球体腎炎:比較的稀
二次性ネフローゼ症候群
全身性疾患に伴って発症します。
糖尿病性腎症
膠原病(SLE、アミロイドーシスなど)
感染症(B型肝炎、C型肝炎、HIVなど)
薬剤性
悪性腫瘍に伴うもの
ネフローゼ症候群の症状
浮腫(むくみ)
最も特徴的な症状です。低アルブミン血症により、血管内の水分が組織に漏れ出ます。顔(特に眼瞼)、足、腹部(腹水)、胸部(胸水)にむくみが生じます。
体重増加
水分貯留により、急激に体重が増加します。
尿の泡立ち
大量の蛋白尿により、尿が著しく泡立ちます。
全身倦怠感
低アルブミン血症により、全身の倦怠感や疲労感を感じます。
感染症にかかりやすい
免疫グロブリンも尿中に喪失するため、免疫力が低下します。
血栓症
抗凝固因子が尿中に喪失し、凝固因子が増加するため、血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症、腎静脈血栓症など)のリスクが高まります。
蛋白尿が見つかった場合の精密検査
尿蛋白が持続的に陽性の場合、以下の精密検査が行われます。
基本的な検査
24時間蓄尿または尿蛋白/クレアチニン比
蛋白尿の正確な量を評価します。
尿沈渣検査
赤血球、白血球、円柱などを顕微鏡で観察します。赤血球円柱が見られれば、糸球体腎炎を強く示唆します。
血液検査
血清クレアチニン、eGFR(腎機能の評価)、血清アルブミン、総タンパク、脂質(コレステロール、中性脂肪)、血糖値、HbA1cなどを測定します。
画像検査
腹部超音波検査やCT検査で、腎臓の大きさや形態、嚢胞や腫瘍の有無などを評価します。
免疫学的検査
膠原病が疑われる場合、抗核抗体、抗DNA抗体、補体などを測定します。
腎生検
原因が不明な場合や、治療方針を決定するために、腎生検(腎臓の組織を採取して顕微鏡で観察する検査)が行われることがあります。
腎生検により、糸球体腎炎の種類や重症度を正確に診断でき、最適な治療法を選択することができます。
ただし、腎生検は侵襲的な検査のため、出血などの合併症のリスクがあります。適応を慎重に判断して実施されます。
蛋白尿の治療と管理
蛋白尿の治療は、原因疾患によって異なりますが、共通する重要なポイントがあります。
原因疾患の治療
糖尿病性腎症
厳格な血糖コントロール(HbA1c 7.0%未満)が最も重要です。SGLT2阻害薬などの薬剤も腎保護効果があります。
高血圧性腎硬化症
厳格な血圧コントロール(130/80mmHg未満)が重要です。
糸球体腎炎
種類によって治療法が異なります。ステロイドや免疫抑制薬が用いられることがあります。
ネフローゼ症候群
微小変化型ではステロイド療法が非常に有効です。その他のタイプでは、免疫抑制薬などが用いられます。
腎保護療法
ACE阻害薬またはARB
これらの降圧薬は、血圧を下げるだけでなく、腎臓を保護する効果があり、蛋白尿を減少させることができます。糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎などで広く使用されます。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
最近では、ACE阻害薬やARBに追加して使用することで、さらに腎保護効果が得られることが示されています。
SGLT2阻害薬
糖尿病治療薬ですが、腎保護効果があることが明らかになり、糖尿病性腎症だけでなく、非糖尿病性のCKDにも使用されるようになっています。
生活習慣の改善
食事療法
減塩(1日6g未満)、適切なタンパク質摂取(0.8~1.0g/kg/日程度)、適正エネルギー摂取を心がけます。
ネフローゼ症候群や進行したCKDでは、より厳格なタンパク質制限(0.6~0.8g/kg/日)が推奨されることがあります。ただし、栄養不良にならないよう注意が必要です。
運動
軽度から中等度の運動は推奨されますが、激しい運動は避けましょう。
禁煙
喫煙は腎機能低下を促進するため、禁煙は必須です。
体重管理
肥満は腎機能低下を促進するため、適正体重を維持しましょう。
合併症の予防と治療
浮腫の管理
減塩と利尿薬で管理します。
脂質異常症の治療
スタチンなどの脂質低下薬を使用します。
血栓症の予防
ネフローゼ症候群では、血栓症予防のために抗凝固薬が使用されることがあります。
感染症の予防
ネフローゼ症候群では免疫力が低下するため、感染症に注意が必要です。肺炎球菌ワクチンなどの接種が推奨されます。
定期的なフォローアップの重要性
蛋白尿が見つかった場合、定期的に尿検査と腎機能検査を受け、経過を観察することが非常に重要です。
CKDの進行を早期に発見し、適切に対応することで、透析導入を遅らせたり、心血管疾患のリスクを低減できます。
受診の頻度は、CKDの重症度によって異なりますが、少なくとも年に1~2回、進行したCKDでは数か月ごとの受診が推奨されます。
まとめ
尿蛋白検査は、腎臓の機能障害を早期に発見できる重要な検査です。蛋白尿は、腎性(糸球体性・尿細管性)、腎前性、腎後性、機能性に分類され、腎性蛋白尿が最も重要です。微量アルブミン尿(30~300mg/日)は、糖尿病性腎症や高血圧性腎症の早期段階を示す指標で、この段階での治療介入が重要です。
慢性腎臓病(CKD)は蛋白尿または腎機能低下が3か月以上持続する状態で、蛋白尿の量が多いほど腎機能低下の進行が速くなります。ネフローゼ症候群は、3.5g/日以上の高度蛋白尿と低アルブミン血症を特徴とし、浮腫や血栓症などの合併症に注意が必要です。
治療は原因疾患に応じて行い、ACE阻害薬やARB、SGLT2阻害薬などの腎保護療法、減塩や適切なタンパク質摂取などの食事療法が重要です。定期的なフォローアップで早期対応を心がけましょう。










