尿糖検査とは?血糖値との関係・腎性糖尿・尿糖陽性の原因と対処法を徹底解説

尿糖検査は、健康診断や人間ドックで広く行われている検査で、糖尿病のスクリーニングに用いられています。しかし、尿糖が陽性だからといって必ずしも糖尿病とは限らず、また尿糖が陰性でも糖尿病の可能性を完全には否定できません。本記事では、尿糖検査の仕組みや血糖値との関係、腎性糖尿の特徴、尿糖陽性が見つかった場合の対処法について詳しく解説していきます。

尿糖検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説

尿糖検査は、尿中にブドウ糖(グルコース)が含まれているかどうかを調べる検査です。健康な人の尿には、通常はほとんど糖が含まれません。

血液中のブドウ糖は、腎臓の糸球体でろ過された後、尿細管という部分でほぼ完全に再吸収され、血液中に戻されます。このため、正常な状態では尿中にほとんど糖が出てきません。

しかし、血糖値が高くなりすぎて腎臓での再吸収能力を超えると、あるいは腎臓の再吸収機能に異常があると、尿中に糖が漏れ出てきます。尿糖検査は、このような状態を簡便に検出する方法として広く用いられています。

尿糖検査の方法

尿糖検査は、主に試験紙法(尿試験紙)で行われます。試験紙を尿に浸すと、尿中の糖と試験紙の試薬が反応して色が変化します。

色の変化の程度により、以下のように判定されます。

陰性(-):尿糖なし、正常
偽陽性(±):境界域、再検査が必要
1+:50~100mg/dL程度
2+:100~250mg/dL程度
3+:250~500mg/dL程度
4+:500mg/dL以上

試験紙法は簡便で迅速ですが、ある程度の誤差があります。より正確な測定が必要な場合は、生化学的な定量検査が行われます。

検査を受ける際の注意点

正確な検査結果を得るために、以下の点に注意しましょう。

採尿のタイミング
健康診断では通常、早朝の第一尿(起床後最初の尿)または随時尿を使用します。食後の尿は、食事の影響で一時的に尿糖が陽性になることがあります。

ビタミンCの影響
大量のビタミンCを摂取すると、試験紙法で偽陰性(実際は陽性なのに陰性と判定される)を示すことがあります。検査前日からビタミンCのサプリメントは控えましょう。

薬剤の影響
一部の薬剤(抗生物質、解熱鎮痛剤など)が検査結果に影響を与えることがあります。

血糖値と尿糖の関係

尿糖と血糖値には密接な関係がありますが、必ずしも一致するわけではありません。

腎臓の糖再吸収閾値

腎臓には、ブドウ糖を再吸収する能力に限界があり、これを「糖再吸収閾値」と呼びます。

健康な成人では、血糖値が約170~180mg/dLを超えると、腎臓の再吸収能力を超え、尿中に糖が漏れ出てきます

つまり、血糖値が170mg/dL以下であれば、通常は尿糖は陰性です。逆に、血糖値が200mg/dL以上になると、尿糖は明らかに陽性となります。

尿糖と血糖値が一致しない場合

以下のような場合、尿糖と血糖値が必ずしも一致しません。

腎性糖尿
血糖値は正常なのに、腎臓での糖の再吸収閾値が低下しているため、尿糖が陽性になります。

糖尿病の早期
食後に一時的に血糖値が上昇するだけで、空腹時血糖値は正常な場合があります。このような場合、食後に採尿すれば尿糖が陽性になりますが、空腹時の尿では陰性となります。

高齢者
加齢により糖再吸収閾値が上昇し、血糖値が高くても尿糖が陽性になりにくいことがあります。

尿糖検査の限界

尿糖検査には、以下のような限界があります。

早期の糖尿病を見逃す可能性
血糖値が170mg/dL以下の境界型糖尿病や軽度の糖尿病では、尿糖が陰性のことが多く、見逃される可能性があります。

採尿時点の血糖値を反映しない
尿糖は、膀胱に尿が溜まっていた数時間の平均的な血糖状態を反映します。採尿時点の血糖値とは必ずしも一致しません。

個人差が大きい
糖再吸収閾値には個人差があり、同じ血糖値でも尿糖の出方が異なります。

そのため、糖尿病の診断には、尿糖検査だけでなく、血糖値やHbA1cの測定が必須です。尿糖検査は、あくまでもスクリーニング(ふるい分け)検査として位置づけられます。

尿糖が陽性になる原因

尿糖が陽性になる原因は、大きく分けて以下の通りです。

糖尿病

尿糖陽性の最も一般的で重要な原因は糖尿病です。

1型糖尿病
膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなります。若年で発症することが多く、インスリン治療が必須です。

高度の高血糖となり、尿糖は強陽性(3+や4+)を示すことが多いです。

2型糖尿病
日本の糖尿病患者の約95%を占めます。インスリンの分泌低下やインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)が原因です。

遺伝的要因と生活習慣(過食、運動不足、肥満、ストレス)が重なって発症します。初期には症状が乏しく、健康診断で尿糖陽性や高血糖を指摘されて初めて発見されることが多いです。

妊娠糖尿病
妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常です。出産後は正常化することが多いですが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高くなります。

腎性糖尿

腎性糖尿は、血糖値は正常なのに、腎臓での糖の再吸収能力が低下しているため、尿糖が陽性になる状態です。

家族性腎性糖尿
遺伝的に腎臓の糖トランスポーター(SGLT2など)の機能が低下しています。常染色体優性遺伝または劣性遺伝の形式をとります。

通常、血糖値が100~120mg/dL程度でも尿糖が陽性になります。予後は良好で、特別な治療は不要なことが多いです。

後天性腎性糖尿
腎疾患(慢性腎炎、ファンコニ症候群など)や薬剤の影響により、後天的に糖の再吸収能力が低下します。

腎性糖尿は病的意義が少ない場合が多いですが、必ず血糖値を測定して糖尿病でないことを確認する必要があります

食後高血糖(境界型糖尿病)

空腹時血糖値は正常ですが、食後に血糖値が急上昇する状態です。糖尿病の前段階であり、将来的に糖尿病を発症するリスクが高くなります。

食後2時間血糖値が140~199mg/dLの場合、境界型糖尿病(耐糖能異常)と判定されます。食後に採尿すると尿糖が陽性になることがあります。

妊娠

妊娠中は、胎盤からのホルモンの影響により、インスリンの効きが悪くなります。また、腎臓での糖の再吸収閾値が低下するため、血糖値が正常でも尿糖が陽性になることがあります。

ただし、妊娠糖尿病の可能性もあるため、尿糖が陽性の場合は血糖値の測定が必要です。

一時的な高血糖

以下のような状況で、一時的に血糖値が上昇し、尿糖が陽性になることがあります。

ストレス
身体的・精神的ストレスにより、ストレスホルモン(コルチゾール、アドレナリンなど)が分泌され、血糖値が上昇します。

薬剤
ステロイド薬や利尿薬などが血糖値を上昇させることがあります。

内分泌疾患
甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、先端巨大症などで、血糖値が上昇することがあります。

膵疾患
急性膵炎や慢性膵炎、膵臓がんなどで、インスリン分泌が低下し、血糖値が上昇することがあります。

尿糖陽性が見つかった場合の対応

健康診断などで尿糖陽性が指摘された場合、以下のように対応します。

再検査

まず、尿糖検査を再度行い、持続性か一過性かを確認します。一時的なものであれば、経過観察で良い場合もあります。

血糖値とHbA1cの測定

尿糖が持続的に陽性の場合、必ず血糖値とHbA1cを測定します。

空腹時血糖値
10時間以上絶食後の血糖値を測定します。126mg/dL以上であれば糖尿病型と判定されます。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
過去1~2か月間の平均的な血糖状態を反映します。6.5%以上であれば糖尿病型と判定されます。

随時血糖値
食事に関係なく測定した血糖値です。200mg/dL以上であれば糖尿病型と判定されます。

血糖値が正常で尿糖が陽性の場合は、腎性糖尿の可能性が高いですが、念のため75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行い、食後高血糖がないかを確認することもあります。

75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)

空腹時血糖値が境界域(110~125mg/dL)の場合や、食後高血糖が疑われる場合に行われます。

75gのブドウ糖液を飲んで、30分後、1時間後、2時間後の血糖値を測定します。2時間後の血糖値が200mg/dL以上であれば糖尿病型、140~199mg/dLであれば境界型と判定されます。

糖尿病と診断された場合

糖尿病と診断された場合、以下のような治療が開始されます。

生活習慣の改善
食事療法(適切なエネルギー摂取、バランスの良い食事)、運動療法(有酸素運動を中心に週150分以上)、体重管理、禁煙などが基本です。

薬物療法
生活習慣の改善だけでは血糖コントロールが不十分な場合、経口血糖降下薬やインスリン注射が使用されます。

合併症の予防
糖尿病の合併症(網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化など)を予防するため、定期的な検査と適切な治療が重要です。

腎性糖尿と診断された場合

腎性糖尿は基本的に無害で、特別な治療は不要です。ただし、定期的に血糖値を測定し、将来的に糖尿病を発症していないかを確認することが推奨されます。

また、まれに他の腎疾患(ファンコニ症候群など)が隠れていることがあるため、腎機能検査や尿検査の他の項目もチェックすることが大切です。

尿糖検査と血糖自己測定の違い

糖尿病の方は、血糖自己測定(SMBG)や持続血糖測定(CGM)を使用することがあります。これらと尿糖検査の違いを理解しておきましょう。

血糖自己測定(SMBG)

指先などから少量の血液を採取し、血糖測定器で血糖値を測定する方法です。測定時点の血糖値がリアルタイムでわかります。

インスリン治療を行っている方や、血糖コントロールが不安定な方に推奨されます。1日数回測定することで、食事や運動、薬物の効果を評価できます。

持続血糖測定(CGM/FGM)

皮下に小さなセンサーを装着し、24時間連続で血糖値(正確には組織間質液中のグルコース濃度)を測定する方法です。

血糖値の変動パターンが詳細にわかり、夜間低血糖や食後高血糖の発見に有用です。最近では、スマートフォンで簡単に血糖値を確認できるシステムも普及してきています。

尿糖検査の位置づけ

尿糖検査は、最も簡便で経済的な方法ですが、精度は血糖測定に劣ります

健康診断でのスクリーニングや、糖尿病治療中の大まかなコントロール状態の把握には有用ですが、詳細な血糖管理には血糖測定が必要です。

また、尿糖は血糖値が170mg/dL以下では陰性となるため、低血糖の検出はできません。インスリン治療を行っている方は、低血糖のリスクがあるため、血糖自己測定が必須です。

尿糖を予防・改善するための生活習慣

尿糖陽性を指摘された場合、または糖尿病予防のために、以下の生活習慣を心がけましょう。

食事療法

適切なエネルギー摂取
自分に必要なエネルギー量を守り、食べすぎを避けます。標準体重×25~30kcalが目安です。

炭水化物の質と量
精製された炭水化物(白米、白パン、砂糖)を控え、食物繊維が豊富な全粒穀物や玄米、野菜を積極的に摂ることで、血糖値の急上昇を防げます。

食べる順番
野菜(食物繊維)→タンパク質(肉、魚)→炭水化物(ご飯、パン)の順に食べることで、血糖値の上昇が緩やかになります。

間食の工夫
甘いお菓子や清涼飲料水は避け、どうしても間食する場合は、ナッツ類やチーズ、無糖のヨーグルトなどを選びます。

アルコールの適量
過度の飲酒は血糖コントロールを悪化させます。適量(1日ビール500mL程度)を守りましょう。

運動療法

有酸素運動
ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどを、週3~5回、1回30分以上行います。運動は、インスリンの働きを改善し、血糖値を下げる効果があります。

レジスタンス運動(筋力トレーニング)
週2~3回の筋トレは、筋肉量を増やし、基礎代謝を上げることで血糖コントロールを改善します。

食後の運動
食後30分~1時間後に軽い運動を行うと、食後血糖値の上昇を抑える効果が高いです。

その他の生活習慣

体重管理
肥満(BMI 25以上)の方は、5~10%の体重減少を目指しましょう。体重が減ると、インスリン抵抗性が改善します。

禁煙
喫煙は、インスリンの働きを低下させ、血糖コントロールを悪化させます。

ストレス管理
ストレスホルモンは血糖値を上昇させます。十分な睡眠とリラックスする時間を持ちましょう。

定期的な検査の重要性

糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどありません。年に1回以上の定期的な検査(空腹時血糖値、HbA1c、尿糖など)で早期発見し、早期に対応することが重要です。

特に、家族に糖尿病患者がいる方、肥満の方、40歳以上の方は、定期的に検査を受けることをお勧めします。

まとめ

尿糖検査は、尿中に糖が含まれているかを調べる簡便な検査で、糖尿病のスクリーニングに用いられます。健康な人では、血糖値が約170mg/dLを超えると尿糖が陽性になりますが、個人差があります。尿糖陽性の主な原因は糖尿病ですが、腎性糖尿(血糖値は正常だが尿糖が陽性)や妊娠、一時的な高血糖でも陽性になることがあります。

尿糖が陽性の場合は、必ず血糖値とHbA1cを測定して糖尿病の有無を確認します。血糖値が正常で尿糖が陽性の場合は腎性糖尿の可能性が高く、通常は無害です。ただし、尿糖検査だけでは早期の糖尿病を見逃す可能性があるため、糖尿病の診断には血糖値やHbA1cの測定が必須です。

糖尿病の予防と改善には、適切なエネルギー摂取と食物繊維の多い食事、有酸素運動と筋力トレーニング、体重管理が重要です。定期的な検査で早期発見を心がけましょう。