AFP検査は、肝臓がん(肝細胞がん)の早期発見や経過観察に最も重要な腫瘍マーカー検査です。特に肝炎ウイルス感染者や肝硬変患者にとって、定期的なAFP検査は肝臓がんの早期発見に不可欠です。本記事では、AFP検査の基礎知識、基準値の意味、肝臓がんや肝疾患との関係、異常値が出た場合の対処法、そして定期検査の重要性まで詳しく解説します。AFP検査を正しく理解して、肝臓の健康を守りましょう。
目次
AFP検査とは何か
AFP検査について、その基本的な性質と医療現場での役割を理解することが重要です。
AFPの基礎知識
AFPは「Alpha-fetoprotein(アルファフェトプロテイン)」の略称で、胎児期に肝臓や卵黄嚢で産生されるタンパク質です。出生後は通常ほとんど産生されなくなりますが、肝細胞がんが発生すると再び産生され、血液中のAFP値が上昇することがあります。
AFPは肝臓がん(肝細胞がん)で最も高い陽性率を示す腫瘍マーカーで、肝臓がん患者の約60から80%でAFP値が上昇します。また、肝硬変や慢性肝炎などの良性肝疾患でも軽度から中等度の上昇が見られることがあります。
AFP検査は血液検査で簡単に測定でき、肝炎ウイルス感染者や肝硬変患者の定期検査として広く実施されています。人間ドックや健康診断でも、肝機能異常がある方や肝疾患のリスクがある方に推奨される重要な検査項目です。
AFP検査の目的と活用法
AFP検査は主に4つの目的で実施されます。第一に、肝臓がんのスクリーニング検査として、特に肝炎ウイルス感染者や肝硬変患者の定期検査に用いられます。
第二に、肝臓がんの診断補助として、画像検査で肝臓に腫瘤が見つかった際に、肝細胞がんかどうかを判断する材料として使用されます。第三に、肝臓がん治療の効果判定として、手術や治療によりAFP値が低下すれば治療が効果的であることを示します。
第四に、治療後の経過観察として、再発や新たながんの発生を早期に発見するために定期的に測定されます。肝臓がん治療後は、3から6ヶ月ごとにAFP検査と画像検査(超音波やCT)を組み合わせて監視することが標準的です。
AFPの基準値と判定
AFP検査の結果を正しく理解するためには、基準値とその意味を知ることが必要です。
AFPの正常値と基準範囲
AFPの基準値は測定方法や施設により若干異なりますが、一般的に10ng/mL以下が正常範囲とされています。健康な成人では通常5ng/mL以下であることが多く、より低い値が望ましいとされます。
10ng/mLを超える場合は軽度上昇とされ、経過観察や精密検査が推奨されます。20ng/mLを超える場合は中等度上昇、200ng/mLを超える高値の場合は、肝臓がんの可能性が高まるため、速やかな精密検査が必要です。
進行した肝細胞がんでは、AFP値が数千から数万ng/mLに達することもあります。ただし、肝臓がんでもAFP値が上昇しないタイプ(AFP陰性肝細胞がん)もあり、約20から40%の肝臓がんではAFPが正常範囲内にとどまります。そのため、AFPが正常でも画像検査との併用が重要です。
AFP値上昇の程度と意味
AFP値の上昇の程度によって、その意味合いは異なります。軽度上昇(10から20ng/mL)の場合、慢性肝炎や肝硬変による上昇の可能性が高いですが、小さな肝臓がんの可能性も否定できません。
中等度上昇(20から200ng/mL)では、肝臓がんの可能性がより高くなり、腹部超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像診断が必要です。活動性の高い慢性肝炎でもこの程度の上昇が見られることがあります。
高度上昇(200ng/mL以上)では、肝細胞がんの可能性が非常に高く、緊急の精密検査と治療開始が求められます。ただし、急性肝炎や劇症肝炎でも一時的にAFPが高値を示すことがあるため、肝機能検査や画像検査を含めた総合的な判断が必要です。
肝臓がん(肝細胞がん)とAFP
AFPは肝臓がんの診断と管理において中心的な役割を果たす腫瘍マーカーです。
肝臓がんでのAFP陽性率
肝細胞がん患者の約60から80%でAFP値が上昇します。腫瘍のサイズが大きいほど、また分化度が低い(悪性度が高い)ほど、AFP陽性率が高くなる傾向があります。
早期の小さな肝臓がん(2cm以下)では、AFPが上昇しないことも多く、この段階での発見にはAFP検査と画像検査の両方が必要です。進行した肝臓がんでは、AFP値が著しく高値を示すことが多く、数千から数万ng/mLに達することもあります。
AFP値の推移は、肝臓がんの進行速度や治療効果を評価する重要な指標です。AFPが急速に上昇している場合は、がんが急速に進行している可能性があり、早急な治療介入が必要です。
AFP陰性肝細胞がんについて
約20から40%の肝細胞がんでは、AFPが正常範囲内にとどまります。これをAFP陰性肝細胞がんと呼びます。特に高分化型(悪性度が比較的低い)肝細胞がんでAFP陰性の割合が高い傾向があります。
AFP陰性肝細胞がんの存在があるため、AFPが正常でも肝臓がんを完全に否定できず、定期的な画像検査が不可欠です。肝炎ウイルス感染者や肝硬変患者は、AFP検査だけでなく、3から6ヶ月ごとの腹部超音波検査やCT検査を受けることが推奨されます。
AFP陰性の肝細胞がんでは、PIVKA-II(プロトロンビン異常症)という別の腫瘍マーカーが上昇することがあるため、AFPとPIVKA-IIを併用することで検出率が向上します。
肝臓がん治療とAFP値の変化
肝臓がんの治療(手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈化学塞栓療法など)が成功すると、通常はAFP値が低下または正常化します。治療前に高値だったAFPが治療後に正常化することは、治療の成功を示す良い兆候です。
治療後にAFP値が再び上昇してきた場合は、肝臓がんの再発や新たながんの発生を疑い、速やかに画像検査で確認することが必要です。肝臓がんは再発率が高い疾患であり、治療後も継続的な監視が極めて重要です。
化学療法や分子標的薬による治療中は、AFP値の推移を観察することで治療効果を評価できます。AFPが低下していれば治療が効果的であり、上昇や高値が持続する場合は治療方針の見直しが必要となることがあります。
肝硬変・肝炎とAFP
AFPは肝臓がんだけでなく、良性の肝疾患でも上昇することがあります。
慢性肝炎でのAFP上昇
B型肝炎やC型肝炎などの慢性肝炎では、肝細胞の破壊と再生が繰り返されるため、AFPが軽度から中等度上昇することがあります。通常は10から100ng/mL程度の上昇にとどまることが多いです。
肝炎の活動性が高い時期(ALTやASTなどの肝機能数値が高い時期)にAFPも上昇しやすく、肝炎の治療により肝機能が改善するとAFP値も低下する傾向があります。
ただし、慢性肝炎患者でAFPが持続的に上昇している場合や、急激に上昇してきた場合は、肝臓がんの発生を疑う必要があります。慢性肝炎は肝臓がんの主要なリスク因子であるため、定期的なAFP測定と画像検査による監視が重要です。
肝硬変でのAFP上昇
肝硬変では、肝細胞の再生能力が低下しているものの、一部で活発な細胞増殖が起こるため、AFPが上昇することがあります。肝硬変患者の約20から30%で軽度から中等度のAFP上昇が見られます。
肝硬変は肝臓がん発生の最大のリスク因子であり、年間数%の確率で肝細胞がんが発生します。そのため、肝硬変患者は、肝臓がんの早期発見のため、3から6ヶ月ごとにAFP検査と画像検査を受けることが強く推奨されます。
肝硬変でAFP値が徐々に上昇してきた場合や、100ng/mLを超える場合は、肝臓がんの発生を強く疑い、造影CT検査やMRI検査などの精密画像検査が必要です。早期発見により、根治的治療(手術や焼灼療法)の機会が得られます。
急性肝炎・劇症肝炎とAFP
急性肝炎や劇症肝炎では、大量の肝細胞が破壊された後、肝臓の再生過程でAFPが一時的に著しく高値を示すことがあります。数百から数千ng/mLに達することもあります。
この場合のAFP上昇は肝臓がんによるものではなく、肝細胞の再生反応を反映しています。肝炎が治癒するとともにAFP値も正常化します。急性肝炎と肝臓がんの鑑別には、臨床経過、肝機能検査、画像検査を総合的に評価することが必要です。
若年者で肝炎の既往がなく、急激にAFPが上昇した場合は、急性肝炎の可能性が高いですが、肝炎ウイルス感染の既往がある方や中高年では、肝臓がんの可能性も考慮する必要があります。
AFP値が高い場合の対処法
AFP検査で異常値が出た場合、適切に対処することが重要です。段階的に対応しましょう。
精密検査の必要性と種類
AFP値が基準値を超えた場合、まずは精密検査で原因を特定することが必要です。肝臓がんの可能性を調べるためには、腹部超音波検査が第一選択です。簡便で繰り返し実施でき、肝臓の腫瘤を検出できます。
造影CT検査や造影MRI検査は、肝臓がんの診断精度が高く、腫瘍の性質や血管との関係を詳しく評価できます。特にEOB-MRI(肝細胞特異的造影剤を用いたMRI)は、小さな肝臓がんの検出に優れています。
血管造影検査やCT-angiography(CT血管造影)は、肝臓がんの血流を詳しく調べることができ、治療方針の決定に役立ちます。必要に応じて肝生検(肝臓組織を採取して顕微鏡で調べる検査)が行われることもあります。AFP値が高い場合は、これらの精密検査を速やかに受けることが重要です。
定期検査と監視の重要性
肝炎ウイルス感染者や肝硬変患者は、肝臓がんのハイリスク群であり、定期的な監視が極めて重要です。3から6ヶ月ごとにAFP検査と腹部超音波検査を受けることで、肝臓がんを早期に発見できます。
早期発見により、手術やラジオ波焼灼術などの根治的治療が可能となり、予後が大幅に改善します。AFP値が軽度上昇している場合でも、定期的に検査を受けて値の推移を観察することが重要です。
AFPが徐々に上昇してきた場合や、画像検査で小さな結節が見つかった場合は、より短い間隔(1から3ヶ月ごと)での検査が推奨されます。また、PIVKA-IIなど他の腫瘍マーカーも併用することで、検出率が向上します。
肝炎治療とがん予防
B型肝炎やC型肝炎の治療により、肝臓がんの発生リスクを大幅に減らすことができます。C型肝炎では、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によりほぼ100%のウイルス排除が可能となり、肝臓がんのリスクが大幅に低下します。
B型肝炎では、核酸アナログ製剤によるウイルス増殖抑制治療により、肝硬変への進行や肝臓がんの発生を抑制できます。肝炎の治療を適切に受けることが、最も効果的な肝臓がん予防策の一つです。
ただし、ウイルスが排除された後も、既に肝硬変に進行している場合は肝臓がんのリスクが残るため、治療後も定期的な検査を継続することが重要です。肝炎治療を受けた方も、AFPと画像検査による監視を続けましょう。
肝臓がん予防のための生活習慣
AFP値にかかわらず、肝臓の健康を守り、肝臓がんを予防するための生活習慣が重要です。
禁酒と適正飲酒
過度の飲酒は、肝硬変の主要な原因の一つであり、肝臓がんのリスクを高めます。既に肝炎ウイルス感染や肝機能異常がある方は、禁酒が強く推奨されます。
健康な方でも、適正飲酒量を守ることが重要で、男性は1日あたり日本酒1合程度、女性はその半分程度が目安です。週に2日以上の休肝日を設けることも、肝臓の健康維持に有効です。
アルコール性肝疾患がある場合は、完全禁酒により肝機能の改善が期待できます。禁酒が難しい場合は、専門医や禁酒支援プログラムの助けを借りることも検討しましょう。
食生活と体重管理
肥満や脂肪肝は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)から肝硬変、肝臓がんへと進行するリスクがあります。適正体重を維持し、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。
野菜や果物を多く摂り、脂肪分や糖分の多い食品を控えることが推奨されます。コーヒーには肝臓がん予防効果があることが複数の研究で示されており、1日2から3杯のコーヒー摂取が有益とされています。
糖尿病は肝臓がんのリスク因子でもあるため、血糖コントロールを良好に保つことも重要です。適度な運動習慣は、体重管理だけでなく、肝機能の改善にも効果的です。
肝炎ウイルス検査と予防接種
自分が肝炎ウイルスに感染しているかどうかを知ることが、肝臓がん予防の第一歩です。まだ肝炎ウイルス検査を受けたことがない方は、ぜひ一度検査を受けましょう。
B型肝炎については、予防接種(ワクチン)により感染を防ぐことができます。特に医療従事者や家族にB型肝炎患者がいる方は、予防接種が推奨されます。C型肝炎にはワクチンがありませんが、感染経路(主に血液を介した感染)を知り、予防に努めることが重要です。
肝炎ウイルスに感染していることがわかった場合は、専門医の指導のもとで適切な治療と定期検査を受けることで、肝硬変や肝臓がんへの進行を防ぐことができます。
まとめ
AFP検査は、肝臓がん(肝細胞がん)の早期発見と経過観察に最も重要な腫瘍マーカー検査です。基準値は10ng/mL以下とされ、この値を超える場合は精密検査や経過観察が推奨されます。
AFP値の上昇は肝臓がんだけでなく、慢性肝炎や肝硬変などの良性肝疾患でも起こるため、画像検査と組み合わせた総合的な評価が重要です。肝炎ウイルス感染者や肝硬変患者は、3から6ヶ月ごとのAFP検査と画像検査により、肝臓がんを早期に発見できます。
肝炎の適切な治療、禁酒や体重管理などの生活習慣改善、そして定期的な検査が、肝臓がん予防と早期発見の鍵となります。AFP値に異常がある場合や、肝疾患のリスクがある方は、恐れずに専門医を受診し、適切な管理を受けることが、健康な肝臓を守るために極めて重要です。










