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PSA検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
PSA検査は、血液検査の一種で、前立腺から分泌されるPSA(前立腺特異抗原:Prostate Specific Antigen)という物質の血中濃度を測定する検査です。主に前立腺がんのスクリーニング検査として用いられ、50歳以上の男性に推奨されています。
前立腺は、男性だけにある生殖器の一つで、膀胱の下にあり、尿道を取り囲むように位置しています。前立腺液を分泌し、精液の一部を構成します。
PSAは前立腺の細胞で作られるタンパク質で、正常でも微量が血液中に漏れ出しますが、前立腺がん、前立腺肥大症、前立腺炎などがあると血中濃度が上昇します。
PSA検査は、簡便で痛みもなく、前立腺がんの早期発見に非常に有用です。日本では年間約9万人が前立腺がんと診断されており、男性のがん罹患数の第1位となっています。早期発見により、治癒率が大幅に向上します。
PSA検査の基準値と年齢別の目安
PSA値の基準値と解釈は、年齢や他の要因によって異なります。一般的な基準を理解しておくことが重要です。
一般的なPSA基準値
PSAの基準値は、4.0 ng/mL以下が正常とされています。4.0~10.0 ng/mLはグレーゾーン(前立腺がんの可能性が約25%)、10.0 ng/mL以上では前立腺がんの可能性が約50%以上と高くなります。
ただし、PSA値が基準値以下でも前立腺がんが存在する場合もあり(約15%)、逆に高値でもがんではない場合もあります。PSA検査は完璧な検査ではなく、あくまでスクリーニング(ふるい分け)検査であることを理解しておく必要があります。
年齢別PSA基準値
PSA値は加齢とともに上昇する傾向があります。そのため、年齢別の基準値も提唱されています。50~64歳では3.0 ng/mL以下、65~69歳では3.5 ng/mL以下、70歳以上では4.0 ng/mL以下が目安です。
若年者でPSA値が高い場合は、より注意深い精密検査が必要です。一方、高齢者では、前立腺肥大症の影響でPSA値が高めになることが多いです。
PSA density(PSA密度)とPSA velocity(PSA上昇速度)
PSA density(PSAD)は、PSA値を前立腺の体積で割った値です。前立腺の大きさを考慮した指標で、0.15以上の場合、がんの可能性が高まります。
PSA velocity(PSAV)は、1年間にPSA値がどれだけ上昇したかを示す指標で、年間0.75 ng/mL以上の上昇がある場合、がんのリスクが高いとされます。PSA値が基準値内でも、急激な上昇がある場合は精密検査が推奨されます。
PSA値が高くなる原因
PSA値が高くなる原因は、前立腺がんだけではありません。さまざまな要因でPSA値は変動します。
前立腺肥大症(BPH)
前立腺肥大症は、加齢とともに前立腺が大きくなる良性の疾患です。50歳以上の男性の約半数に見られます。前立腺が大きくなると、PSA値も上昇します。
症状としては、頻尿(特に夜間)、排尿困難、尿の勢いの低下、残尿感などがあります。前立腺肥大症では、PSA値は通常4~10 ng/mL程度の軽度上昇にとどまることが多いです。
前立腺炎
前立腺炎は、細菌感染や非細菌性の炎症により前立腺に炎症が起こる疾患です。排尿痛、頻尿、会陰部の不快感、発熱などの症状があります。
前立腺炎では、PSA値が一時的に大きく上昇することがあります。炎症が治まると、PSA値は正常化します。前立腺炎の治療後、4~6週間経ってからPSA検査を再度行うことが推奨されます。
その他のPSA上昇要因
直腸診(医師が肛門から指を入れて前立腺を触診する検査)、前立腺生検、カテーテル留置、激しい自転車運動、射精などでも一時的にPSA値が上昇することがあります。
PSA検査を受ける前には、これらの行為を避けることが推奨されます。特に射精は検査の2~3日前から控える、直腸診や前立腺マッサージの後は1週間以上空けるなどの配慮が必要です。
PSA値が高い場合の精密検査
PSA値が基準値を超えている場合、または急激な上昇が見られる場合は、前立腺がんの有無を確認するための精密検査が必要です。
直腸診(DRE)
泌尿器科医が肛門から指を入れて、前立腺の大きさ、硬さ、表面の状態を触診する検査です。前立腺がんがある場合、硬いしこりや表面の凹凸が触知されることがあります。
簡便で侵襲性が低い検査ですが、前立腺の後面しか触診できないため、すべてのがんを発見できるわけではありません。PSA検査と組み合わせることで、診断精度が向上します。
前立腺MRI検査
MRI検査により、前立腺の詳細な画像を得ることができます。がんの疑われる部位を特定し、その大きさや広がりを評価します。最近では、マルチパラメトリックMRI(mpMRI)という高度な撮影法により、がんの検出率が向上しています。
MRI検査は侵襲性がなく、放射線被曝もないため、安全性の高い検査です。PSA値が高い場合、生検前にMRI検査を行うことが推奨されています。
前立腺生検
前立腺生検は、前立腺がんの確定診断に必要な検査です。経直腸的または経会陰的に針を刺し、前立腺組織を10~12箇所採取します。採取した組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を確認します。
局所麻酔下で行われ、検査時間は15~30分程度です。検査後、一時的な血尿、血便、血精液症(精液に血が混じる)が見られることがありますが、通常は数日~数週間で改善します。感染症のリスクがあるため、予防的に抗生物質が投与されます。
前立腺がんの特徴と治療
前立腺がんは、日本の男性のがん罹患数第1位ですが、早期発見により治癒率が高いがんです。前立腺がんの特徴と治療法を理解しておくことが重要です。
前立腺がんの進行速度
前立腺がんは、一般的に進行が遅いがんです。多くの前立腺がんは、数年~十数年かけてゆっくりと進行します。特に高齢者では、前立腺がんがあっても一生症状が出ない「ラテントがん(潜在がん)」として存在することもあります。
一方、若年者や悪性度の高い前立腺がんでは、急速に進行することもあります。PSA検査による定期的なスクリーニングにより、早期発見と適切な治療選択が可能になります。
前立腺がんのグリソンスコア
生検で前立腺がんが見つかった場合、グリソンスコア(Gleason Score)という指標で悪性度を評価します。スコアは2~10で表され、数値が高いほど悪性度が高くなります。
スコア6以下は低リスク、7は中リスク、8~10は高リスクに分類されます。このリスク分類、PSA値、病期(ステージ)を総合的に判断して、治療方針が決定されます。
前立腺がんの治療法
早期の前立腺がんでは、手術療法(前立腺全摘除術)、放射線療法(外照射療法、小線源療法)、監視療法(PSA監視療法)などが選択肢となります。手術や放射線療法は根治を目指す治療です。
低リスクの前立腺がんでは、すぐに治療せず定期的にPSA検査や生検を行って経過を見る「監視療法」が選択されることもあります。進行した前立腺がんでは、ホルモン療法(内分泌療法)や化学療法が行われます。
PSA検査を受けるべき人と頻度
すべての男性がPSA検査を受ける必要があるわけではありませんが、一定の年齢以上の方や、リスク要因を持つ方には検査が推奨されます。
PSA検査の推奨年齢
50歳以上の男性は、年に1回のPSA検査が推奨されます。家族歴(父親や兄弟に前立腺がん患者がいる)がある場合は、45歳からの検査開始が望ましいです。
75歳以上で余命が10年未満と推定される場合、または重篤な合併症がある場合は、検査のメリットが少ないため、個別に判断されます。
PSA検査のメリットとデメリット
メリットは、前立腺がんの早期発見により、治癒率が向上し、生存率が改善することです。簡便で痛みもなく、比較的低コストで受けられます。
デメリットとしては、偽陽性(がんがないのに検査陽性)により不必要な精密検査や生検を受けることになる可能性、過剰診断(治療不要ながんを見つけてしまう)により不必要な治療を受ける可能性があります。これらのメリット・デメリットを理解した上で、検査を受けるかどうかを判断することが重要です。
まとめ
PSA検査は、血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定し、前立腺がんをスクリーニングする検査です。基準値は4.0 ng/mL以下で、4.0~10.0 ng/mLはグレーゾーン、10.0 ng/mL以上では前立腺がんの可能性が高くなります。
PSA値は年齢とともに上昇し、前立腺肥大症や前立腺炎でも高値を示すため、高値=がんとは限りません。
PSA値が高い場合は、直腸診、前立腺MRI検査、前立腺生検などの精密検査が必要です。前立腺がんは進行が遅いがんが多く、早期発見により治癒率が高いため、50歳以上の男性は年に1回のPSA検査が推奨されます。
家族歴がある場合は45歳からの検査開始が望ましいです。PSA検査により、前立腺がんの早期発見と適切な治療選択が可能になり、健康寿命の延伸につながります。










