更年期障害とは?原因・症状・HRT治療・対策を徹底解説

更年期障害とは?基本的な知識をわかりやすく解説

更年期障害は、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少により引き起こされる、さまざまな心身の不調を指します。

更年期とは、閉経前後の約10年間(一般的に45歳~55歳頃)を指し、この時期に卵巣機能が低下してエストロゲンの分泌が急速に減少します。このホルモン変化に体が適応できず、多様な症状が現れるのが更年期障害です。

日本人女性の平均閉経年齢は約50歳で、更年期障害の症状は個人差が非常に大きいのが特徴です。

約2~3割の女性が日常生活に支障をきたすほどの重い症状を経験しますが、軽度の症状で済む方、ほとんど症状を感じない方もいます。症状の程度は、体質、ストレス、生活環境、性格などによって左右されます。

更年期障害は「年齢的なもの」として我慢されがちですが、適切な治療により症状を大きく改善できます。

近年はホルモン補充療法(HRT)や漢方薬など、さまざまな治療選択肢があり、QOL(生活の質)を維持しながら更年期を過ごすことが可能です。

更年期障害の主な症状

更年期障害の症状は多岐にわたり、血管運動神経症状、精神神経症状、運動器症状の3つに大きく分類されます。

複数の症状が同時に現れることも多く、症状の種類や程度は日によって変動するのが特徴です。

血管運動神経症状(ホットフラッシュ)

最も代表的な症状が、ほてりと発汗です。突然顔や上半身がカーッと熱くなり、大量の汗が出る「ホットフラッシュ」は、更年期障害の最も特徴的な症状です。

数分から数十分続き、1日に何度も起こることがあります。特に夜間に症状が出ると、寝汗で目が覚めたり、睡眠の質が低下したりします。動悸や息切れ、めまい、耳鳴り、頭痛なども血管運動神経症状に含まれます。

精神神経症状

イライラ、怒りっぽくなる、気分の落ち込み、不安感、意欲の低下、集中力の低下、物忘れなどの精神的な症状も頻繁に見られます。

これらの症状は、ホルモン変化による脳内神経伝達物質のバランスの乱れが原因です。不眠も多く、寝つきが悪い、途中で何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなどの睡眠障害に悩まされる方が少なくありません。

運動器症状と全身症状

肩こり、腰痛、関節痛、手指のこわばりなど、運動器の症状も更年期に多く見られます。

また、疲労感、倦怠感、冷え、しびれ、皮膚の乾燥、口の渇き、頻尿、性交痛なども更年期障害の症状として現れることがあります。エストロゲンは全身のさまざまな組織に作用しているため、その減少により多様な症状が出現するのです。

更年期障害の原因とリスク要因

更年期障害の根本的な原因は、卵巣機能の低下によるエストロゲンの減少ですが、症状の出方には個人差があります。

ホルモン変化、自律神経の乱れ、心理社会的要因の3つが複雑に絡み合って症状が現れます。

ホルモンバランスの変化

閉経が近づくと、卵巣から分泌されるエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンは女性らしい体を作るだけでなく、脳、血管、骨、皮膚など全身に作用しています。

その急激な減少に体が適応できず、自律神経が乱れ、さまざまな症状が引き起こされます。脳はエストロゲンを増やそうと卵胞刺激ホルモン(FSH)を大量に分泌しますが、この急激なホルモン変動も症状を悪化させる要因となります。

心理社会的要因

更年期は、子どもの独立、親の介護、仕事の責任増加など、人生の転換期と重なることが多い時期です。

これらのストレスや環境変化が、更年期障害の症状を悪化させることがあります。真面目で完璧主義な性格、神経質な性格の方は、症状が重くなりやすい傾向があります。

生活習慣とその他の要因

運動不足、不規則な生活、睡眠不足、偏った食事などの生活習慣も症状に影響します。

また、若い頃から月経不順があった方、過度のダイエット経験がある方、喫煙習慣のある方なども、更年期障害が重くなる傾向があります。早期閉経(40歳未満で閉経)や手術による卵巣摘出後は、より急激なホルモン変化が起こるため、症状が強く出ることがあります。

更年期障害の診断方法

更年期障害の診断には、年齢、症状、血液検査を総合的に判断します。

他の疾患との鑑別も重要なポイントです。

問診と症状評価

まず、年齢、月経の状態、症状の内容と程度を詳しく問診します。簡略更年期指数(SMI)という質問票を使用して、症状の重症度を客観的に評価することもあります。

この指数により、治療の必要性や治療方法を判断する参考にします。

血液検査(ホルモン測定)

血液検査でエストロゲン(E2)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を測定します。

更年期では、エストロゲンが低下し、FSHが上昇するパターンが見られます。ただし、更年期初期はホルモン値が変動するため、1回の検査だけでは判断できないこともあります。また、甲状腺機能なども同時に調べ、他の疾患の可能性を除外します。

除外診断の重要性

更年期障害と似た症状を示す他の疾患(甲状腺機能異常、うつ病、自律神経失調症、心臓疾患など)を除外することが重要です。

特に動悸や息切れがある場合は心電図検査、精神症状が強い場合は精神科・心療内科との連携も必要になることがあります。

ホルモン補充療法(HRT)の効果と安全性

HRT(ホルモン補充療法)は、減少したエストロゲンを補充する治療法で、更年期障害に最も効果的とされています。

特にホットフラッシュや発汗などの血管運動神経症状に対して、高い改善効果が期待できます。

HRTの種類と方法

HRTには、飲み薬(経口薬)、貼り薬(パッチ)、塗り薬(ジェル)などの形態があります。

子宮がある方は、エストロゲンと黄体ホルモンを併用する必要があります(エストロゲン単独では子宮体がんのリスクが上がるため)。子宮を摘出している方は、エストロゲンのみの投与が可能です。投与方法や薬剤の種類は、症状や体質、ライフスタイルに合わせて選択します。

HRTの効果

HRTの効果は非常に高く、ホットフラッシュは約80~90%の方で改善します。

精神症状、睡眠障害、関節痛なども改善が期待できます。さらに、骨密度の低下を防ぎ、骨粗鬆症の予防効果もあります。肌の乾燥や膣の萎縮による不快症状も改善し、QOLの向上につながります。

HRTの安全性と注意点

HRTに対しては「乳がんのリスクが上がる」という不安を持つ方も多いですが、5年未満の使用では乳がんリスクの増加はほとんどないとされています。

ただし、乳がんの既往がある方、血栓症のリスクが高い方、重度の肝機能障害がある方などは使用できません。定期的な乳がん検診(マンモグラフィ)や子宮がん検診を受けながら、安全にHRTを続けることが重要です。

漢方薬とその他の治療法

HRTが使用できない方や、HRTを希望しない方には、漢方薬が有効な選択肢となります。

当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸が更年期障害によく使われる代表的な漢方薬です。

主な漢方薬とその特徴

当帰芍薬散は、冷えや疲労感が強く、体力が低下している虚弱タイプの方に適しています。

加味逍遙散は、イライラや不安、不眠などの精神症状が強い方に効果的です。桂枝茯苓丸は、のぼせや肩こり、頭痛があり、比較的体力のある実証タイプの方に向いています。漢方薬は体質に合わせて選ぶことが重要で、専門医の診断のもとで使用することが推奨されます。

大豆イソフラボンとエクオール

大豆イソフラボンは、エストロゲンに似た作用を持つ植物性成分です。

豆腐、納豆、豆乳などの大豆製品を日常的に摂取することで、軽度の更年期症状の緩和が期待できます。特に、イソフラボンが腸内細菌によって変換されてできる「エクオール」は、より強いエストロゲン様作用を持ちます。エクオールを産生できない体質の方は、エクオールサプリメントを利用する選択肢もあります。

生活習慣の改善とカウンセリング

適度な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠などの生活習慣改善も重要です。

ウォーキングやヨガなどの有酸素運動は、ストレス解消と自律神経の調整に効果的です。カウンセリングや認知行動療法も、精神症状が強い場合に有効です。必要に応じて、抗不安薬や抗うつ薬が処方されることもあります。

更年期を快適に過ごすための生活習慣

更年期を健やかに過ごすには、バランスの良い食事、適度な運動、ストレス管理が欠かせません。

日常生活でできる具体的な対策を紹介します。

食事と栄養

大豆製品、野菜、果物、魚、海藻などを中心とした和食は、更年期の健康維持に理想的です。

カルシウムとビタミンDは骨粗鬆症予防のために特に重要です。乳製品、小魚、緑黄色野菜を積極的に摂取しましょう。また、ビタミンE(ナッツ類、アボカド)、ビタミンB群(豚肉、レバー)も更年期症状の緩和に役立ちます。

運動習慣

週3~5回、30分程度のウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動がおすすめです。

運動は、ホットフラッシュの軽減、気分の改善、睡眠の質向上、骨密度の維持に効果があります。ヨガやストレッチも、リラックス効果とホルモンバランスの調整に役立ちます。

ストレス管理と趣味

更年期は人生の転換期であり、自分自身を見つめ直す良い機会でもあります。

趣味や興味のあることに時間を使い、リフレッシュする時間を持つことが大切です。友人との交流、旅行、習い事など、楽しみを見つけることで、精神的な安定につながります。完璧主義を手放し、自分を労わる姿勢も重要です。

まとめ

更年期障害は、エストロゲンの急激な減少により引き起こされる心身のさまざまな不調です。

45~55歳頃の閉経前後に多く、ほてり、発汗、イライラ、不眠などの症状が特徴的です。

症状の重さには個人差があり、日常生活に支障をきたす方も少なくありません。診断には年齢、症状、ホルモン検査を総合的に判断し、他の疾患との鑑別も重要です。

治療の第一選択はHRT(ホルモン補充療法)で、特にホットフラッシュに高い効果があります。5年未満の使用では安全性も確認されています。

HRTが使えない方や希望しない方には、漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸)が有効です。

大豆イソフラボンやエクオールも補助的に役立ちます。日常生活では、バランスの良い食事、適度な運動、ストレス管理が症状緩和に重要です。

更年期障害は「年齢的なもの」と我慢せず、適切な治療を受けることで快適に過ごせます。

つらい症状がある場合は、婦人科や更年期外来を受診し、自分に合った治療法を見つけましょう。更年期を前向きに捉え、新しい人生のステージとして楽しむ姿勢が大切です。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。