便潜血検査は、便に混じった微量の血液を検出する検査で、大腸がんや大腸ポリープなどの早期発見に役立つスクリーニング検査です。日本では、40歳以上の方を対象に、年1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されており、自治体の住民検診でも広く実施されています。
現在の便潜血検査は、2日間にわたって便を採取する「2日法」が標準的な方法です。この方法により、1日法よりも高い精度で大腸の異常を発見できることが明らかになっています。検査は自宅で簡単に行え、痛みや苦痛もありません。
本記事では、便潜血検査の原理と方法、2日法の重要性、検査の精度(陽性率、偽陽性、偽陰性)、陽性時の対応、検査前の注意点、そして大腸がん検診の重要性まで、わかりやすく解説していきます。
目次
便潜血検査とは
便潜血検査は、便に混じった目に見えない微量の血液を検出する検査です。大腸がんや大腸ポリープなどの病変があると、便が通過する際に病変部が擦れて出血し、その血液が便に混じります。この微量の血液を検出することで、大腸の異常を早期に発見します。
現在広く用いられているのは「免疫法」という方法です。これは、ヒトのヘモグロビン(血液中の赤い色素)に特異的に反応する抗体を使って、便中の血液を検出します。従来の「化学法」と異なり、食事の影響を受けにくく、偽陽性が少ないという利点があります。
便潜血検査は、大腸がんによる死亡率を減少させる効果が科学的に証明されている検査方法です。定期的に検査を受けることで、大腸がんを早期に発見し、適切な治療につなげることができます。
便潜血検査の目的と意義
便潜血検査の主な目的は、大腸がんと大腸ポリープの早期発見です。大腸がんは、早期に発見して治療すれば、ほぼ100%治癒が期待できるがんです。しかし、初期段階では自覚症状がほとんどないため、検診による早期発見が重要です。
大腸ポリープは、大腸がんの前段階とも言える病変です。特に腺腫性ポリープは、放置すると数年から十数年かけてがんに変化する可能性があります。便潜血検査でポリープを発見し、内視鏡で切除することで、大腸がんの発症を予防できます。
また、便潜血検査は、大腸がん以外の病気(潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸憩室出血など)による出血を発見する手がかりにもなります。ただし、これらの疾患の診断には、追加の検査が必要です。
便潜血検査の方法:2日法
日本の大腸がん検診では、2日間連続して便を採取する2日法が標準的な方法として採用されています。1日法と比較して、2日法の方が大腸がんやポリープの発見率が高いことが研究で示されています。
検査キットと採取方法
検査キットは、検診を受ける医療機関や自治体から配布されます。キットには、採便容器(通常2本)、採便棒(採便容器に付属)、説明書、提出用の袋などが含まれています。
採便方法は、まず排便後、採便棒の先端で便の表面を数か所(通常は3~5か所)軽くこすり取ります。便の量は、採便棒の先端の溝に入る程度(米粒大)で十分です。採取した便を容器に入れて、しっかりとキャップを閉めます。
この作業を2日間繰り返します。2日目は、1日目とは別の日の便を採取してください。同じ日の便を2回採取しても意味がありません。採便後は、容器に日付と氏名を記入し、指定された期日までに提出します。
採便時の注意点
正確な検査結果を得るために、いくつかの注意点があります。まず、便は新鮮なものを採取してください。排便後、できるだけ早く採取することが理想的です。
採便棒は便の表面を軽くこするだけで十分です。便を大量に採取したり、便器の水に浸かった部分から採取したりしないでください。水で薄まると正確な結果が得られない可能性があります。
生理中や痔からの出血がある場合は、検査を延期することが望ましいです。これらの血液が便に混じると、偽陽性(実際には大腸の異常がないのに陽性と判定される)の原因となります。検査の延期が難しい場合は、その旨を申告してください。
採取した便は、冷暗所に保管してください。直射日光や高温を避け、できれば冷蔵庫の野菜室などに保管することが推奨されます。ただし、凍結させないように注意してください。
食事制限は必要か
現在の免疫法による便潜血検査では、特別な食事制限は必要ありません。以前の化学法では、肉類や鉄剤、ビタミンCなどが検査結果に影響を与えるため、食事制限が必要でしたが、免疫法ではこれらの影響はほとんどありません。
ただし、大量の赤身肉や鉄分を含む食品を摂取した場合、まれに影響が出ることがあります。また、アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤は、胃や腸の粘膜を傷つけて出血を引き起こす可能性があるため、長期服用している場合は医師に相談してください。
検査の数日前から当日にかけては、通常通りの食事で問題ありませんが、過度の飲酒や刺激物の摂取は控えめにすることが望ましいです。
便潜血検査の精度:陽性率、偽陽性、偽陰性
便潜血検査の精度を理解するために、陽性率、偽陽性、偽陰性という概念を知っておくことが重要です。
陽性率
便潜血検査の陽性率(検査を受けた人のうち、陽性と判定される人の割合)は、一般的に5~7%程度です。つまり、100人が検査を受けると、5~7人が陽性と判定されます。
陽性率は、受診者の年齢、性別、リスク要因などによって変動します。高齢者では陽性率が高くなる傾向があります。また、過去に大腸ポリープや大腸がんの既往がある方も、陽性率が高くなります。
陽性と判定された場合、必ずしも大腸がんがあるわけではありません。実際に大腸がんが見つかる確率(陽性的中率)は、陽性者の約2~3%程度です。多くの場合は、大腸ポリープや痔、大腸憩室などの良性の病変が原因です。
偽陽性
偽陽性とは、実際には大腸に重大な異常がないのに、検査が陽性と判定されることです。便潜血検査では、大腸がん以外の原因による出血(痔、大腸憩室出血、炎症性腸疾患など)でも陽性となるため、偽陽性が一定の割合で発生します。
また、前述のように生理中の血液や、大量の肉類の摂取、一部の薬剤などが偽陽性の原因となることがあります。便の採取や保管方法が不適切な場合も、偽陽性につながる可能性があります。
偽陽性は、不要な精密検査(大腸内視鏡検査)を受けることになるという欠点がありますが、一方で、大腸の状態を詳しく調べる機会にもなります。大腸がん以外の病気が発見されることもあり、必ずしも無駄な検査とは言えません。
偽陰性
偽陰性とは、実際には大腸に異常があるのに、検査が陰性と判定されることです。便潜血検査の最大の問題点は、この偽陰性の存在です。
大腸がんがあっても、常に出血しているわけではありません。出血が間欠的(時々しか起こらない)である場合や、出血量が非常に少ない場合、採取した便に血液が含まれず、陰性と判定されることがあります。
2日法を採用することで、1日法よりも偽陰性を減らすことができますが、それでも完全になくすことはできません。大腸がんの約20~30%は、便潜血検査では発見されないと言われています。そのため、検査が陰性でも、血便や腹痛、体重減少などの症状がある場合は、医療機関を受診することが重要です。
便潜血検査が陽性だった場合の対応
便潜血検査が陽性と判定された場合、必ず大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることが推奨されます。陽性という結果は、大腸のどこかから出血している可能性を示すサインであり、原因を特定するために精密検査が必要です。
陽性と判定されても、多くの場合は大腸がんではありません。しかし、中には早期の大腸がんや前がん病変である大腸ポリープが見つかることがあります。早期に発見できれば、内視鏡での切除や簡単な治療で完治できます。
陽性判定を放置することは非常に危険です。「痔があるから」「症状がないから」といった理由で精密検査を受けないでいると、がんが進行してしまう可能性があります。実際、便潜血陽性でも精密検査を受けなかった方の中から、進行した大腸がんが発見される事例が報告されています。
大腸内視鏡検査について
大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を挿入して大腸全体を観察する検査です。ポリープや腫瘍、炎症などの病変を直接観察でき、必要に応じて組織を採取したり、ポリープを切除したりすることができます。
検査前日には、腸をきれいにするための食事制限と下剤の服用が必要です。当日は、さらに大量の腸管洗浄液を飲んで、腸内をきれいにします。検査自体は30分~1時間程度で終了します。
近年では、鎮静剤や鎮痛剤を使用することで、苦痛を軽減した検査が一般的になっています。また、内視鏡の技術向上により、以前よりも楽に検査を受けられるようになっています。
便潜血検査の限界と他の検査法
便潜血検査は簡便で有用な検査ですが、いくつかの限界があります。最大の限界は、前述の偽陰性です。すべての大腸がんを発見できるわけではないことを理解しておく必要があります。
また、便潜血検査は出血を伴う病変の発見には優れていますが、出血していない病変は検出できません。早期の小さながんや平坦型の病変では、出血が少なく、見逃される可能性があります。
さらに、陽性という結果が出ても、出血の原因や部位は特定できません。原因を明らかにするには、必ず大腸内視鏡検査などの精密検査が必要です。
他の大腸がん検診方法
便潜血検査以外の大腸がん検診方法としては、大腸内視鏡検査、S状結腸内視鏡検査、注腸X線検査などがあります。
大腸内視鏡検査は、最も精度の高い検査方法で、診断と治療を同時に行えるという利点があります。しかし、前処置の負担や、検査時の苦痛、まれに合併症(穿孔、出血など)のリスクがあることが欠点です。
近年では、大腸CT検査(CTコロノグラフィー)という、CTを用いて大腸を観察する方法も普及してきています。内視鏡を挿入せずに大腸全体を観察できますが、ポリープの切除はできないため、異常が見つかれば結局は内視鏡検査が必要になります。
現状では、スクリーニング検査としては便潜血検査が最も推奨されています。簡便で低コスト、そして科学的根拠に基づいて有効性が証明されているためです。
大腸がん検診を受けるべき人
日本では、40歳以上のすべての方に年1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されています。大腸がんは50歳以降で発症率が急増するため、40歳を過ぎたら定期的に検診を受けることが重要です。
特に以下のような方は、大腸がんのリスクが高いため、積極的に検診を受けるべきです。家族に大腸がんや大腸ポリープの既往がある方、過去に自分自身が大腸ポリープを切除した方、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患がある方などです。
これらの高リスク群に該当する方は、より早い年齢(30代など)から、またはより頻繁に(年に複数回、または内視鏡検査による精密検診)検診を受けることが推奨される場合があります。医師と相談して、自分に適した検診計画を立てましょう。
症状がある場合は検診を待たずに受診
以下のような症状がある場合は、検診を待たずに速やかに医療機関を受診してください。血便(便に血が混じる、便器が赤くなる)、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、原因不明の腹痛や腹部膨満感が続く、理由なく体重が減少する、貧血が進行するなどです。
これらの症状は、大腸がんやその他の消化器疾患のサインである可能性があります。便潜血検査の結果を待つ必要はなく、すぐに消化器内科や大腸肛門科を受診して、詳しい検査を受けることが重要です。
早期発見・早期治療により、大腸がんの治癒率は大幅に向上します。症状を放置せず、気になることがあれば遠慮なく医師に相談しましょう。
まとめ
便潜血検査は、便中の微量の血液を検出することで、大腸がんや大腸ポリープを早期に発見する検査です。2日法により、1日法よりも高い精度で異常を発見できます。検査は自宅で簡単に行え、特別な食事制限も不要です。
陽性率は5~7%程度で、陽性と判定された場合は必ず大腸内視鏡検査を受ける必要があります。偽陽性や偽陰性の可能性があるため、陽性でも必ずしも大腸がんではなく、陰性でも症状がある場合は医療機関を受診することが重要です。
40歳以上の方は、年1回の便潜血検査による大腸がん検診を受けることが推奨されています。大腸がんは早期発見により治癒率が高く、検診により死亡率を減少させることができます。定期的な検診を習慣化し、自分の健康を守りましょう。










