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逆流性食道炎とは?基本的な知識をわかりやすく解説
逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起こる疾患です。
通常、食道と胃の境目には下部食道括約筋という筋肉があり、胃の内容物が食道に逆流しないように防いでいます。しかし、この筋肉の機能が低下したり、胃酸の分泌が過剰になったりすると、胃酸が食道に逆流し、食道粘膜を傷つけてしまうのです。
日本では近年、食生活の欧米化や肥満の増加、高齢化などにより、逆流性食道炎の患者数が急増しています。
特に50歳以上の中高年に多く見られますが、若年層でも発症するケースが増えています。放置すると食道がんのリスクが高まる可能性もあるため、早期発見と適切な治療が重要です。
逆流性食道炎の特徴的な症状は、胸やけと呑酸(酸っぱい液体が口まで上がってくる感覚)です。
これらの症状は特に食後や就寝時に悪化しやすく、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
逆流性食道炎の主な症状
逆流性食道炎の症状は多岐にわたり、個人差がありますが、代表的な症状をしっかりと理解しておくことが早期発見につながります。
胸やけ(胸骨の裏側の灼熱感)が最も典型的な症状で、食後30分から2時間後に現れやすい傾向があります。
消化器系の症状
胸やけのほかに、呑酸(酸っぱい水が口まで上がってくる)、げっぷ、胃もたれ、吐き気などの症状が現れます。
特に脂っこい食事や刺激物を摂取した後、前かがみになったとき、横になったときに症状が悪化することが多いです。食事の量が多い場合や、食後すぐに横になると症状が出やすくなります。
食道外症状
逆流性食道炎は消化器症状だけでなく、一見関係なさそうな症状も引き起こします。
慢性的な咳、喉の違和感やイガイガ感、声のかすれ、喘息のような症状などが現れることがあります。これは逆流した胃酸が喉や気管を刺激するためです。また、胸痛が起こることもあり、心臓疾患と間違えられることもあります。
睡眠への影響
夜間に症状が悪化することが多く、睡眠の質に大きな影響を与えます。
就寝中に胃酸が逆流しやすくなるため、夜中に胸やけで目が覚める、咳が出て眠れないといった症状に悩まされる方が少なくありません。睡眠不足により日中の疲労感や集中力の低下につながることもあります。
逆流性食道炎の原因とリスク要因
逆流性食道炎を引き起こす原因は複数あり、多くの場合、複数の要因が組み合わさって発症します。
最も大きな原因は、下部食道括約筋の機能低下と胃酸分泌の増加です。
加齢による括約筋の機能低下
年齢を重ねると、食道と胃の境目にある下部食道括約筋の締まりが悪くなり、胃酸が逆流しやすくなります。
また、食道の蠕動運動(内容物を胃に送り込む動き)も弱くなるため、逆流した胃酸を胃に戻す力も低下します。これが中高年に逆流性食道炎が多い理由の一つです。
肥満と腹圧の上昇
肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、腹圧を上昇させ、胃の内容物を食道側に押し上げる力を強めます。
BMI25以上の方は逆流性食道炎のリスクが約2倍になるという報告もあります。妊娠中も同様に腹圧が上昇するため、逆流性食道炎の症状が出やすくなります。
食生活と生活習慣
脂肪分の多い食事、アルコール、カフェイン、炭酸飲料、チョコレート、香辛料などは、下部食道括約筋を緩めたり、胃酸の分泌を促進したりします。
また、喫煙も括約筋の機能を低下させる要因です。食べすぎ、早食い、就寝前の食事なども逆流を引き起こしやすくします。
その他のリスク要因
食道裂孔ヘルニア(横隔膜の隙間から胃の一部が胸部に出る状態)がある方、ストレスの多い生活を送っている方、前かがみの姿勢が多い仕事をしている方もリスクが高まります。
また、一部の薬剤(血圧を下げる薬、喘息の薬など)も括約筋の機能に影響を与えることがあります。
逆流性食道炎の診断方法
逆流性食道炎の診断には、問診と内視鏡検査が中心となります。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)により、食道粘膜の炎症やびらん、潰瘍の有無を直接確認できます。
内視鏡検査の重要性
胃カメラ検査では、食道の粘膜の状態を直接観察し、炎症の程度を評価します。
ロサンゼルス分類というグレード分けにより、軽度(グレードA・B)から重度(グレードC・D)まで分類されます。また、バレット食道(食道がんのリスクが高まる状態)の有無も確認できるため、定期的な検査が推奨されます。
その他の検査
食道内のpH(酸性度)を24時間測定するpHモニタリング検査や、食道の運動機能を調べる食道内圧測定検査が行われることもあります。
これらの検査は、典型的な症状があるのに内視鏡で異常が見つからない場合や、治療効果が不十分な場合に実施されます。
逆流性食道炎の治療法
逆流性食道炎の治療は、生活習慣の改善と薬物療法の組み合わせが基本となります。
症状の程度や炎症の重症度に応じて、適切な治療法が選択されます。
薬物療法
逆流性食道炎の薬物療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択薬として使用されます。
PPIは胃酸の分泌を強力に抑制する薬で、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなどがあります。通常、1日1回朝食前に服用し、4~8週間の治療で多くの患者で症状が改善します。
PPIで効果が不十分な場合は、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)や、食道の運動機能を改善する消化管運動機能改善薬が追加されることもあります。
また、胃酸を中和する制酸薬や、胃粘膜を保護する薬が補助的に使用されることもあります。
生活習慣の改善
薬物療法と並行して、生活習慣の見直しが非常に重要です。
体重減少(肥満の場合)、禁煙、アルコールやカフェインの制限、脂肪分の多い食事の回避などが推奨されます。また、食後2~3時間は横にならない、就寝時に上半身を少し高くする(15~20cm程度)ことで、逆流を防ぐことができます。
外科的治療
薬物療法や生活習慣の改善で効果が得られない場合、または若年で長期的な薬物治療を避けたい場合には、外科手術が検討されます。
噴門形成術(胃の入り口を補強する手術)が主な方法で、現在は腹腔鏡を使った低侵襲の手術が主流となっています。
逆流性食道炎の食事療法と予防
逆流性食道炎の予防と改善には、食事内容と食べ方の工夫が欠かせません。
日常生活で実践できる具体的な方法を紹介します。
避けるべき食品
脂肪分の多い食事(揚げ物、脂身の多い肉)、柑橘類、トマト、チョコレート、ミント、玉ねぎ、にんにくなどは症状を悪化させやすい食品です。
また、アルコール、カフェイン、炭酸飲料も控えめにしましょう。これらは下部食道括約筋を緩めたり、胃酸の分泌を増やしたりする作用があります。
推奨される食品と食べ方
消化の良い低脂肪の食品、蒸し料理や煮物、野菜(根菜類など)、白身魚、鶏のささみなどがおすすめです。
食事は腹八分目を心がけ、よく噛んでゆっくり食べることが大切です。1日3回の規則正しい食事を心がけ、夜遅い時間の食事は避けましょう。就寝3時間前までに食事を終えることが理想的です。
日常生活での注意点
食後すぐに横にならない、ベルトやコルセットで腹部を締め付けない、前かがみの姿勢を長時間続けないなどの工夫も効果的です。
ストレス管理も重要で、適度な運動や趣味の時間を持つことで、症状の改善につながることがあります。ただし、腹圧のかかる激しい運動は避けましょう。
まとめ
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで炎症が起こる疾患で、現代人に増加している健康問題です。
胸やけや呑酸が主な症状で、食後や就寝時に悪化しやすいことが特徴です。
原因は下部食道括約筋の機能低下や胃酸分泌の増加で、肥満、食生活、加齢などが関係しています。
診断には胃カメラ検査が有効で、食道粘膜の状態を直接確認できます。治療は薬物療法(特にプロトンポンプ阻害薬)と生活習慣の改善を組み合わせて行います。
予防と改善には、体重管理、禁煙、アルコールやカフェインの制限、脂肪分の少ない食事が重要です。
食べ方の工夫や就寝時の体位の調整も効果的です。症状が長引く場合や悪化する場合は、食道がんなどの合併症のリスクもあるため、必ず医療機関を受診しましょう。
逆流性食道炎は適切な治療と生活習慣の改善により、症状をコントロールできる疾患です。
気になる症状がある場合は、早めに消化器内科を受診し、専門医の診断を受けることが大切です。