赤血球検査は、血液検査の基本項目であり、貧血や多血症などの血液疾患を発見するために不可欠な検査です。
赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値などを測定し、体内の酸素運搬能力を評価します。本記事では、赤血球検査の各項目の意味、基準値、異常値が示す病気、そして貧血の種類と対策について詳しく解説します。
目次
赤血球とは?体内で酸素を運ぶ重要な細胞
赤血球は、血液中で最も多い血球成分であり、肺から取り込んだ酸素を全身の組織に運び、二酸化炭素を回収する役割を担っています。
赤血球の中にはヘモグロビンという鉄を含むタンパク質が含まれており、これが酸素と結合して運搬します。赤血球の赤い色は、ヘモグロビンの鉄によるものです。
赤血球は骨髄で作られ、約120日間血液中を循環した後、脾臓や肝臓で分解されます。
健康な状態では、赤血球の産生と破壊のバランスが保たれており、一定の数が維持されています。このバランスが崩れると、貧血や多血症といった異常が生じます。
赤血球検査の目的
赤血球検査は、貧血の有無やその種類を診断するために最も基本的な検査です。
また、多血症(赤血球が増えすぎる状態)、脱水、出血、溶血性疾患、腎疾患、骨髄疾患などの診断にも役立ちます。定期的な検査により、病気の早期発見や治療効果の判定が可能になります。
赤血球検査の主な項目と基準値
赤血球数(RBC)
赤血球数(RBC: Red Blood Cell count)は、血液1μL(マイクロリットル)あたりに含まれる赤血球の数を示します。
基準値は、男性で400~550万/μL、女性で360~490万/μLです。女性の方が基準値が低いのは、月経による出血の影響があるためです。
赤血球数が基準値より低い場合は貧血、高い場合は多血症が疑われます。
ただし、赤血球数だけでは貧血の程度を正確に評価できないため、ヘモグロビン濃度やヘマトクリット値と合わせて総合的に判断します。
ヘモグロビン濃度(Hb)
ヘモグロビン濃度(Hb: Hemoglobin)は、血液100mLあたりに含まれるヘモグロビンの量を示し、貧血の診断で最も重要な指標です。
基準値は、男性で13.0~17.0g/dL、女性で11.0~15.0g/dLです。
WHOの貧血の定義では、成人男性で13.0g/dL未満、成人女性(非妊娠時)で12.0g/dL未満が貧血とされます。
ヘモグロビンが低下すると、全身への酸素供給が不足し、倦怠感、息切れ、動悸、めまいなどの症状が現れます。一方、ヘモグロビンが高すぎると、血液の粘度が増し、血栓のリスクが高まります。
ヘマトクリット値(Ht)
ヘマトクリット値(Ht: Hematocrit)は、血液全体に占める赤血球の容積の割合を示します。
基準値は、男性で40~52%、女性で35~45%です。ヘマトクリット値が低い場合は貧血、高い場合は多血症や脱水が疑われます。
ヘマトクリット値は、赤血球数とヘモグロビン濃度と相関しており、これら3つの値を総合して貧血の有無や程度を評価します。
また、ヘマトクリット値から赤血球の大きさや色素量を計算する指標(赤血球恒数)も求められます。
赤血球恒数(赤血球指数)
平均赤血球容積(MCV)
MCV(Mean Corpuscular Volume)は、赤血球1個あたりの平均的な大きさ(容積)を示す指標です。
計算式は「MCV = ヘマトクリット値(%)÷ 赤血球数(万/μL)× 10」で、基準値は80~100fL(フェムトリットル)です。
MCVが80fL未満の場合は「小球性」、80~100fLは「正球性」、100fLを超える場合は「大球性」と分類されます。
この分類は、貧血の原因を特定する上で非常に重要です。たとえば、鉄欠乏性貧血では小球性、ビタミンB12欠乏性貧血では大球性となります。
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
MCH(Mean Corpuscular Hemoglobin)は、赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの平均量を示します。
計算式は「MCH = ヘモグロビン濃度(g/dL)÷ 赤血球数(万/μL)× 10」で、基準値は27~34pg(ピコグラム)です。
MCHが低い場合は、赤血球に含まれるヘモグロビンの量が少ない「低色素性」の貧血を示唆します。
鉄欠乏性貧血や慢性疾患に伴う貧血で低下します。MCHが高い場合は、大球性貧血や溶血性貧血などで見られます。
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)
MCHC(Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration)は、赤血球の容積あたりに含まれるヘモグロビン濃度を示します。
計算式は「MCHC = ヘモグロビン濃度(g/dL)÷ ヘマトクリット値(%)× 100」で、基準値は31~36g/dLです。
MCHCが低い場合は「低色素性」、正常範囲は「正色素性」と呼ばれます。
MCHCが高くなることは稀ですが、遺伝性球状赤血球症などで見られます。MCHCは赤血球の中のヘモグロビンの充実度を表し、鉄欠乏性貧血で特に低下します。
貧血の種類と診断
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、体内の鉄が不足することでヘモグロビンが作れなくなり、貧血となる状態で、最も頻度の高い貧血です。
月経のある女性、妊婦、成長期の子ども、消化管出血のある人などに多く見られます。検査では、小球性低色素性貧血(MCV低下、MCHC低下)のパターンを示します。
症状は、倦怠感、息切れ、動悸、めまい、顔色が悪い、爪が薄く反り返る(スプーン爪)、氷を好んで食べるなどです。
治療は、鉄剤の内服が基本で、原因となる出血がある場合はその治療も必要です。食事では、赤身の肉、レバー、ほうれん草などの鉄分を多く含む食品を積極的に摂取します。
ビタミンB12欠乏性貧血・葉酸欠乏性貧血
ビタミンB12や葉酸が不足すると、赤血球が正常に成熟できず、大きな赤血球(大球性赤血球)ができてしまいます。
これが巨赤芽球性貧血で、MCV が100fLを超える大球性正色素性貧血のパターンを示します。
ビタミンB12欠乏は、胃の摘出術後や自己免疫性胃炎(悪性貧血)、菜食主義などで起こります。
葉酸欠乏は、アルコール多飲、妊娠、薬剤(抗がん剤など)の影響で生じます。治療は、不足している栄養素の補充(ビタミンB12注射、葉酸内服)を行います。
溶血性貧血
溶血性貧血は、赤血球が正常より早く破壊される(溶血)ことで起こる貧血です。
遺伝性(遺伝性球状赤血球症、サラセミアなど)と後天性(自己免疫性溶血性貧血、薬剤性など)があります。検査では、貧血に加えて、黄疸、間接ビリルビンの上昇、LDH上昇などが見られます。
治療は原因によって異なり、自己免疫性の場合はステロイド薬、重症の場合は脾臓摘出などが検討されます。
溶血性貧血は専門的な診断と治療が必要なため、血液内科での管理が推奨されます。
慢性疾患に伴う貧血
慢性的な炎症性疾患、感染症、悪性腫瘍、腎不全などでは、二次的に貧血が生じることがあります。
腎不全では、腎臓から分泌されるエリスロポエチン(赤血球を作るホルモン)が不足し、貧血となります。検査では、正球性正色素性貧血または軽度の小球性貧血のパターンを示します。
治療は、基礎疾患の治療が基本です。腎性貧血では、エリスロポエチン製剤の投与が行われます。
悪性腫瘍では、化学療法の影響で骨髄機能が低下し、貧血が悪化することもあります。
多血症(赤血球増多症)
多血症とは
多血症は、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値が基準値を超えて増加した状態です。
真性多血症(骨髄増殖性疾患)と二次性多血症(他の原因による反応性増加)に分類されます。血液の粘度が増すため、血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)のリスクが高まります。
二次性多血症の原因
二次性多血症の原因には、慢性的な低酸素状態(高地居住、慢性肺疾患、心疾患、睡眠時無呼吸症候群)があります。
体が酸素不足を補うために、エリスロポエチンの分泌が増加し、赤血球が過剰に作られます。また、脱水では血液が濃縮され、見かけ上の多血となります。
喫煙も多血症の原因となります。タバコの一酸化炭素がヘモグロビンと結合し、酸素運搬能力が低下するため、代償的に赤血球が増加します。
腎臓の腫瘍や嚢胞から異常にエリスロポエチンが分泌されることもあります。
検査結果と対応
貧血と判定された場合
健康診断で貧血と判定された場合、まず原因を特定することが重要です。
MCVの値から、小球性、正球性、大球性のいずれかに分類し、さらに詳しい検査(血清鉄、フェリチン、ビタミンB12、葉酸など)で原因を特定します。
軽度の貧血でも、背後に重大な病気が隠れている可能性があるため、必ず医療機関を受診してください。
特に、男性の貧血や閉経後の女性の貧血は、消化管出血(胃潰瘍、大腸がんなど)の可能性があるため、消化器内科での精密検査が必要です。
多血症と判定された場合
多血症と判定された場合も、速やかに医療機関を受診してください。
脱水による一時的なものか、真性多血症や二次性多血症かを鑑別する必要があります。血液内科での精密検査(骨髄検査、エリスロポエチン測定、遺伝子検査など)が行われます。
真性多血症の場合は、瀉血(血液を抜く)や薬物療法により、血液の粘度を下げます。
二次性多血症の場合は、原因疾患の治療が優先されます。いずれの場合も、血栓症予防のための管理が重要です。
貧血を予防する生活習慣
食事のポイント
貧血予防には、バランスの良い食事が基本です。
鉄分を多く含む食品(赤身の肉、レバー、魚、大豆製品、ほうれん草、ひじき)を積極的に摂取します。動物性食品に含まれるヘム鉄は、植物性食品の非ヘム鉄より吸収率が高いです。
ビタミンCは鉄の吸収を助けるため、一緒に摂取すると効果的です。
一方、コーヒーや紅茶に含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げるため、食事中や食後すぐの摂取は避けましょう。ビタミンB12は動物性食品に、葉酸は緑黄色野菜に多く含まれます。
その他の注意点
月経過多の女性は、婦人科を受診し、子宮筋腫や子宮内膜症などの治療を検討することも重要です。
妊娠中や授乳中は鉄の必要量が増えるため、医師の指導のもと鉄剤を服用することもあります。
定期的な健康診断で血液検査を受け、貧血の早期発見に努めましょう。
倦怠感、息切れ、動悸などの症状がある場合は、貧血の可能性があるため、医療機関を受診してください。適切な診断と治療により、貧血は改善できます。
まとめ:赤血球検査で貧血を早期発見
赤血球検査は、RBC、ヘモグロビン、ヘマトクリット、赤血球恒数(MCV、MCH、MCHC)を測定し、貧血や多血症を診断する基本的な検査です。
貧血には、鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏性貧血、溶血性貧血、慢性疾患に伴う貧血など、さまざまな種類があり、MCVの値から分類されます。
軽度の貧血でも、背後に重大な病気が隠れている可能性があるため、健康診断で異常を指摘された場合は必ず医療機関を受診してください。
特に、男性の貧血や閉経後の女性の貧血は、消化管出血の可能性があり注意が必要です。
貧血の予防には、鉄分、ビタミンB12、葉酸を十分に含むバランスの良い食事が重要です。
定期的な血液検査により、貧血を早期に発見し、適切な治療を受けることで、健康な生活を維持しましょう。倦怠感や息切れなどの症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

						
																						
																						
																						
																						
	        		            
	        		            
	        		            
	        		            
	        		            
	        		            
	        		            
	        		            
						








