健康診断で「コレステロールが高い」「中性脂肪が高い」と指摘されたことはありませんか?脂質検査は、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの重大な病気のリスクを評価する重要な検査です。本記事では、脂質検査の各項目の意味と基準値、異常値が見つかった場合の対応方法について詳しく解説していきます。
目次
脂質検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
脂質検査は、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪など)の量を測定する検査です。脂質は体を構成する重要な成分であり、細胞膜の材料やホルモンの原料として必要不可欠です。
しかし、血液中の脂質が多すぎると、血管壁に蓄積して動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気につながるリスクが高まります。逆に、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低すぎることも、動脈硬化のリスクとなります。
脂質検査は健康診断や人間ドックの基本項目であり、生活習慣病の早期発見・予防に欠かせない検査です。
脂質検査の主な項目
脂質検査では、主に以下の項目が測定されます。
総コレステロール(TC):血液中の全てのコレステロールの総量
LDLコレステロール:悪玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を促進
HDLコレステロール:善玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を予防
中性脂肪(トリグリセライド、TG):エネルギー源となる脂質
non-HDLコレステロール:総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値
これらの数値を総合的に評価することで、脂質異常症の有無や動脈硬化のリスクを判定します。
検査を受ける際の注意点
脂質検査は、特に中性脂肪の値が食事の影響を大きく受けるため、10~12時間以上の空腹状態で採血を行うことが推奨されます。
前日の夕食は普段通りで構いませんが、深夜の飲食や飲酒は避けましょう。当日の朝は、水やお茶など無糖の飲み物のみ摂取可能です。
ただし、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールは食事の影響が比較的少ないため、non-HDLコレステロールを用いる場合は空腹時でなくても検査可能です。
総コレステロール(TC)の基準値と意味
総コレステロールは、血液中に含まれるすべてのコレステロールの総量を示します。
総コレステロールの基準値
一般的な基準値は以下の通りです。
望ましい:200mg/dL未満
境界域:200~239mg/dL
高値:240mg/dL以上
総コレステロールは、LDLコレステロール、HDLコレステロール、VLDLコレステロール(中性脂肪を運ぶリポタンパク質)などを含んだ値です。
総コレステロールの評価
総コレステロールが高い場合でも、HDLコレステロール(善玉)が多ければ問題ない場合もあります。逆に、総コレステロールが正常範囲内でも、LDLコレステロール(悪玉)が高く、HDLコレステロールが低い場合は動脈硬化のリスクが高くなります。
そのため、現在の診断基準では、総コレステロールだけでなく、LDLコレステロールとHDLコレステロールを個別に評価することが重視されています。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の基準値と管理
LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁に蓄積して動脈硬化を引き起こす主要な原因となります。
LDLコレステロールの基準値
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、以下のように分類されています。
正常域:120mg/dL未満
境界域高値:120~139mg/dL
高値:140~159mg/dL
著高値:160mg/dL以上
脂質異常症の診断基準では、LDLコレステロール140mg/dL以上が高LDLコレステロール血症とされています。
管理目標値は個人差がある
LDLコレステロールの管理目標値は、個人の持つリスク因子によって異なります。
一次予防(冠動脈疾患の既往なし)
低リスク:160mg/dL未満
中リスク:140mg/dL未満
高リスク:120mg/dL未満
二次予防(冠動脈疾患の既往あり)
100mg/dL未満(家族性高コレステロール血症や急性冠症候群の場合は70mg/dL未満)
リスク因子には、高血圧、糖尿病、喫煙、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、低HDLコレステロール血症、加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、家族歴などがあります。
LDLコレステロールが高い原因
LDLコレステロールが高くなる原因には、生活習慣と遺伝的要因があります。
生活習慣
飽和脂肪酸やコレステロールの摂りすぎ、運動不足、肥満、喫煙などが影響します。
家族性高コレステロール血症
遺伝的にLDL受容体の働きが低下しており、若年でも著しくLDLコレステロールが高値となる疾患です。早期から動脈硬化が進行するため、積極的な治療が必要です。
HDLコレステロール(善玉コレステロール)の基準値と重要性
HDLコレステロールは「善玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁に蓄積したコレステロールを肝臓に運び、動脈硬化を予防する働きがあります。
HDLコレステロールの基準値
低値:40mg/dL未満(男女とも)
正常:40mg/dL以上
高値:80mg/dL以上
脂質異常症の診断基準では、HDLコレステロール40mg/dL未満が低HDLコレステロール血症とされ、動脈硬化のリスク因子となります。
一般的に、HDLコレステロールは高いほど良いとされています。HDLコレステロールが10mg/dL増加すると、冠動脈疾患のリスクが約2~3%低下すると報告されています。
HDLコレステロールが低い原因
HDLコレステロールが低くなる原因として、以下が挙げられます。
運動不足
有酸素運動を定期的に行うことで、HDLコレステロールが増加します。
肥満、特に内臓脂肪型肥満
内臓脂肪が蓄積すると、HDLコレステロールが低下しやすくなります。
喫煙
喫煙はHDLコレステロールを低下させ、動脈硬化を促進します。
高トリグリセライド血症
中性脂肪が高いと、HDLコレステロールが低くなる傾向があります。
糖尿病
血糖コントロールが不良だと、HDLコレステロールが低下します。
HDLコレステロールを増やす方法
有酸素運動を週3~5回、30分以上行うことが最も効果的です。ウォーキング、ジョギング、水泳などがお勧めです。
また、適正体重の維持、禁煙、適度なアルコール摂取(飲みすぎは逆効果)も重要です。食事では、魚に含まれるオメガ3脂肪酸や、オリーブオイルなどの一価不飽和脂肪酸が有効です。
中性脂肪(トリグリセライド、TG)の基準値と管理
中性脂肪は、体内で最も多く存在する脂質で、主にエネルギー源として利用されます。
中性脂肪の基準値
正常:150mg/dL未満
境界域高値:150~199mg/dL
高値:200~499mg/dL
著高値:500mg/dL以上
脂質異常症の診断基準では、中性脂肪150mg/dL以上が高トリグリセライド血症とされています。
また、中性脂肪が30mg/dL未満の場合は、低トリグリセライド血症として、栄養不良や甲状腺機能亢進症などの可能性が考えられます。
中性脂肪が高い原因
食べすぎ、飲みすぎ
特に糖質や脂質の過剰摂取、アルコールの飲みすぎが中性脂肪を上昇させます。
肥満
内臓脂肪が蓄積すると、中性脂肪が高くなりやすいです。
運動不足
運動によって中性脂肪はエネルギーとして消費されるため、運動不足では蓄積します。
糖尿病
血糖コントロールが不良だと、中性脂肪が高くなります。
遺伝
家族性高トリグリセライド血症など、遺伝的に中性脂肪が高くなる体質もあります。
中性脂肪が高いリスク
中性脂肪が高いと、動脈硬化のリスクが高まります。また、中性脂肪が非常に高い(500mg/dL以上)場合は、急性膵炎を発症するリスクがあり、緊急の治療が必要です。
さらに、中性脂肪が高いと、小型高密度LDL(small dense LDL)という動脈硬化を起こしやすいタイプのLDLが増加することが知られています。
non-HDLコレステロールの意味と活用
non-HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値です。
non-HDLコレステロールの基準値
正常域:150mg/dL未満
境界域高値:150~169mg/dL
高値:170mg/dL以上
non-HDLコレステロールは、LDLコレステロールに加えて、VLDL(超低比重リポタンパク質)やIDL(中間比重リポタンパク質)、レムナントなど、動脈硬化を引き起こすすべてのリポタンパク質を含んだ指標です。
non-HDLコレステロールの利点
non-HDLコレステロールは、総コレステロールとHDLコレステロールから簡単に計算でき、食事の影響を受けにくいため、食後の採血でも評価可能です。
また、中性脂肪が高い場合、LDLコレステロールの測定値が不正確になることがありますが、non-HDLコレステロールはそのような影響を受けません。
そのため、最近ではnon-HDLコレステロールを動脈硬化リスクの評価に活用することが推奨されています。管理目標値は、LDLコレステロールの目標値に30mg/dLを加えた値となります。
脂質異常症の診断基準と健康リスク
脂質異常症は、以下のいずれかに該当する場合に診断されます。
診断基準(空腹時採血)
高LDLコレステロール血症:LDLコレステロール140mg/dL以上
低HDLコレステロール血症:HDLコレステロール40mg/dL未満
高トリグリセライド血症:中性脂肪150mg/dL以上
また、non-HDLコレステロール170mg/dL以上も、脂質異常症と判定されます。
脂質異常症による健康リスク
脂質異常症を放置すると、動脈硬化が進行し、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの重大な病気を引き起こすリスクが高まります。
動脈硬化は自覚症状なく進行するため、「サイレントキラー」とも呼ばれます。健康診断で異常を指摘されたら、早めに対応することが重要です。
また、中性脂肪が非常に高い場合は、前述の通り急性膵炎のリスクもあります。
脂質異常症の治療と改善方法
脂質異常症の治療は、まず生活習慣の改善から始めます。それでも改善しない場合は、薬物療法が検討されます。
食事療法
LDLコレステロールを下げる食事
飽和脂肪酸(肉の脂身、バター、ラードなど)やトランス脂肪酸(マーガリン、ショートニングなど)を控え、不飽和脂肪酸(魚、植物油)を適度に摂取します。
食物繊維(野菜、海藻、きのこ、豆類)を積極的に摂ることで、コレステロールの吸収を抑制できます。大豆製品に含まれる大豆タンパク質も有効です。
中性脂肪を下げる食事
糖質(ご飯、パン、麺類、甘いもの)の摂りすぎに注意し、アルコールは控えめにします。魚に含まれるEPAやDHAは中性脂肪を下げる効果があります。
HDLコレステロールを上げる食事
オリーブオイルやナッツ類、魚を積極的に摂取します。
運動療法
有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど)を、週3~5回、1回30分以上行うことが推奨されます。
運動は、LDLコレステロールと中性脂肪を下げ、HDLコレステロールを上げる効果があります。また、体重減少にもつながり、総合的に脂質代謝を改善します。
その他の生活習慣
禁煙
喫煙はHDLコレステロールを低下させ、動脈硬化を促進します。禁煙は最優先事項です。
適正体重の維持
肥満(BMI 25以上)の方は、5~10%の体重減少を目指しましょう。内臓脂肪の減少が特に重要です。
ストレス管理
過度のストレスは、脂質代謝に悪影響を与えます。
薬物療法
生活習慣の改善を3~6か月行っても目標値に達しない場合、または高リスクの方には、薬物療法が開始されます。
スタチン系薬剤
LDLコレステロールを下げる最も効果的な薬です。肝臓でのコレステロール合成を抑制します。
フィブラート系薬剤
主に中性脂肪を下げる薬です。
EPA製剤
中性脂肪を下げる効果があります。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
腸からのコレステロール吸収を抑制します。
PCSK9阻害薬
非常に効果が高いLDLコレステロール低下薬ですが、高額のため、家族性高コレステロール血症や既存の心血管疾患のある方に使用されます。
定期的な検査の重要性
脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、定期的な血液検査で早期発見することが重要です。
特に、家族に脂質異常症や心筋梗塞・脳梗塞の既往がある方、高血圧や糖尿病のある方、肥満の方は、年に1回以上の検査をお勧めします。
また、治療中の方は、定期的に検査を受けて効果を確認し、必要に応じて治療内容を調整することが大切です。
まとめ
脂質検査は、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを評価する重要な検査です。LDLコレステロール(悪玉)は140mg/dL未満、HDLコレステロール(善玉)は40mg/dL以上、中性脂肪は150mg/dL未満が基準値です。non-HDLコレステロールは、動脈硬化リスクの総合的な指標として活用されています。
脂質異常症の改善には、飽和脂肪酸を控え、魚や食物繊維を積極的に摂る食事療法、有酸素運動を中心とした運動療法、禁煙や適正体重の維持が重要です。生活習慣の改善で効果が不十分な場合は、薬物療法も検討されます。自覚症状がなくても、定期的な検査で早期発見・早期対応を心がけましょう。










