血液中のタンパク質は、体の栄養状態や肝臓・腎臓の機能、免疫状態などを反映する重要な指標です。タンパク質検査は、健康診断や人間ドックの基本項目として広く実施されており、さまざまな疾患の発見や経過観察に役立ちます。本記事では、総タンパク、アルブミン、A/G比、グロブリンなどの検査項目について、それぞれの意味や基準値、異常値の原因と対処法を詳しく解説していきます。
目次
タンパク質検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
タンパク質検査は、血液中に含まれるタンパク質の量やバランスを測定する検査です。血液中のタンパク質は、主に肝臓で合成され、体内でさまざまな重要な働きをしています。
タンパク質は、体の組織を構成する材料となるほか、酵素やホルモン、抗体として機能し、栄養素や薬物の運搬、血液の浸透圧維持、免疫機能など、多くの生命活動に関わっています。
血液中のタンパク質は、大きく分けてアルブミンとグロブリンの2つに分類されます。タンパク質検査では、これらの量とバランスを評価することで、栄養状態、肝機能、腎機能、免疫状態などを総合的に判断します。
タンパク質検査の主な項目
タンパク質検査では、主に以下の項目が測定されます。
総タンパク(TP):血液中の全てのタンパク質の総量
アルブミン(Alb):総タンパクの約60%を占める主要なタンパク質
グロブリン:総タンパクの約40%を占め、免疫グロブリンなどを含む
A/G比:アルブミンとグロブリンの比率
これらの数値を組み合わせて評価することで、病態をより正確に把握することができます。
検査を受ける際の注意点
タンパク質検査は一般的な血液検査と同様に行われ、特別な前処置は通常必要ありません。ただし、採血前に激しい運動をすると、一時的にタンパク質が上昇することがあります。
また、採血時に長時間止血帯を巻いていると、血液が濃縮されて偽高値を示すことがあります。正確な検査のため、安静にした状態で採血を受けることが望ましいです。
総タンパク(TP)の基準値と意味
総タンパクは、血液中に含まれる全てのタンパク質の総量を示す指標です。
総タンパクの基準値
血清総タンパクの基準値は、6.5~8.0g/dLです。
低タンパク血症:6.5g/dL未満
高タンパク血症:8.0g/dLを超える場合
総タンパクの役割
血液中のタンパク質は、栄養素や薬物の運搬、血液の浸透圧維持、免疫機能、血液凝固など、多くの重要な機能を担っています。
総タンパクの値は、体全体のタンパク質の状態を反映し、栄養状態や肝機能、腎機能などを評価する基本的な指標となります。
総タンパクが低い原因
タンパク質の合成低下
肝硬変や慢性肝炎などの肝疾患では、肝臓でのタンパク質合成能が低下します。また、栄養不良や消化吸収障害でも合成が低下します。
タンパク質の喪失
腎臓からの喪失(ネフローゼ症候群など)、消化管からの喪失(タンパク漏出性胃腸症など)、出血、火傷などでタンパク質が失われます。
その他
甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、慢性感染症などでも低下することがあります。
総タンパクが6.0g/dL未満になると、浮腫(むくみ)などの症状が現れやすくなります。
総タンパクが高い原因
脱水
水分不足により血液が濃縮され、相対的にタンパク質濃度が高くなります。脱水は、最も一般的な高タンパク血症の原因です。
グロブリンの増加
多発性骨髄腫、慢性感染症、膠原病などで、免疫グロブリンが増加し、総タンパクが上昇します。
その他
真性多血症など、血液疾患でも上昇することがあります。
アルブミン(Alb)の基準値と重要性
アルブミンは、血液中のタンパク質の中で最も多く存在し、さまざまな重要な機能を持っています。
アルブミンの基準値
血清アルブミンの基準値は、4.0~5.0g/dL(施設により3.8~5.2g/dL程度)です。
低アルブミン血症:3.5g/dL未満
高アルブミン血症:5.0g/dLを超える場合(稀)
アルブミンの役割
アルブミンは、主に以下の重要な機能を持っています。
血液の浸透圧維持
アルブミンは血管内に水分を保持する働きがあり、血液の浸透圧の約80%を担っています。アルブミンが減少すると、血管から水分が組織に漏れ出し、浮腫(むくみ)が生じます。
栄養素や薬物の運搬
脂肪酸、ホルモン、ビリルビン、薬物などを血液中で運搬します。アルブミンが低下すると、薬物の効果や副作用が変化することがあります。
栄養状態の指標
アルブミンは栄養状態を評価する最も重要な指標の一つです。低栄養状態では、アルブミン合成が低下します。
低アルブミン血症の原因
合成低下
肝硬変、慢性肝炎などの肝疾患、栄養不良、慢性炎症、悪性腫瘍などで、肝臓でのアルブミン合成が低下します。
喪失の増加
ネフローゼ症候群(腎臓から大量のタンパク質が尿中に漏れ出る)、タンパク漏出性胃腸症(消化管からタンパク質が漏れ出る)、広範囲の火傷、出血などで、アルブミンが失われます。
分布異常
腹水や胸水が貯留すると、アルブミンが血管外に移動し、血中濃度が低下します。
消費の増加
感染症、外傷、手術後などの侵襲状態では、アルブミンの消費が増加します。
低アルブミン血症の症状と影響
アルブミンが3.5g/dL未満になると、以下のような症状や影響が現れることがあります。
浮腫(むくみ)
特に、アルブミンが3.0g/dL未満になると、顔や足のむくみが目立つようになります。
腹水・胸水
重度の低アルブミン血症では、腹水や胸水が貯留することがあります。
免疫力の低下
感染症にかかりやすくなります。
創傷治癒の遅延
傷の治りが悪くなり、褥瘡(床ずれ)ができやすくなります。
予後への影響
低アルブミン血症は、入院期間の延長や死亡率の上昇と関連することが知られています。
高アルブミン血症
高アルブミン血症は稀ですが、脱水により相対的に上昇することがあります。水分補給により正常化します。
グロブリンの種類と機能
グロブリンは、総タンパクからアルブミンを引いた値として計算されます。グロブリンには、複数の種類があります。
グロブリンの基準値
血清グロブリンの基準値は、2.0~3.5g/dL程度です。
グロブリンは、電気泳動により、α1、α2、β、γグロブリンの4つの分画に分けられます。
各グロブリン分画の意味
α1-グロブリン
α1-アンチトリプシン、HDLなどが含まれます。肝疾患や炎症性疾患で変動します。
α2-グロブリン
ハプトグロビン、セルロプラスミンなどが含まれます。急性期反応で増加し、ネフローゼ症候群でも上昇します。
βグロブリン
トランスフェリン、補体、LDLなどが含まれます。鉄欠乏性貧血で増加します。
γグロブリン(免疫グロブリン)
IgG、IgA、IgM、IgDなどの抗体が含まれます。感染症、自己免疫疾患、多発性骨髄腫などで変動します。
グロブリンが低い原因
免疫不全症(先天性または後天性)、タンパク漏出性胃腸症、ネフローゼ症候群などで、グロブリンが低下します。
グロブリンが低いと、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。
グロブリンが高い原因
慢性感染症、自己免疫疾患(関節リウマチ、SLEなど)、肝硬変、多発性骨髄腫などで、グロブリンが増加します。
特に、γグロブリンの著しい増加(M蛋白の出現)は、多発性骨髄腫などの血液疾患を示唆します。
A/G比(アルブミン/グロブリン比)の意味と評価
A/G比は、アルブミンをグロブリンで割った値で、両者のバランスを示します。
A/G比の基準値
A/G比の基準値は、1.2~2.0程度です。
通常、アルブミンがグロブリンよりも多いため、A/G比は1以上になります。
A/G比が低下する原因
A/G比が1.0未満に低下する場合、以下のような病態が考えられます。
アルブミンの減少
肝硬変、ネフローゼ症候群、栄養不良などでアルブミンが減少すると、A/G比は低下します。
グロブリンの増加
慢性感染症、自己免疫疾患、多発性骨髄腫などでグロブリンが増加すると、A/G比は低下します。
特に肝硬変では、アルブミンの合成低下とγグロブリンの増加が同時に起こり、A/G比が著しく低下(0.8未満)することが特徴的です。
A/G比が上昇する原因
A/G比が2.0を超えて上昇する場合は、グロブリンの低下(免疫不全など)が考えられますが、比較的稀です。
タンパク質検査で評価できる疾患
タンパク質検査の結果から、以下のような疾患を推定または評価できます。
肝疾患
慢性肝炎や肝硬変では、肝臓でのアルブミン合成能が低下し、アルブミンが減少します。同時に、γグロブリンが増加することが多く、A/G比が低下します。
総タンパクは正常範囲内のこともありますが、アルブミンとグロブリンのバランスが崩れるのが特徴です。
腎疾患
ネフローゼ症候群では、腎臓からアルブミンが大量に漏れ出るため、低アルブミン血症と低タンパク血症を認めます。
尿中にタンパク質が多量に出ている場合(1日3.5g以上)は、ネフローゼ症候群を疑います。
栄養不良
食事摂取不足、消化吸収障害、慢性疾患などにより、タンパク質の摂取や吸収が不足すると、アルブミンと総タンパクが低下します。
アルブミンが3.5g/dL未満は低栄養状態を示し、3.0g/dL未満は重度の低栄養状態とされます。
炎症性疾患・感染症
慢性感染症や自己免疫疾患では、免疫グロブリンが増加し、グロブリンが上昇します。同時に、炎症によりアルブミンが低下することもあります。
血液疾患
多発性骨髄腫では、異常な免疫グロブリン(M蛋白)が産生され、総タンパクとグロブリンが著しく増加します。
血清タンパク電気泳動で、M蛋白が特徴的なピークとして検出されます。
タンパク質検査で異常が見つかった場合の対応
タンパク質検査で異常が見つかった場合、原因を特定するための精密検査が必要です。
追加で行われる検査
血清タンパク電気泳動
タンパク質を分画し、各グロブリンの量を詳しく評価します。M蛋白の有無も確認できます。
尿検査
尿中のタンパク質を測定し、腎臓からの漏出の有無を確認します。
肝機能検査
AST、ALT、γGTPなどを測定し、肝臓の状態を評価します。
腎機能検査
クレアチニン、eGFRなどを測定し、腎臓の機能を評価します。
免疫グロブリン定量
IgG、IgA、IgMを個別に測定し、免疫状態を評価します。
治療と対応
治療は原因によって異なります。
栄養不良による低アルブミン血症
栄養状態の改善が第一です。十分なエネルギーとタンパク質の摂取、必要に応じて栄養補助食品や経腸栄養、静脈栄養などが用いられます。
肝疾患
原因疾患の治療を行います。肝硬変では、栄養管理とともに、腹水や肝性脳症などの合併症への対応が必要です。
腎疾患
ネフローゼ症候群では、原因に応じてステロイドや免疫抑制薬などが使用されます。
重症の低アルブミン血症
症状が強い場合は、アルブミン製剤の静脈投与が行われることがあります。ただし、これは対症療法であり、原因疾患の治療が最も重要です。
タンパク質を適切に摂取するための食事
健康なタンパク質レベルを維持するためには、適切な食事が重要です。
推奨されるタンパク質摂取量
一般成人の推奨量は、体重1kgあたり1.0~1.2g程度です。体重60kgの方であれば、1日60~72g程度のタンパク質が必要です。
高齢者、病気の回復期、スポーツ選手などは、より多くのタンパク質が必要な場合があります。
ただし、腎臓病の方は、タンパク質の制限が必要な場合があるため、医師の指示に従ってください。
良質なタンパク質を含む食品
動物性タンパク質
肉類、魚類、卵、乳製品などは、必須アミノ酸がバランスよく含まれる良質なタンパク質源です。
魚は、タンパク質に加えてオメガ3脂肪酸も豊富で、動脈硬化予防にも効果的です。
植物性タンパク質
大豆製品(豆腐、納豆、味噌など)は、植物性タンパク質の中でも良質で、イソフラボンなどの有用な成分も含みます。
その他、豆類、ナッツ類、穀類なども植物性タンパク質源となります。
バランスの良い食事
タンパク質だけでなく、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルもバランスよく摂取することが大切です。
1日3食規則正しく食べ、主食・主菜・副菜をそろえた食事を心がけましょう。高齢者や食欲不振の方は、少量でもタンパク質が豊富な食品を選ぶことが重要です。
定期的な検査の重要性
タンパク質の異常は、初期段階では自覚症状が乏しいことが多いため、定期的な健康診断で血液検査を受け、早期発見することが大切です。
特に、高齢者、慢性疾患をお持ちの方、栄養状態が心配な方は、定期的にタンパク質検査を受けることをお勧めします。
まとめ
タンパク質検査は、栄養状態や肝機能、腎機能、免疫状態を評価する重要な検査です。総タンパク(6.5~8.0g/dL)、アルブミン(4.0~5.0g/dL)、グロブリン(2.0~3.5g/dL)、A/G比(1.2~2.0)が主要な項目です。アルブミンは栄養状態の最も重要な指標で、3.5g/dL未満は低栄養状態を示します。
低タンパク血症は、肝疾患、腎疾患、栄養不良などで起こり、浮腫や免疫力低下などの症状を引き起こします。高タンパク血症は、主に脱水や免疫グロブリンの増加が原因です。A/G比の低下は、肝硬変や慢性炎症性疾患で特徴的に見られます。
健康なタンパク質レベルを維持するには、体重1kgあたり1.0~1.2g程度のタンパク質を、動物性と植物性の両方からバランスよく摂取することが重要です。定期的な検査で早期発見・早期対応を心がけましょう。










