腫瘍マーカー検査とは?種類と精度、偽陽性について徹底解説

腫瘍マーカーは、がん細胞や、がん細胞の影響を受けた正常細胞が産生する特殊な物質で、血液や尿などの体液中に現れます。腫瘍マーカー検査は、これらの物質の血中濃度を測定することで、がんの存在や進行度、治療効果などを評価する検査です。

人間ドックや健康診断のオプション検査として実施されることも多く、がんの早期発見を期待して受ける方も増えています。しかし、腫瘍マーカーには限界があり、単独でがんを診断できるわけではありません。検査の特性を正しく理解することが重要です。

本記事では、腫瘍マーカーの基本知識、主な腫瘍マーカーの種類と特徴、検査の精度と限界、偽陽性が起こる理由、腫瘍マーカーが高値だった場合の対応、そして適切な活用方法まで、わかりやすく解説していきます。

腫瘍マーカーとは

腫瘍マーカーは、がん細胞が産生する物質、またはがんの存在により体内で増加する物質の総称です。タンパク質、酵素、ホルモン、糖鎖抗原など、さまざまな種類があります。これらは血液や尿、体液中に現れるため、採血などの簡便な方法で測定できます。

理想的な腫瘍マーカーは、特定のがんにのみ特異的に現れ、早期のがんでも高値を示すものです。しかし、現実にはそのような完璧な腫瘍マーカーは存在しません。多くの腫瘍マーカーは、がん以外の良性疾患や炎症、加齢などでも上昇することがあり、逆に、がんがあっても正常値を示すこともあります。

そのため、腫瘍マーカーは単独でがんを診断する検査ではなく、画像検査や病理検査などと組み合わせて、総合的に判断するための補助的な検査として位置づけられています。

腫瘍マーカーの使用目的

腫瘍マーカーは、主に以下の4つの目的で使用されます。まず、がんのスクリーニング(早期発見)です。健康診断や人間ドックで、がんのリスクを評価するために測定されます。ただし、後述するように、スクリーニング目的での有用性は限定的です。

次に、がんの診断の補助です。画像検査などで異常が見つかった場合、腫瘍マーカーの値を参考にして、がんの可能性を評価します。また、がんの進行度や広がりの推定にも役立ちます。

三つ目は、治療効果の判定です。がん治療(手術、化学療法、放射線療法など)の前後で腫瘍マーカーを測定し、値が低下していれば治療が有効であることを示します。最後に、再発や転移の早期発見です。治療後の経過観察で定期的に測定し、再び上昇した場合は再発の可能性を疑います。

主な腫瘍マーカーの種類と特徴

腫瘍マーカーには数多くの種類があり、それぞれ特定のがんとの関連性が知られています。主要な腫瘍マーカーについて見ていきましょう。

CEA(癌胎児性抗原)

CEAは、大腸がん、胃がん、肺がん、膵臓がん、乳がんなど、多くのがんで上昇する汎用性の高い腫瘍マーカーです。特に消化器系のがんで高値を示すことが多いです。

基準値は通常5.0ng/mL以下です。ただし、喫煙者では基準値がやや高く設定されることがあります(10ng/mL以下)。CEAは、良性疾患(肝硬変、慢性肝炎、膵炎、潰瘍性大腸炎など)や、喫煙、加齢でも軽度上昇することがあります。

CEAは早期がんでの上昇率が低いため、スクリーニング検査としての感度は高くありません。むしろ、がん治療後の経過観察や、進行度の評価に有用です。

CA19-9(糖鎖抗原19-9)

CA19-9は、膵臓がん、胆道がん、胃がん、大腸がんなどの消化器系がんで上昇する腫瘍マーカーです。特に膵臓がんでの陽性率が高く、重要なマーカーとされています。

基準値は通常37U/mL以下です。ただし、約5~10%の人は遺伝的にCA19-9を産生できないため、膵臓がんがあっても上昇しません。また、胆道閉塞、膵炎、肝硬変などの良性疾患でも高値を示すことがあります。

CA19-9も早期がんでの感度は低く、進行がんで高値を示す傾向があります。膵臓がんの診断や治療効果の判定、経過観察に有用です。

AFP(アルファフェトプロテイン)

AFPは、肝臓がん(肝細胞がん)の代表的な腫瘍マーカーです。その他、胃がんや卵巣がん、精巣がんでも上昇することがあります。

基準値は通常10ng/mL以下です。肝硬変、慢性肝炎などの慢性肝疾患でも上昇することがあり、これらの疾患を持つ方は肝臓がんのリスクが高いため、定期的なAFP測定が重要です。

AFPは肝臓がんの早期発見、診断、治療効果の判定、再発の早期発見に有用で、腹部超音波検査と組み合わせて、肝臓がんサーベイランス(定期的な監視)に使用されます。

PSA(前立腺特異抗原)

PSAは、前立腺がんに特異的な腫瘍マーカーです。前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパク質で、男性特有の腫瘍マーカーです。

基準値は通常4.0ng/mL以下ですが、年齢によって基準値が異なることもあります。PSAは前立腺がん以外に、前立腺肥大症、前立腺炎でも上昇します。また、射精や激しい運動、自転車乗車、前立腺の触診などでも一時的に上昇することがあります。

PSAは前立腺がんのスクリーニング検査として広く使用されており、比較的早期のがんでも上昇するため、有用性が高いとされています。ただし、偽陽性も多く、PSA高値でも必ずしも前立腺がんがあるわけではありません。

CA125(糖鎖抗原125)

CA125は、卵巣がんで高頻度に上昇する腫瘍マーカーです。子宮内膜がん、卵管がん、腹膜がんでも上昇します。

基準値は通常35U/mL以下です。女性では、月経中や妊娠初期、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫などの良性疾患でも上昇することがあります。また、胸水や腹水がある場合も高値を示すことがあります。

CA125は卵巣がんの診断、治療効果の判定、再発の早期発見に有用ですが、早期がんでの感度は低く、スクリーニング検査としての有用性は限定的です。

その他の腫瘍マーカー

その他にも、多くの腫瘍マーカーがあります。SCC抗原(子宮頸がん、肺扁平上皮がん)、CYFRA(肺がん)、ProGRP(小細胞肺がん)、CA15-3(乳がん)、HCG(絨毛性疾患、精巣がん)など、がんの種類に応じてさまざまなマーカーが使用されています。

近年では、複数の腫瘍マーカーを組み合わせた検査パネルや、新しいバイオマーカーの開発も進んでいます。

腫瘍マーカーの精度と限界

腫瘍マーカー検査の精度を理解するために、感度、特異度、陽性的中率という概念を知っておくことが重要です。

感度と特異度

感度とは、がんがある人のうち、検査が陽性となる割合です。感度が高いほど、がんを見逃しにくくなります。しかし、多くの腫瘍マーカーは、特に早期がんでの感度が低く、がんがあっても正常値を示すこと(偽陰性)が多くあります。

特異度とは、がんがない人のうち、検査が陰性となる割合です。特異度が低いと、がんがないのに陽性となること(偽陽性)が多くなります。腫瘍マーカーは、良性疾患や生理的変動でも上昇するため、特異度があまり高くありません。

理想的には、感度も特異度も高いことが望ましいのですが、現実の腫瘍マーカーでは、両立が難しいのが現状です。

陽性的中率

陽性的中率とは、検査が陽性だった人のうち、実際にがんがある割合です。この値は、対象集団におけるがんの有病率(がんの人がどのくらいいるか)に大きく影響されます。

一般の健康な人を対象としたスクリーニング検査では、がんの有病率が低いため、腫瘍マーカーの陽性的中率は非常に低くなります。つまり、腫瘍マーカーが高値でも、実際にがんがある確率は低いということです。

一方、がんのリスクが高い人(症状がある、画像検査で異常がある、がんの家族歴があるなど)を対象とした場合は、陽性的中率が上がり、検査の有用性が高まります。

スクリーニング検査としての限界

多くの腫瘍マーカーは、健康な人のがんスクリーニング検査としては推奨されていません。理由は、早期がんでの感度が低いこと、偽陽性が多いこと、陽性的中率が低いことです。

腫瘍マーカーが高値でも、多くの場合はがん以外の原因であり、不必要な不安や追加検査、医療費の増加につながります。一方、腫瘍マーカーが正常値でも、がんが存在する可能性があり、安心してしまうことで発見が遅れる危険性もあります。

ただし、PSAによる前立腺がん検診や、慢性肝疾患患者に対するAFP測定など、一部の腫瘍マーカーは特定の条件下でスクリーニング検査として有用性が認められています。

偽陽性:腫瘍マーカーが高値になる原因

腫瘍マーカーは、がん以外の原因でも上昇することがあります。これを偽陽性と呼びます。

良性疾患による上昇

多くの腫瘍マーカーは、良性の疾患でも上昇します。例えば、CEAは肝硬変、慢性肝炎、膵炎、潰瘍性大腸炎などで上昇します。CA19-9は胆道閉塞、膵炎、肝硬変で高値を示すことがあります。

AFPは慢性肝炎や肝硬変で上昇し、PSAは前立腺肥大症や前立腺炎で高値となります。CA125は子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫などで上昇することがあります。

これらの良性疾患による上昇は、通常は軽度から中等度で、がんによる上昇と比べると低値にとどまることが多いですが、時に高値を示すこともあり、判断が難しい場合があります。

生理的変動と生活習慣

一部の腫瘍マーカーは、生理的な変動や生活習慣によっても影響を受けます。CEAは喫煙者で高値を示す傾向があります。PSAは射精後、激しい運動後、自転車乗車後、前立腺の触診後などに一時的に上昇します。

CA125は月経中や妊娠初期に上昇することがあります。加齢によっても、多くの腫瘍マーカーは緩やかに上昇する傾向があります。

そのため、腫瘍マーカーの測定前には、これらの影響を考慮し、可能であれば避けることが推奨されます。

測定誤差と検査方法

まれに、検査の測定誤差や、使用する測定キットの違いによって、値が変動することがあります。異なる測定方法や測定キット間で、基準値や測定値が一致しないことがあるため、経時的な変化を見る場合は、同じ施設、同じ方法で測定することが望ましいです。

また、ヘテロフィリック抗体(異好性抗体)という、体内に存在する特殊な抗体が測定に干渉し、偽高値を示すことがあります。このような場合は、別の測定方法で再検査が必要になります。

腫瘍マーカーが高値だった場合の対応

健康診断や人間ドックで腫瘍マーカーが高値と指摘された場合、まず落ち着いて、精密検査を受けることが重要です。前述のように、高値でも多くの場合はがん以外の原因です。

まず、詳しい問診と身体診察を受けます。症状の有無、既往歴、家族歴、生活習慣などを確認します。次に、血液検査、画像検査(CT、MRI、超音波検査、PET-CTなど)、内視鏡検査などを行い、異常の有無を調べます。

特に、上昇している腫瘍マーカーに関連する臓器を重点的に検査します。例えば、CEAが高値であれば大腸内視鏡検査、CA19-9が高値であれば腹部CTやMRI、PSAが高値であれば前立腺MRIや前立腺生検などが検討されます。

経過観察

精密検査で明らかな異常が見つからない場合、一定期間後に再検査を行い、経過を観察します。腫瘍マーカーが持続的に上昇している場合や、さらに上昇する場合は、より詳しい検査が必要になることがあります。

一方、一時的な上昇で、再検査で正常化している場合は、良性の原因や生理的変動だった可能性が高く、通常の検診を継続します。

経過観察中は、腫瘍マーカーの値の推移に注目します。単独の値よりも、経時的な変化パターンの方が重要な情報となります。持続的な上昇や急激な上昇は、より注意深い評価が必要です。

腫瘍マーカーの適切な活用方法

腫瘍マーカーを適切に活用するためのポイントをまとめます。

スクリーニング検査としての限界を理解する

腫瘍マーカー単独でのがんスクリーニングは推奨されません。他の検査(画像検査、内視鏡検査など)と組み合わせて使用することが重要です。

PSAによる前立腺がん検診など、一部の例外を除いて、健康な人が腫瘍マーカー検査だけを受けることの意義は限定的です。不必要な不安や過剰な検査を避けるためにも、医師とよく相談して、自分に適した検診方法を選択しましょう。

がん治療中・治療後の経過観察に有用

腫瘍マーカーが最も有用なのは、がんと診断された後の治療効果の判定と、経過観察です。治療前に高値だった腫瘍マーカーが治療後に正常化すれば、治療が有効だったことを示します。

治療後の定期的な測定で、再び上昇した場合は再発や転移の可能性を疑い、早期に対応することができます。このように、既知のがん患者に対しては、腫瘍マーカーは非常に有用なツールとなります。

高リスク群での定期的な測定

慢性肝疾患患者のAFP測定のように、がんのリスクが高い人に対する定期的な腫瘍マーカー測定は有用です。このような場合、画像検査と組み合わせることで、早期発見の確率が高まります。

がんの家族歴がある方、特定のがんのリスク要因を持つ方などは、医師と相談して、適切な腫瘍マーカー検査と検診計画を立てることが推奨されます。

まとめ

腫瘍マーカーは、がん細胞が産生する物質や、がんの存在により体内で増加する物質で、血液検査で測定できます。CEA、CA19-9、AFP、PSA、CA125など、多くの種類があり、それぞれ特定のがんとの関連性が知られています。

しかし、腫瘍マーカーには限界があり、早期がんでの感度が低いこと、良性疾患でも上昇すること、偽陽性が多いことから、健康な人のがんスクリーニング検査としては一般的に推奨されていません。腫瘍マーカーが高値でも、多くの場合はがん以外の原因です。

腫瘍マーカーは、がんの診断の補助、治療効果の判定、経過観察での再発・転移の早期発見に有用です。高値と指摘された場合は、精密検査を受けて原因を明らかにし、必要に応じて経過観察を行うことが重要です。腫瘍マーカーの特性を理解し、他の検査と組み合わせて適切に活用しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。