睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に気道が繰り返し閉塞して呼吸が止まる病気です。単なるいびきと思われがちですが、放置すると高血圧・心筋梗塞・脳卒中・糖尿病などの重大疾患リスクを著しく高め、最悪の場合は睡眠中の突然死につながることもあります。日本では成人男性の約3〜7%、女性の約2〜5%がSASを持つとされており、多くが未診断のまま過ごしています。本記事では、SASの症状・原因・診断・治療について詳しく解説します。
目次
睡眠時無呼吸症候群の症状
SASの症状は睡眠中と日中の両方に現れます。
睡眠中の症状
大きないびき・無呼吸(呼吸が10秒以上止まる)・息苦しさによる中途覚醒・夜間頻尿・寝汗が代表的な症状です。本人は睡眠中のため気づかないことが多く、同室の家族や同伴者から「息が止まっている」と指摘されることで初めて気づくケースが多いです。
日中の症状
熟睡できないため強い日中の眠気が生じます。会議中や運転中に眠ってしまう、朝起きても疲れが取れない・頭痛がする、集中力・記憶力の低下、イライラ・気分の落ち込みなどが現れます。SASによる居眠り運転は交通事故のリスクを6〜7倍高めることが報告されており、社会的にも深刻な問題となっています。
睡眠時無呼吸症候群の主な原因
SASの原因は閉塞型(OSA)と中枢型(CSA)に分けられますが、成人の95%以上は閉塞型です。
肥満・首まわりの脂肪
最も一般的な原因です。首まわりに脂肪が蓄積することで気道が物理的に狭くなります。首周り男性40cm・女性38cm以上はSASのリスク因子とされています。BMI25以上の過体重・肥満はリスクを大幅に高めます。
顎・骨格の形態
下顎が小さい・後退している(小顎症・後退下顎)、舌が大きい、扁桃腺・アデノイドが肥大しているなど骨格的な特徴もSASの原因となります。日本人は欧米人に比べて肥満度が低くてもSASになりやすい傾向があり、骨格的要因が関与していると考えられています。
飲酒・睡眠薬・加齢
アルコールや睡眠薬は上気道の筋肉を弛緩させ、気道閉塞を悪化させます。加齢による筋緊張の低下も気道虚脱を起こしやすくする要因です。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症
SASで最も重要な合併症が循環器疾患です。無呼吸が繰り返されるたびに血液中の酸素が低下し(間欠的低酸素)、これが交感神経を活性化させて血圧を上昇させます。治療抵抗性の高血圧の30〜50%にSASが関与しているとされており、降圧薬が効きにくい場合にSASを疑うことが重要です。
また心房細動・心筋梗塞・脳梗塞・2型糖尿病・うつ病・認知機能低下などとの関連も多くの研究で示されており、SASの適切な治療がこれらのリスク低減につながります。
睡眠時無呼吸症候群の検査
SASの診断は睡眠検査によって行われます。
自宅での簡易検査(パルスオキシメトリー+鼻カニューラ)
機器を持ち帰って自宅で就寝中に装着する簡易検査です。無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)を測定します。AHI5回未満が正常で、5〜14回が軽症・15〜29回が中等症・30回以上が重症のSASとされます。費用は保険適用で3,000〜5,000円程度です。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
入院して脳波・眼球運動・筋電図・呼吸・血中酸素を同時記録する精密検査で、SAS診断の「ゴールドスタンダード」です。簡易検査で判定が難しい場合や、他の睡眠障害との鑑別が必要な場合に用いられます。
睡眠時無呼吸症候群の治療
CPAP療法(持続気道陽圧療法)
中等症以上(AHI20以上)のSASに最も有効な治療です。専用のマスクを装着して睡眠中に空気を送り込み、気道を物理的に開いた状態に保ちます。1日4時間以上・週5日以上の使用が保険適用の条件であり、適切に継続することでいびき・日中の眠気・高血圧が改善します。CPAPは治癒ではなく症状のコントロールであるため、長期継続が必要です。月1回の外来でデータを確認しながら設定を調整します。
マウスピース(口腔内装置)
軽症〜中等症または肥満を伴わないSASに用いられる治療法です。下顎を前方に突き出した状態に固定することで気道を広げます。CPAPほど確実な効果はありませんが、装着感が比較的良く・持ち運びやすいという利点があります。歯科で作製します(保険適用)。
生活習慣の改善
体重の5〜10%の減量により、AHIが30〜50%改善する可能性があります。就寝前の飲酒を控える・仰向けではなく横向きで寝る(体位療法)・睡眠薬の使用を見直すことも有効です。
手術療法
扁桃肥大・アデノイド肥大が原因の場合や、顎の形態異常が原因の場合は外科的治療(口蓋垂軟口蓋形成術・顎矯正手術など)が選択されることがあります。
女性・子供のSASの特徴
女性のSASは男性に比べて日中の眠気より不眠・うつ・倦怠感が主症状として現れやすく、見逃されやすい傾向があります。閉経後はエストロゲン・プロゲステロンの保護作用がなくなり、SASリスクが男性並みに上昇します。子供では扁桃肥大・アデノイド肥大が主な原因で、口呼吸・夜尿・集中力低下・成長障害を引き起こすことがあります。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は「いびきがひどいだけ」ではなく、高血圧・心疾患・糖尿病など全身の健康に重大な影響を与える疾患です。家族に「いびきが激しい」「呼吸が止まっている」と言われたら、早めに耳鼻咽喉科または睡眠外来を受診して自宅簡易検査を受けましょう。CPAP治療やマウスピースで睡眠の質を改善することは、日中の活動力向上だけでなく、将来の心臓病・脳血管病のリスクを下げることにもつながります。










