レカネマブとドナネマブの違いとは?アルツハイマー新薬の適応基準

「親の物忘れが目立ってきたけれど、話題のアルツハイマー病新薬は使えるのだろうか」「『レカネマブ(レケンビ)』と『ドナネマブ(ケサンラ)』の2つの新薬は何が違うの?」「これまでの認知症の飲み薬と何が根本的に違うの?」と関心を寄せていませんか。

世界の認知症患者の約6〜7割を占めるアルツハイマー病治療において、今まさに100年ぶりの歴史的転換期が訪れています。

従来の治療薬(ドネペジルなど)は、減少した神経伝達物質を一時的に補って症状を一時的にごまかす対症療法に過ぎず、脳の神経細胞が壊れていく病気の進行そのものを止めることはできませんでした。

これに対し、近年日本で相次いで承認された「レカネマブ」および「ドナネマブ」は、アルツハイマー病の根本原因物質とされる脳内のゴミタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」を標的として直接除去し、脳神経の破壊と認知機能低下の進行を根本から遅らせる世界初の疾患修飾薬です。

しかし、これら新薬はすべての認知症患者に使える魔法の特効薬ではなく、適応となる病期ステージや厳格な検査基準、知っておくべき副作用が存在します。

この記事では、レカネマブとドナネマブの医学的な違い、投与スケジュールや通院頻度、適応となる軽度認知障害(MCI)の条件、そして脳浮腫や出血などの副作用(ARIA)の管理について専門医が詳しく解説します。

アルツハイマー病の根本原因「アミロイドβ仮説」と新薬の仕組み

アルツハイマー病は、発症する15〜20年も前から脳内に「アミロイドβ」という異常なタンパク質が異常凝集して沈着することから始まります。

蓄積したアミロイドβが老人斑を形成し、続いてタウタンパク質が神経細胞内に蓄積して神経細胞死を招き、脳が徐々に萎縮していきます。

レカネマブとドナネマブは、いずれも人工的に作られたモノクローナル抗体製剤です。

点滴によって血液中に入った抗体が脳血管関門を通過して脳内へと移行し、標的となるアミロイドβに特異的に結合します。

すると、脳内の掃除屋であるミクログリア細胞が活性化され、異物として認識されたアミロイドβを貪食してきれいに脳外へ排出・除去することで、神経細胞の死滅を食い止めるのです。

【徹底比較】レカネマブ(レケンビ)とドナネマブ(ケサンラ)の性能比較表

現在臨床で使用されている2大抗体薬の相違点を以下の比較表にまとめました。

比較項目 レカネマブ(商品名:レケンビ) ドナネマブ(商品名:ケサンラ) 臨床における医学的特徴と評価
標的とするアミロイド形態 可溶性の凝集体
(プロトフィブリル)に強く結合。
不溶性の老人斑沈着物
(修飾アミロイドβ)に特異的結合。
毒性の強い初期凝集体を叩くか、沈着したプラークを除去するかの違い。
投与方法と投与間隔 2週間に1回、約1時間の点滴静注。 4週間に1回、約30分の点滴静注。 ドナネマブの方が通院頻度が月1回で済み、拘束時間が短い。
治療の終了基準(ゴール) 原則として18ヶ月間(1年半)継続投与。 アミロイドPETで脳内アミロイド除去が確認されれば投与終了(休薬)可能。 ドナネマブは最短6〜12ヶ月で目標達成し点滴を完了できる利点がある。
認知機能低下の抑制効果 プラセボ群と比較して進行を約27%遅らせる。 プラセボ群と比較して進行を約29〜35%遅らせる。 両者ともに病気の進行を約4〜7ヶ月間巻き戻し遅らせる同等の効果。
主な副作用(ARIA)の発現率 脳浮腫(ARIA-E)約12.6%
微小出血(ARIA-H)約17.3%
脳浮腫(ARIA-E)約24.0%
微小出血(ARIA-H)約31.4%
ドナネマブの方がアミロイド除去力が強力な分、ARIA発現率がやや高い。

誰が使えるのか?投与対象となる「厳格な適応基準」

新薬の投与対象となる患者さんは、厚生労働省および関連学会の最適使用推進ガイドラインによって極めて厳格に定められています。

1. 軽度認知障害(MCI)または軽度アルツハイマー病であること

最も重要な条件は、「病気の初期段階であること」です。

日常生活が自立できている前段階の「軽度認知障害(MCI)」、または着替えや食事が自力でできる「初期の軽度認知症」の方だけが対象です。

すでに中等度から高度に進行し、家族の介助なしでは日常生活が送れない段階まで脳細胞が死滅してしまっている場合、アミロイドβを除去しても死んだ神経細胞は再生しないため、新薬の適応外となります。

2. アミロイドPETまたは脳脊髄液検査で陽性が証明されていること

単なる問診や記憶テストだけでなく、アミロイドPET検査(陽電子放出断層撮影)または腰椎穿刺による脳脊髄液検査を行い、脳内にアミロイドβが実際に蓄積していることを科学的に証明しなければ投与できません。

最も警戒すべき副作用「ARIA(アミロイド関連画像異常)」

抗体薬を使用する上で絶対に知っておくべき副作用が「ARIA(アリア)」です。

脳血管の壁に付着していたアミロイドβが急激に除去される際、血管壁が一時的に脆くなって血液成分が漏れ出し、脳浮腫(むくみ:ARIA-E)や脳出血(微小出血:ARIA-H)が引き起こされます。

多くは無症状ですが、頭痛、めまい、吐き気、視覚障害、錯乱などが現れることがあります。

そのため、投与開始後数ヶ月間にわたり定期的な頭部MRI検査を義務付け、ARIAの早期発見と安全管理を徹底する体制が敷かれています。

「物忘れが増えてきた」と感じたら、治療可能な初期段階を逃さないためにも、できるだけ早く物忘れ外来や脳神経内科を受診しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。