貧血検査とは?鉄欠乏性貧血・悪性貧血・溶血性貧血の診断と治療を徹底解説

「なんとなくだるい」「疲れやすい」「顔色が悪い」といった症状がある場合、貧血が原因かもしれません。貧血には複数のタイプがあり、それぞれ原因や治療法が異なります。本記事では、貧血検査の基本から、代表的な貧血の種類とその特徴、検査値の見方、治療法まで詳しく解説していきます。

貧血検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説

貧血検査は、血液中の赤血球やヘモグロビンの量を測定し、貧血の有無や種類を判定する検査です。貧血とは、血液中の赤血球数やヘモグロビン濃度が正常値よりも低下した状態を指します。

ヘモグロビンは赤血球に含まれる赤い色素で、酸素を全身に運ぶ重要な役割を担っています。ヘモグロビンが減少すると、体の各組織に十分な酸素が届かなくなり、疲労感や息切れなどの症状が現れます。

貧血検査は一般的な血液検査に含まれており、健康診断や人間ドックで必ず実施されます。採血するだけで簡単に検査でき、貧血の有無だけでなく、貧血のタイプを推定することも可能です。

貧血の基準値

貧血の診断基準は、世界保健機関(WHO)が定めた基準が広く用いられています。

男性:ヘモグロビン13.0g/dL未満
女性:ヘモグロビン12.0g/dL未満
妊婦:ヘモグロビン11.0g/dL未満

この基準値を下回ると貧血と診断されます。ただし、個人差や年齢、生活環境によっても正常値は変動するため、総合的な評価が必要です。

貧血検査の基本項目

貧血検査では、以下の項目が基本的に測定されます。

ヘモグロビン(Hb):酸素を運ぶタンパク質の量
赤血球数(RBC):血液中の赤血球の数
ヘマトクリット(Ht):血液中に占める赤血球の容積の割合
平均赤血球容積(MCV):赤血球1個あたりの大きさ
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH):赤血球1個あたりのヘモグロビン量
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC):赤血球中のヘモグロビン濃度

これらの数値を組み合わせることで、貧血のタイプを分類し、原因を推定することができます

鉄欠乏性貧血の特徴と診断

鉄欠乏性貧血は、貧血の中で最も頻度が高く、全貧血の約60~80%を占めると言われています。特に女性に多く見られます。

鉄欠乏性貧血の原因

鉄摂取不足
偏った食事や無理なダイエットにより、食事からの鉄分摂取が不足する場合です。特に思春期の女性や妊娠中の女性で起こりやすくなります。

鉄の需要増加
妊娠・授乳期、成長期、激しいスポーツなどで、体内の鉄の需要が増加する場合です。

鉄の吸収障害
胃切除後や慢性胃炎、セリアック病などで、消化管からの鉄吸収が低下する場合です。

出血による鉄喪失
月経過多、消化管出血(胃潰瘍、大腸がんなど)、痔出血などにより、鉄が失われる場合です。中高年の男性や閉経後の女性で鉄欠乏性貧血が見つかった場合は、消化管出血の可能性を検討する必要があります。

鉄欠乏性貧血の検査項目

鉄欠乏性貧血を診断するためには、以下の検査が行われます。

血清鉄(Fe)
血液中の鉄の量を測定します。基準値は男性80~200μg/dL、女性70~180μg/dL程度です。鉄欠乏性貧血では低下します。

フェリチン
体内に貯蔵されている鉄の量を反映します。基準値は男性20~300ng/mL、女性5~150ng/mL程度です。フェリチンは鉄欠乏を最も早期に検出できる指標で、12ng/mL以下では鉄欠乏と診断されます。

総鉄結合能(TIBC)
血液中で鉄を運ぶタンパク質(トランスフェリン)の量を反映します。基準値は250~400μg/dL程度です。鉄欠乏性貧血では上昇します。

不飽和鉄結合能(UIBC)
まだ鉄と結合していないトランスフェリンの量です。鉄欠乏性貧血では上昇します。

トランスフェリン飽和度
血清鉄÷TIBC×100で計算されます。基準値は20~50%程度で、鉄欠乏性貧血では低下します。

鉄欠乏性貧血の症状と治療

鉄欠乏性貧血では、一般的な貧血症状(疲労感、息切れ、動悸、めまい、頭痛)に加えて、鉄欠乏特有の症状が現れることがあります。

爪がもろくなる、スプーン状に反る(さじ状爪)、口角炎や舌炎、異食症(氷や土を食べたくなる)などが特徴的です。

治療は、まず原因の特定と除去が重要です。消化管出血が疑われる場合は、内視鏡検査などで原因を調べます。

鉄剤の内服が基本的な治療法です。硫酸第一鉄やクエン酸第一鉄などが処方されます。ヘモグロビン値が正常化した後も、フェリチンが正常化するまで(通常3~6か月)継続する必要があります。

内服で副作用(胃腸障害)が強い場合や、吸収不良がある場合は、鉄剤の静脈注射が選択されることもあります。

悪性貧血の特徴と診断

悪性貧血は、ビタミンB12の欠乏により起こる貧血です。かつては治療法がなく致命的だったため「悪性」と名付けられましたが、現在は治療可能な疾患です。

悪性貧血の原因

胃粘膜の萎縮
自己免疫性胃炎により胃粘膜が萎縮し、ビタミンB12の吸収に必要な内因子という物質が分泌されなくなります。これが悪性貧血の典型的な原因です。

胃切除後
胃の全摘出や広範囲切除後、内因子の分泌が低下し、ビタミンB12が吸収できなくなります。

ビタミンB12摂取不足
極端な菜食主義(ビーガン)で、ビタミンB12の摂取が不足する場合です。ビタミンB12は動物性食品にのみ含まれるため注意が必要です。

吸収障害
回腸の疾患(クローン病など)や、小腸の細菌異常増殖でビタミンB12の吸収が妨げられる場合です。

悪性貧血の検査項目

MCV(平均赤血球容積)
100fL以上の大球性貧血を示します。赤血球が正常よりも大きくなるのが特徴です。

血清ビタミンB12
基準値は200~900pg/mL程度で、200pg/mL以下では欠乏と診断されます。

血清葉酸
葉酸欠乏も大球性貧血の原因となるため、同時に測定されます。基準値は4~20ng/mL程度です。

ホモシステイン、メチルマロン酸
ビタミンB12が欠乏すると上昇します。早期診断に有用です。

抗内因子抗体、抗壁細胞抗体
自己免疫性胃炎の診断に用いられます。抗内因子抗体陽性は、悪性貧血に特異的です。

悪性貧血の症状と治療

悪性貧血では、貧血症状に加えて、神経症状が特徴的です。手足のしびれ、歩行障害、記憶力低下、うつ症状などが現れることがあります。これは、ビタミンB12が神経機能に重要な役割を果たしているためです。

また、舌が赤く平滑になる(ハンター舌炎)ことも特徴的な所見です。

治療は、ビタミンB12の補充が基本です。初期には週1回程度の筋肉注射を行い、その後は月1回の維持療法を継続します。胃切除後や吸収障害がある場合は、生涯にわたって治療が必要になります。

最近では、高用量のビタミンB12内服薬も使用されるようになっています。神経症状がある場合は、早期の治療開始が重要です。治療が遅れると、神経症状が不可逆的になることがあります。

溶血性貧血の特徴と診断

溶血性貧血は、赤血球が正常よりも早く破壊される(溶血)ことで起こる貧血です。溶血性貧血には、遺伝性と後天性があります。

溶血性貧血の原因

遺伝性溶血性貧血
遺伝性球状赤血球症、サラセミア、鎌状赤血球症、G6PD欠損症などがあります。赤血球の膜、ヘモグロビン、酵素などに遺伝的な異常があり、赤血球が壊れやすくなります。

後天性溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が代表的です。自己抗体が赤血球を攻撃し、破壊します。薬剤性溶血性貧血や、機械的な溶血(人工弁置換後など)もあります。

溶血性貧血の検査項目

網赤血球数
骨髄から出たばかりの若い赤血球です。溶血性貧血では、赤血球の破壊が亢進しているため、代償的に骨髄での産生が増加し、網赤血球が増加します。基準値は0.5~2.0%で、溶血性貧血では5%以上に上昇します。

間接ビリルビン
赤血球が破壊されると、ヘモグロビンが分解されてビリルビンが産生されます。溶血性貧血では間接ビリルビンが上昇し、黄疸が現れることがあります。

ハプトグロビン
血液中の遊離ヘモグロビンと結合するタンパク質です。溶血が起こると消費され、低下します。

LDH(乳酸脱水素酵素)
赤血球内に多く含まれる酵素で、溶血により上昇します。

直接クームス試験(直接抗グロブリン試験)
赤血球表面に抗体が付着しているかを調べます。自己免疫性溶血性貧血では陽性となります。

溶血性貧血の症状と治療

溶血性貧血では、貧血症状に加えて、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿(溶血による)、脾臓腫大などが見られます。

急激に溶血が進む溶血発作では、発熱、腹痛、腰痛などを伴うことがあります。

治療は原因によって異なります。

自己免疫性溶血性貧血
ステロイド療法が第一選択です。効果不十分な場合は、免疫抑制剤や脾臓摘出術が検討されます。

遺伝性溶血性貧血
遺伝性球状赤血球症では脾臓摘出術が有効です。サラセミアや鎌状赤血球症では、症状に応じた対症療法や輸血が行われます。

薬剤性溶血性貧血
原因となる薬剤を中止します。

重症の場合は、輸血が必要になることもあります。葉酸の補充も、赤血球産生を支援するために重要です。

その他の貧血とその特徴

上記以外にも、いくつかの貧血のタイプがあります。

腎性貧血

慢性腎臓病により、腎臓でのエリスロポエチン(赤血球産生を促すホルモン)の産生が低下して起こります。治療には、エリスロポエチン製剤の投与が有効です。

二次性貧血(慢性疾患に伴う貧血)

慢性感染症、悪性腫瘍、膠原病などの慢性疾患に伴って起こります。炎症性サイトカインが鉄の利用を妨げるため、鉄は十分あっても貧血になります。原疾患の治療が重要です。

再生不良性貧血

骨髄での血球産生が低下し、赤血球だけでなく白血球や血小板も減少します。原因不明の特発性が多いですが、薬剤や化学物質、ウイルス感染が関与することもあります。免疫抑制療法や骨髄移植が治療の選択肢となります。

貧血を予防・改善するための生活習慣

貧血の予防や改善には、生活習慣の見直しが重要です。

食事による予防

鉄分を多く含む食品
レバー、赤身肉、カツオ、マグロ、あさり、小松菜、ほうれん草、ひじきなどを積極的に摂取しましょう。

動物性食品に含まれるヘム鉄は吸収率が高く(15~25%)、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は吸収率が低い(2~5%)ため、動物性と植物性の両方をバランスよく摂ることが大切です。

ビタミンCと一緒に摂取
ビタミンCは鉄の吸収を促進します。食後に果物を食べたり、野菜と一緒に摂取すると効果的です。

ビタミンB12と葉酸
レバー、魚介類、卵、乳製品(B12)、緑黄色野菜、豆類(葉酸)をしっかり摂りましょう。

避けるべき組み合わせ
お茶やコーヒーに含まれるタンニンは、鉄の吸収を妨げます。食事中や食直後の摂取は控えめにしましょう。

生活習慣の改善

十分な睡眠
睡眠不足は造血機能を低下させます。質の良い睡眠を心がけましょう。

適度な運動
軽い運動は血液循環を促進し、造血を助けます。ただし、激しい運動は鉄の消費を増やすため、注意が必要です。

ストレス管理
過度のストレスは造血機能に悪影響を与えます。リラックスする時間を持ちましょう。

定期的な検査の重要性

貧血は徐々に進行するため、自覚症状が現れにくいことがあります。定期的な健康診断で血液検査を受け、早期発見・早期治療につなげることが大切です。

特に女性、高齢者、慢性疾患をお持ちの方は、定期的なチェックをお勧めします。

まとめ

貧血検査は、ヘモグロビンや赤血球数を測定し、貧血の有無と種類を判定する重要な検査です。貧血には複数のタイプがあり、最も多い鉄欠乏性貧血は鉄剤の補充で治療できます。悪性貧血はビタミンB12欠乏が原因で、神経症状を伴うこともあり、ビタミンB12の補充が必要です。溶血性貧血は赤血球の破壊亢進が原因で、原因に応じた治療が行われます。

貧血の予防には、鉄分やビタミンB12、葉酸を含む食品をバランスよく摂取することが重要です。貧血は放置すると日常生活の質を低下させるだけでなく、重大な病気のサインであることもあります。定期的な検査で早期発見し、適切な治療を受けましょう。