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白内障とは?基本的な知識をわかりやすく解説
白内障は、目の中の水晶体が濁ることで、視力が低下する眼疾患です。
水晶体は、カメラのレンズのような役割を果たす透明な組織で、光を屈折させて網膜に像を結びます。この水晶体が加齢などの原因で白く濁ってくると、光が十分に通らなくなったり、光が乱反射したりして、見えにくくなるのが白内障です。
白内障は加齢に伴う変化であり、80歳以上ではほぼ100%の人に何らかの白内障が認められます。
60代で約70%、70代で約90%の方に白内障の所見が見られますが、すべての人が手術を必要とするわけではありません。日常生活に支障が出るほど視力が低下した場合に、手術が検討されます。
白内障は、適切な時期に手術を受けることで、ほぼ確実に視力を回復できる疾患です。
現在の白内障手術は技術が進歩し、安全性が非常に高く、日帰りで受けられることがほとんどです。痛みもほとんどなく、15~20分程度の短時間で終了します。
白内障の主な症状と見え方の変化
白内障の症状は、水晶体の濁り方や濁りの位置によって異なります。
視界のかすみ、まぶしさ、視力低下が主な症状で、ゆっくりと進行するのが特徴です。
視界のかすみと視力低下
白内障の最も典型的な症状は、霧がかかったように見える、全体的にかすんで見えるといった視界のかすみです。
特に遠くが見にくくなり、文字が読みづらくなる、テレビが見にくくなるなどの症状が現れます。濁りが進行するにつれて、徐々に視力が低下していきます。メガネやコンタクトレンズを調整しても視力が改善しない場合は、白内障が原因かもしれません。
まぶしさと光の見え方の変化
白内障では、光が水晶体で乱反射するため、まぶしく感じることが多くなります。
晴れた日の外出時、車のヘッドライト、街灯などの光が異常にまぶしく感じられ、目を開けていられないこともあります。また、光の周りに輪がかかって見える(グレア現象)、ものが二重三重にだぶって見える(単眼複視)なども白内障の特徴的な症状です。
色の見え方の変化
水晶体が黄色や茶色に濁ってくると、色の見え方が変化します。
全体的に黄色っぽく見える、色が くすんで見える、色の区別がつきにくくなるなどの症状が現れます。白内障手術後に「色がこんなに鮮やかだったとは知らなかった」と驚かれる方も多くいます。
その他の症状
白内障の初期には、一時的に近くが見やすくなることがあります(核性近視)。
これは水晶体の屈折率が変化するためで、「老眼が治った」と喜ぶ方もいますが、実際は白内障の初期症状です。また、白内障が進行すると暗いところでの視力が特に低下し、夜間の運転が困難になることもあります。
白内障の原因とリスク要因
白内障の最も大きな原因は加齢ですが、他にもさまざまな要因が関係しています。
加齢、紫外線、糖尿病、ステロイド薬が主なリスク要因です。
加齢性白内障
最も一般的なタイプが、加齢による白内障です。年齢とともに水晶体のタンパク質が変性し、徐々に濁っていきます。
これは老化現象の一つで、誰にでも起こりうる変化です。個人差はありますが、60歳を過ぎると多くの方に白内障の兆候が現れ始めます。進行のスピードは人によって異なり、数年で急速に進む場合もあれば、10年以上かけてゆっくり進む場合もあります。
紫外線と酸化ストレス
長年にわたる紫外線の曝露は、水晶体の酸化を促進し、白内障のリスクを高めます。
屋外で働く職業の方、紫外線の強い地域に住む方は、白内障の発症年齢が早い傾向があります。サングラスやUVカット効果のあるメガネで紫外線対策をすることが予防につながります。喫煙も酸化ストレスを増やすため、白内障のリスクを約2倍高めるとされています。
糖尿病性白内障
糖尿病があると、白内障の発症リスクが約5倍高まり、発症年齢も若くなります。
高血糖状態が続くと、水晶体内に糖が蓄積し、水晶体の透明性が失われます。糖尿病の方は、血糖コントロールを良好に保つことが白内障の予防と進行抑制に重要です。
その他の原因
ステロイド薬の長期使用は、白内障を引き起こすことがあります(ステロイド性白内障)。
また、アトピー性皮膚炎の方も白内障のリスクが高いことが知られています。目の外傷や眼内の炎症、放射線治療なども白内障の原因となります。先天性白内障は、生まれつき水晶体に濁りがある状態で、遺伝や母親の妊娠中の感染症(風疹など)が原因です。
白内障の診断と検査方法
白内障の診断には、視力検査、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査が基本となります。
これらの検査により、白内障の有無、程度、タイプを評価します。
視力検査
まず基本的な視力検査を行い、裸眼視力と矯正視力(メガネやコンタクトレンズでの最良視力)を測定します。
白内障が進行している場合、メガネで矯正しても視力が十分に出ないのが特徴です。また、まぶしさの程度を調べるグレアテストなども行われることがあります。
細隙灯顕微鏡検査
細隙灯(さいげきとう)という特殊な顕微鏡で、水晶体を詳しく観察します。
濁りの位置、程度、範囲を確認し、白内障のタイプを判定します。水晶体の濁り方には、皮質白内障(周辺部から濁る)、核白内障(中心部が濁る)、後嚢下白内障(後ろ側が濁る)などのタイプがあり、それぞれ症状や進行速度が異なります。
眼底検査と術前検査
瞳孔を広げる目薬をさして、眼底(網膜)の状態も詳しく調べます。
白内障以外の眼疾患(緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症など)の有無を確認することが重要です。手術を検討する場合は、角膜の形状測定、眼軸長測定(眼の長さを測る)、眼内レンズの度数計算などの詳細な検査が行われます。
白内障手術の方法と流れ
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入する手術です。
現在の主流は「超音波乳化吸引術」という方法で、安全性が非常に高く、日帰りで行えます。
手術の適応時期
白内障手術を受けるタイミングは、「日常生活に不便を感じるようになったとき」が目安です。
視力が0.7以下になると、運転免許の更新ができなくなります。趣味や仕事に支障が出る、読書や家事がしづらい、転倒のリスクが高まるなど、生活の質が低下してきたら手術を検討する時期です。白内障が過度に進行すると手術が難しくなることもあるため、適切な時期に手術を受けることが大切です。
手術の手順
手術は局所麻酔(点眼麻酔)で行われ、痛みはほとんど感じません。手術時間は通常15~20分程度です。
まず角膜に約2~3mmの小さな切開を作り、そこから超音波を出す器具を挿入します。水晶体の中身を超音波で砕きながら吸引して取り除き(超音波乳化吸引術)、残した水晶体の袋(嚢)の中に折りたたんだ眼内レンズを挿入します。
レンズは眼内で自然に広がり、固定されます。切開創は非常に小さいため、通常は縫合せずに自然に閉じます。
両眼に白内障がある場合、片眼ずつ手術を行い、1~2週間の間隔をあけてもう片方の眼を手術するのが一般的です。最近では両眼同日手術を行う施設も増えています。
術後の経過と注意点
手術当日は眼帯をして帰宅します。翌日から眼帯を外し、点眼薬による治療が始まります。
術後1~2週間は感染予防が最も重要で、点眼薬を確実に使用し、目をこすらないよう注意が必要です。洗顔、洗髪、入浴は医師の指示に従い、段階的に再開します。通常、術後1週間程度で日常生活にほぼ復帰でき、1カ月後には視力が安定します。
眼内レンズの種類と選び方
白内障手術で挿入する眼内レンズには、単焦点レンズと多焦点レンズの2種類があります。
それぞれ特徴があり、患者さんのライフスタイルや希望に応じて選択します。
単焦点眼内レンズ
単焦点レンズは、遠くまたは近くのどちらか一点にピントが合うレンズです。
健康保険が適用され、自己負担額は3割負担で片眼4万5千円程度です。遠方に焦点を合わせた場合、運転や外出時は快適ですが、手元を見るときには老眼鏡が必要になります。近方に焦点を合わせた場合は逆で、読書は楽ですが遠くを見るときにメガネが必要です。
多焦点眼内レンズ
多焦点レンズは、遠く・中間・近くの複数の距離にピントが合うように設計されたレンズです。
術後のメガネ依存度を大幅に減らすことができ、日常生活の多くの場面でメガネなしで過ごせます。2焦点レンズ(遠近)、3焦点レンズ(遠中近)、5焦点レンズなど、さまざまなタイプがあります。
多焦点レンズは先進医療または自由診療となり、費用は片眼30万~70万円程度と高額です。
ただし、一部のレンズは選定療養の対象となり、保険適用の手術費用に追加費用を払うことで使用できるようになりました。夜間のハロー・グレア(光の周りににじみや輪が見える)が起こることがありますが、多くは数カ月で慣れてきます。
レンズ選択のポイント
レンズ選択は、年齢、職業、趣味、ライフスタイル、予算などを総合的に考慮して決定します。
運転が多い方、夜間の視力が重要な職業の方は単焦点が適している場合があります。一方、アクティブに活動したい方、メガネをかけたくない方には多焦点が向いています。眼科医と十分に相談し、自分に合ったレンズを選ぶことが大切です。
白内障の予防と早期発見
加齢性白内障を完全に予防することは困難ですが、進行を遅らせることは可能です。
日常生活でできる予防と早期発見のポイントを紹介します。
紫外線対策
外出時には、UVカット機能のあるサングラスやメガネ、帽子を着用し、紫外線から目を守りましょう。
特に晴天の日、雪山、海辺など紫外線が強い環境では、しっかりと対策することが重要です。紫外線対策は若いうちから始めることで、将来の白内障リスクを減らせます。
生活習慣の改善
禁煙、バランスの良い食事、適正体重の維持、適度な運動など、健康的な生活習慣が白内障予防にも役立ちます。
抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、ルテイン、ゼアキサンチンなどの栄養素を含む食品(緑黄色野菜、果物、ナッツ類など)を積極的に摂取しましょう。糖尿病がある方は、血糖コントロールを良好に保つことが重要です。
定期的な眼科検診
40歳を過ぎたら、症状がなくても1~2年に1回は眼科で検診を受けることが推奨されます。
早期に白内障を発見できれば、進行を観察しながら適切な時期に手術を計画できます。また、緑内障や加齢黄斑変性など、他の眼疾患の早期発見にもつながります。「見えにくい」と感じたら、すぐに眼科を受診しましょう。
まとめ
白内障は、目の水晶体が濁ることで視力が低下する疾患で、加齢に伴い誰にでも起こりうる変化です。
60代で約70%、80代ではほぼ100%の方に認められますが、手術により視力を回復できます。
主な症状は、視界のかすみ、まぶしさ、視力低下、色の見え方の変化などです。加齢が最大の原因ですが、紫外線、糖尿病、喫煙なども関係します。
診断には視力検査と細隙灯顕微鏡検査が基本で、手術の適応は日常生活の不便さで判断します。
現在の白内障手術は超音波乳化吸引術が主流で、安全性が高く、15~20分程度で終了し、日帰りで受けられます。
眼内レンズには、保険適用の単焦点レンズと、メガネ依存度を減らせる多焦点レンズがあり、ライフスタイルに応じて選択できます。
予防には紫外線対策、禁煙、バランスの良い食事が有効で、40歳を過ぎたら定期的な眼科検診が推奨されます。
見えにくさを感じたら早めに眼科を受診し、適切な時期に手術を受けることで、クリアな視界を取り戻すことができます。