健康診断の結果に書かれている「eGFR」や「クレアチニン(Cr)」という言葉を見て、これは何だろう?と戸惑ったことはありませんか。
普段聞き慣れない専門用語ですが、腎臓(じんぞう)の働きや健康状態を知る上でとても重要な指標です。実は慢性腎臓病(CKD)は成人の8人に1人が抱えているとも言われるほど身近な病気であり、腎機能の低下は放っておくと健康に大きな影響を及ぼします。
この記事では、eGFRとクレアチニンとは何か、その基礎知識をわかりやすく解説し、腎機能が落ちると出てくる症状や検査の必要性、腎機能低下を招く原因、検査結果の見方や注意点、そして腎臓を守るために日常でできる予防・改善策まで丁寧に紹介します。腎臓の数値に不安や疑問がある方も、読み終える頃には腎機能の大切さと向き合い方がきっとクリアになるはずです。それでは一緒に腎臓の健康について学んでいきましょう。
目次
eGFR・クレアチニンとは?基本的な知識をやさしく解説
クレアチニンとは
クレアチニン(Cr)は血液検査で調べる項目の一つで、筋肉がエネルギーを使った際に生じる老廃物です。健康な腎臓であれば、この老廃物は血液から腎臓のフィルターである糸球体(しきゅうたい)を通して尿中に排出されます。
しかし腎臓のろ過機能が低下すると、クレアチニンをうまく尿に排泄できず血液中に溜まりやすくなるため、血清クレアチニン値が高くなります。そのため血中のクレアチニン値は腎機能の指標として用いられ、値が高いほど腎機能低下の可能性が示唆されます。
一般的なクレアチニンの基準範囲(正常値)は、男性で約0.65~1.07 mg/dL、女性で約0.46~0.79 mg/dL程度です。このように男性の方が高めなのは筋肉量の違いによる影響で、筋肉質な人やスポーツをよくする人はやや数値が高めになりやすい傾向があります。
逆に高齢で筋肉が減っている方などはクレアチニン値が低めでも必ずしも腎臓が健康とは限らない点に注意しましょう(筋肉量が少ないと老廃物の発生自体が少なく数値も低く出るためです)。
eGFRとは
GFRとは先述の糸球体が1分間に血液をどれだけろ過できているかを示す値で、腎臓の本来の働きそのものを表す指標です。簡単にいえば腎臓のろ過能力(腎機能)を点数化したものと考えるとわかりやすいでしょう。
正常な人ではGFRはおよそ100 mL/分/1.73㎡前後で、腎機能が低下するとGFRもそれに伴って低下します。ただし実際のGFRを正確に測定するには特殊な検査が必要で手間がかかるため、通常の健康診断では行われません。
その代わりに、血清クレアチニン値と年齢、性別のデータから推定したものがeGFR(推算糸球体濾過量)です。多くの病院や健診では、このeGFRが自動計算されて結果に記載されるようになっており、腎臓の働きをより正確に評価するのに役立っています。
eGFRの単位もmL/分/1.73㎡で表され、若く健康な腎臓では90~100前後の値を示します。例えばeGFRが50であれば、腎機能がおおよそ正常の半分程度まで落ちているイメージです。先ほどのクレアチニンが「老廃物のたまり具合」から腎機能を推し量る間接的な数値なのに対し、eGFRは腎臓の働きを%表示したようなイメージで捉えることができます。どちらの数値も腎臓の状態を知る大切な手がかりとなります。
腎機能が落ちるとどうなるの?主な症状と検査の必要性
腎臓の機能が低下したらどんな症状が出るのか気になるところですが、実は腎臓の病気は「サイレントキラー」とも呼ばれ、初期にはほとんど自覚症状がありません。
腎機能が少し落ちたくらいでは痛みも出ませんし、日常生活で自分では気づきにくいのです。知らないうちに腎臓の働きがじわじわ低下していても、体に目立った異変が現れないことが多く、気づいたときにはかなり進行しているケースも少なくありません。そのため、腎臓に不調を抱えている人の多くが「言われるまで症状に気づかなかった」と振り返ります。
では腎機能の低下が進むと全く何も感じないままなのでしょうか?
腎臓の働きが通常の30~50%以下に落ちてくると、次第に体にいくつかのサインが現れ始めます。代表的なのはむくみ(浮腫)と高血圧です。腎臓は体内の水分や塩分バランスを調節していますが、その機能が低下すると体に水分が溜まりやすくなり、手足や顔が腫れるようにむくみが出ることがあります。
また腎臓での塩分・水分コントロールが乱れることで血圧が上がり、高血圧の症状が出る場合もあります。ほかにも、腎機能低下に伴う疲れやすさや倦怠感(だるさ)、尿に泡立ちが見られる(尿タンパク)症状、進行した場合は食欲低下や息切れといった全身症状が現れることもあります。
また腎臓病の種類によっては尿に血が混じる(血尿)や腰のあたりの痛みが出るケースもあります。このように腎臓の働きが悪くなると少しずつ体調に変化が出ますが、問題はかなり進行するまで自覚しにくい点です。
症状に気づきにくいからこそ検査が重要!
腎臓は沈黙の臓器とも言われ、自覚症状だけに頼っていると発見が遅れてしまう恐れがあります。そのため定期的な検査で腎臓の状態をチェックすることが非常に大切です。
具体的には、尿検査と血液検査によって腎機能低下のサインを早期に見つけることができます。例えば尿検査では尿タンパクの有無が重要な手がかりです。
健康な腎臓はタンパク質を尿中に漏らしませんが、腎臓に障害があると尿にタンパクが出て陽性(+)となります。一方、血液検査では先述した血清クレアチニン値の上昇がないか確認します。これら尿や血液の検査で異常がみられた場合、さらに詳しく腎臓専門の検査や画像診断を行い、慢性腎臓病(CKD)かどうかを判断します。症状が出ていなくても、健診で「クレアチニンが高め」「eGFRが低い」と指摘されたら油断せず、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。
早期に発見して適切な治療を始めれば、慢性腎臓病は治癒したり悪化を抑えられる可能性が高まります。大切なのは、「自覚症状がないから大丈夫」と自己判断せず、定期的な検査や医師の診察を受けて腎臓の健康を見える化しておくことです。
腎機能低下の原因を知ろう:生活習慣と病気のリスク
腎臓の機能低下を引き起こす原因は一つではなく、さまざまな病気や生活習慣が関係しています。慢性的に腎機能が低下してしまう代表的なリスク要因を確認しておきましょう。
生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症)
全身の血管にダメージを与える生活習慣病は腎臓にも深く関係しています。特に糖尿病と高血圧は慢性腎臓病の二大原因です。血糖値が高い状態が続くと腎臓の糸球体に負担がかかり糖尿病性腎症を発症しやすくなります。また高血圧も腎臓の細かい血管を傷つけ機能低下を招きます。
実際、日本では糖尿病による腎臓病(糖尿病性腎症)が透析導入の原因疾患の第1位となっています。脂質異常症(高コレステロール血症)も動脈硬化を進め、腎臓の血流を悪化させる一因です。これら生活習慣病を放置すると腎臓まで影響が及びやすいため、早めの対策が必要です。
腎臓そのものの病気や加齢
腎臓自体の病気としては慢性糸球体腎炎や腎硬化症、遺伝性の多発性嚢胞腎などが挙げられます。これらは直接的に腎臓の組織に障害を起こし、徐々に腎機能を低下させます。また年齢を重ねることも腎機能低下の一因です。腎臓の機能は加齢とともに少しずつ落ちていくため、高齢になるほど慢性腎臓病のリスクも高まります。
不健全な生活習慣
日常の好ましくない習慣も腎臓には負担になります。塩分のとりすぎは高血圧を招き腎臓に悪影響ですし、肥満は高血圧や糖尿病を誘発し結果的に腎臓を痛めます。
さらに喫煙(タバコ)は腎臓の血管収縮や動脈硬化を進め、腎機能低下の危険因子です。過度の飲酒(アルコール)も脱水や高血圧につながるため腎臓にはマイナスになります。このように日々の生活習慣の積み重ねが、長い目で見れば腎臓の健康状態を左右します。
その他の要因
上記以外にも、遺伝的な要因で腎臓が弱い場合や、特定の薬剤を長期間服用することで腎障害が引き起こされるケースがあります。例えば痛み止め(NSAIDs)など一部の薬剤は腎臓に負担をかけることが知られています。医師の指示を超えて薬を乱用することは避けるべきです。
また、腎結石や前立腺肥大による尿路の詰まりなど物理的な原因で腎臓の働きが悪くなることもあります。いずれにせよ、これらのリスク要因が重なるほど腎臓はダメージを受けやすくなるため、自身の生活や健康状態を振り返り当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
腎機能の検査方法をチェック:数値の見方と注意点
腎機能の主な検査方法
すでに触れたように、腎臓の機能は主に血液検査と尿検査で評価できます。健康診断の結果表にも「腎機能検査」としてこれらの数値が載っていることが多いです。尿検査では尿タンパクや尿潜血(血尿)の有無を確認し、腎臓に異常がないか調べます。
一方、血液検査では血清クレアチニン値を測定し、そこから計算されるeGFRの値をチェックします。どちらも腎機能低下の早期発見に欠かせない検査項目です。特にeGFRは先述のとおり腎臓の働きを総合的に示すため、現在は多くの医療現場で重視されています。健診結果にeGFRが載っている場合は、その数値からご自身の腎臓の状態がおおよそ判断できます。
検査数値の見方
腎機能の指標となる主な数値(クレアチニンとeGFR)の意味を理解しておきましょう。クレアチニンについては「高いほど腎機能低下の疑い、低いほど腎機能良好(ただし筋肉量などに影響される)」という関係です。
eGFRについては「高いほど腎機能が良好、低いほど腎機能低下」を示し、具体的な数値によって慢性腎臓病の重症度がG1~G5のステージに分類されます。以下にeGFRの値の目安と腎機能の状態をまとめました。
eGFRの値 (mL/分/1.73㎡) | 腎機能の状態(CKDステージ) |
---|---|
90 以上 | 正常~腎機能正常高値 (G1) |
60~89 | 軽度低下 (G2) |
45~59 | 軽度~中等度低下 (G3a) |
30~44 | 中等度~高度低下 (G3b) |
15~29 | 高度低下 (G4) |
15 未満 | 腎不全・末期腎不全 (G5) |
表:eGFRの値による腎機能の分類(慢性腎臓病のステージ)
一般にeGFRが60以上であれば腎機能はおおむね良好とされます。一方、eGFRが60未満に低下した状態が3か月以上続くと慢性腎臓病(CKD)と診断されます。
例えばeGFRが55前後であればCKDのステージ3(中等度の腎機能低下)に相当し、生活習慣の見直しや原因疾患の治療が必要になります。またeGFRが15を下回るような場合は腎臓の働きが極めて低下した末期腎不全(ステージ5)で、人工透析療法や腎移植を検討する段階です。
血清クレアチニン値については、前述した正常範囲を超えて高い場合に腎機能低下が疑われます。例えば男性でクレアチニンが1.2~1.3を超える、女性で1.0前後を超えるようなら注意が必要です(筋肉量にもよりますが、一般的な基準値から逸脱して高い場合は医師に相談しましょう)。
健診結果の数値を見る際は、このようにクレアチニン高値・eGFR低値がないかを確認してみてください。
数値を見る際の注意点
腎機能の検査数値は便利な指標ですが、個人差要因も考慮する必要があります。筋肉量の多い人(例:アスリートや若い男性)ではクレアチニン値が高めに出やすく、それに伴ってeGFRが低めに算出されるため、実際には腎臓が元気でも数値上は腎機能が悪く見えてしまうことがあります。
逆に高齢で痩せた方や筋肉の少ない方ではクレアチニン値が低めでeGFRが高めに出るため、腎臓の機能が過大評価される場合もあります。
こうした体格差による誤差を補うため、必要に応じてシスタチンCという別の血液中の物質を測定してeGFRを算出する方法もあります。シスタチンCは全身の細胞から産生されるタンパクで、筋肉量の影響を受けないため、クレアチニンでは正確に評価しにくい場合の腎機能指標として用いられます。
一般の健診ではまずクレアチニンとeGFRで十分ですが、アスリート体型の方や筋肉が極端に少ない方では主治医が総合的に判断してくれるでしょう。また脱水など一時的な体調でも数値は変動します。検査値が基準から外れていても慌てず、必ず医師に相談して評価してもらうことが大切です。
腎機能を守るためにできること:予防・改善に役立つ生活習慣
腎臓の働きをこれ以上悪くしないため、そしてできる限り改善するために、私たちが日常生活でできることはたくさんあります。ポイントは、先ほど「原因を知ろう」の章で挙げたリスク要因を減らす生活習慣を心がけることです。
腎臓は日々の積み重ねによってじわじわとダメージを受けていく臓器なので、生活習慣の改善が何より予防につながります。それでは腎機能を守るための具体的な対策を見ていきましょう。
塩分を控えたバランスの良い食事
塩分の過剰摂取は高血圧を招き腎臓に負担をかけます。日頃から塩辛い味付けを控え、野菜や果物も取り入れたバランスの良い食事を心がけましょう。必要に応じて医師や栄養士の指導のもとでタンパク質やカリウムの摂取量を調整することもあります。
適度な水分補給
極端な水分不足(脱水)は腎臓のろ過を妨げ、急性腎障害の一因にもなります。のどが渇きやすい夏場や運動時はこまめに水分を補給し、血液の循環を良く保ちましょう。ただし心疾患等で医師から水分制限がある場合を除きます。
適度な運動と体重管理
ウォーキングや軽いジョギングなど定期的な運動は血圧や血糖のコントロールに役立ち、腎臓への負担軽減につながります。運動不足の人ほど慢性腎臓病のリスクが高いとも言われます。無理のない範囲で体を動かし、肥満を予防・改善しましょう。適正体重の維持はそれ自体が腎臓病予防策です。
十分な休養と睡眠
過労や睡眠不足が続くと血圧が上がりやすくなり、腎臓にも負担となります。質の良い睡眠を確保し、疲れをためないようにしましょう。特に睡眠時無呼吸症候群などがあると腎機能悪化に関連するとの指摘もあるため、心当たりがある人は治療を検討してください。
喫煙しない
タバコは百害あって一利なし。喫煙習慣のある人は腎臓の機能低下が早く進行しやすいことがわかっています。ニコチンは腎臓の血流を減少させ、慢性腎臓病の発症・進展リスクを高めます。腎臓のみならず全身の健康のためにも禁煙に努めましょう。
お酒は適量に控える
過度の飲酒は高血圧や脱水状態を招き、腎臓に悪影響を及ぼします。適度な飲酒量を守り、休肝日を設けるなどアルコールと上手に付き合いましょう。特に既に腎機能が低下している方は医師の指示に従い、お酒を控えることが望ましいです。
血圧・血糖のコントロール
高血圧や糖尿病のある方は、医師の指導のもとでしっかり治療しましょう。薬の内服や食事療法で血圧や血糖値を適正に保つことが、腎臓を守る一番の近道です。
例えば血圧が高めの方は減塩と降圧薬の服用で目標値まで下げる、糖尿病の方は食事・運動療法と必要に応じた薬物療法でヘモグロビンA1cを適正範囲に保つ、といった管理が腎機能の維持につながります。
薬の使用に注意する
痛み止めや一部の抗生物質など、腎臓に負担をかける薬剤があります。持病があり複数の薬を服用している方は、定期的に腎機能検査を受け副作用が出ていないか確認することが大切です。
市販薬でも長期間乱用しないよう注意しましょう。何か新しいサプリメントや漢方を試す際も、腎臓への影響がないか情報収集してからにしてください。
これらの生活習慣改善は簡単なようで継続するのは難しいかもしれません。しかし腎臓は改善努力にしっかり応えてくれる臓器です。実際、適切な治療や生活改善を行えば腎機能の低下スピードを緩やかにしたり、重症化を防ぐことも可能です。今日からできそうなことから一つずつでも実践し、あなたの腎臓をいたわってあげてください。
まとめ:eGFRやCrを通じて腎機能の大切さを理解し、健康管理につなげよう
腎臓は私たちの体内で血液をろ過し、老廃物や余分な水分を尿として排出する重要な役割を担っています。eGFRやクレアチニン(Cr)といった数値は、その腎臓の働き具合を知るための大切なサインです。
難しく感じるかもしれませんが、本記事で解説したように基本的な意味さえ押さえれば、健康診断の結果から自分の腎臓の状態を把握できるようになります。
ぜひお手元の健診結果を確認し、eGFRやクレアチニンの値にも目を向けてみてください。万一「基準よりも数値が悪いかも?」と思ったら、早めに専門医に相談して対策を講じることが重要です。慢性腎臓病は早期に発見し適切な治療を始めれば治癒したり進行を食い止められる可能性が高まります。逆に放置すれば重症化し、透析など生涯にわたる治療が必要になる恐れもあります。
幸い、腎臓の健康は日々の生活習慣で大きく左右されます。つまり、私たち自身の心がけで腎機能低下を予防し、今ある腎臓の働きを守っていくことができるのです。
本記事で学んだポイントをぜひ今日からの健康管理に役立ててください。定期的な尿検査・血液検査を受け、自分の腎臓の状態を把握しつつ、塩分控えめの食事や適度な運動・睡眠など腎臓に優しい生活を続けていきましょう。
eGFRやクレアチニンの数値は、決して怖がるためのものではなく、私たちが腎臓の健康を守るための道しるべです。 上手に活用しながら、自分の体と向き合っていけば、きっと将来にわたって健やかな毎日を送ることができるでしょう。あなたの腎臓がこれからも元気に働き続けてくれるよう、今日からできる一歩を踏み出してみてください。