頸動脈エコー検査は、首の両側を走る頸動脈を超音波で観察し、動脈硬化の程度を評価する検査です。動脈硬化は、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な血管疾患の原因となるため、早期に発見して適切な対策を講じることが重要です。
この検査では、血管壁の厚さ(IMT:内膜中膜複合体厚)やプラーク(血管壁にできたコブ)の有無を観察し、動脈硬化の進行度を評価します。痛みがなく、放射線被曝もないため、安全に繰り返し検査を受けることができます。
本記事では、頸動脈エコー検査の基本知識、検査方法、IMTとプラークの意味と基準値、動脈硬化のリスク評価、検査を受けるべき人、そして動脈硬化を予防する生活習慣まで、わかりやすく解説していきます。
目次
動脈硬化と頸動脈エコー検査
動脈硬化は、血管の壁が厚く硬くなり、弾力性が失われる状態です。血管の内側にコレステロールなどの脂質が沈着し、プラーク(粥腫)と呼ばれる隆起が形成されます。プラークが大きくなると血管が狭くなり、血流が悪化します。
さらに、プラークが破れると血栓ができ、血管が完全に詰まってしまうことがあります。これが脳の血管で起これば脳梗塞、心臓の血管で起これば心筋梗塞となり、生命に関わる事態を引き起こします。
頸動脈は、脳に血液を送る重要な血管です。頸動脈エコー検査で頸動脈の動脈硬化を評価することで、全身の動脈硬化の程度や、脳梗塞・心筋梗塞のリスクを推測できます。頸動脈は体表に近く、超音波で観察しやすいため、動脈硬化の評価に適した血管です。
動脈硬化のリスク要因
動脈硬化を進行させる主なリスク要因には、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満、運動不足、ストレスなどがあります。これらは生活習慣病とも呼ばれ、日常の生活習慣が大きく影響します。
また、加齢も重要なリスク要因です。年齢を重ねるごとに、誰でも動脈硬化は進行します。家族歴(両親や兄弟姉妹に心筋梗塞や脳梗塞の既往がある)も、動脈硬化のリスクを高めます。
これらの複数のリスク要因を持つ方は、動脈硬化が進行しやすく、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。頸動脈エコー検査により、早期に動脈硬化を発見し、リスク要因のコントロールに努めることが重要です。
頸動脈エコー検査の方法
頸動脈エコー検査は、首の表面にプローブ(超音波探触子)を当てて、頸動脈を観察する検査です。検査時間は10~20分程度で、痛みや苦痛は全くありません。
検査方法は、まず検査台に仰向けまたは半座位で横になります。首を少し後ろに反らせた姿勢をとることで、頸動脈が観察しやすくなります。検査技師または医師が、首の皮膚にゼリーを塗り、プローブを当てて観察します。
左右の頸動脈を、総頸動脈、内頸動脈、外頸動脈の各部位に分けて詳しく観察します。血管壁の厚さ、プラークの有無と大きさ、血管の狭窄の程度、血流の速度などを測定します。検査中は、プローブで首を軽く圧迫しますが、通常は不快感はありません。
特別な前処置や準備は不要で、食事の制限もありません。ネックレスなど首周りのアクセサリーは外す必要があります。検査結果は、通常は検査当日または数日以内に判明します。
観察する部位
頸動脈エコー検査では、主に以下の部位を観察します。総頸動脈(CCA)は、首の下方から上方に走る太い血管で、IMTの測定に適しています。プラークが形成されやすい部位でもあります。
頸動脈分岐部は、総頸動脈が内頸動脈と外頸動脈に分かれる部分で、血流の乱れが生じやすく、プラークができやすい重要な部位です。内頸動脈(ICA)は、脳に血液を送る血管で、この部位の狭窄や閉塞は脳梗塞のリスクを高めます。
これらの部位を系統的に観察することで、動脈硬化の程度と分布を評価します。
IMT(内膜中膜複合体厚)とは
IMTは「Intima-Media Thickness」の略で、血管壁の内膜(血液に接する層)と中膜(筋肉層)を合わせた厚さを指します。超音波画像では、血管壁が二重の線として観察され、その間の厚さを測定します。
IMTは、動脈硬化の初期段階を反映する指標です。動脈硬化が進行すると、血管壁が厚くなり、IMTが増大します。IMTの測定は、総頸動脈の分岐部より1~2cm下方の、最も観察しやすい部位で行われることが標準的です。
IMTは、動脈硬化の程度を数値化できるため、治療効果の判定や、経時的な変化の評価にも有用です。生活習慣の改善や薬物療法により、IMTの進行を抑制したり、改善させたりすることが可能です。
IMTの基準値と評価
IMTの正常値は、一般的に1.0mm未満とされています。1.0mm以上で肥厚あり、1.1mm以上で動脈硬化の進行が示唆されます。1.5mm以上の隆起性病変はプラークと定義されます。
ただし、IMTは年齢とともに増加するため、年齢を考慮した評価も重要です。若年者で高値の場合は、より注意が必要です。また、左右差がある場合や、複数の部位で肥厚が見られる場合も、動脈硬化のリスクが高いことを示します。
IMTが1.0mm以上の場合、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが約1.5~2倍に増加すると報告されています。IMTが0.1mm増加するごとに、心血管疾患のリスクが約10~15%増加するとも言われています。
IMTの測定精度
IMTの測定は、測定部位や測定方法によって値が変動することがあります。検査技師の技量や使用する超音波装置の性能も影響します。そのため、経時的な変化を評価する場合は、同じ施設、同じ測定方法で検査を受けることが望ましいです。
近年では、自動測定ソフトウェアの導入により、測定の再現性と精度が向上しています。複数の部位で測定し、平均値や最大値を用いることで、より信頼性の高い評価ができます。
プラークの評価
プラーク(粥腫)は、血管壁に形成されたコブ状の隆起で、動脈硬化が進行した状態を示します。プラークは、コレステロール、脂質、カルシウム、炎症細胞などから構成されています。
プラークの定義は、IMTが1.5mm以上の限局性の隆起、または周囲のIMTより0.5mm以上厚い部分とされています。プラークの存在は、動脈硬化が相当進行していることを意味し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。
頸動脈エコー検査では、プラークの有無、大きさ、性状(安定型か不安定型か)、血管の狭窄率などを評価します。これらの情報により、脳梗塞のリスクを推定し、治療方針を決定します。
プラークの性状:安定プラークと不安定プラーク
プラークは、その性状によって安定プラークと不安定プラークに分類されます。安定プラークは、表面が滑らかで、内部にカルシウムが多く沈着し、硬く安定しています。破れにくいため、急性の血管閉塞を起こすリスクは比較的低いです。
一方、不安定プラーク(脆弱性プラーク)は、表面が不整で、内部に脂質が多く含まれ、柔らかい性状をしています。炎症細胞の浸潤も多く見られます。このタイプのプラークは破れやすく、破れると血栓が形成され、急性の血管閉塞(脳梗塞)を引き起こす危険性が高いです。
超音波画像では、プラークの輝度(明るさ)によって性状を推測します。低輝度プラーク(黒っぽく見える)は脂質が多く不安定、高輝度プラーク(白く見える)はカルシウムが多く安定している傾向があります。不安定プラークが見つかった場合は、より積極的な治療介入が必要になることがあります。
血管狭窄率
プラークが大きくなると、血管の内腔が狭くなります。血管の狭窄率(どれだけ血管が狭くなっているか)は、脳梗塞のリスク評価に重要です。
狭窄率が50%以上(血管の直径が半分以上狭くなっている状態)の場合、有意狭窄と呼ばれ、脳梗塞のリスクが高まります。70%以上の高度狭窄では、脳血流が低下し、症状が出現する可能性があります。
高度狭窄が見つかった場合、MRAやCTアンギオグラフィーなどの追加検査を行い、必要に応じて頸動脈内膜剥離術(手術で狭窄を解除)や頸動脈ステント留置術(ステントで血管を広げる)などの治療が検討されます。
血管年齢と動脈硬化リスクの評価
頸動脈エコー検査の結果から、「血管年齢」を推定することができます。血管年齢とは、測定されたIMTやプラークの状態が、何歳の平均的な血管に相当するかを示す指標です。
例えば、実年齢が50歳でも、IMTが60歳の平均的な値であれば、血管年齢は60歳と推定されます。血管年齢が実年齢より高い場合、動脈硬化が平均より進行していることを意味し、生活習慣の改善や治療介入が必要です。
血管年齢は、患者さんにとって動脈硬化の程度を理解しやすい指標であり、生活習慣改善のモチベーション向上にもつながります。ただし、血管年齢はあくまで目安であり、個人差も大きいことを理解しておく必要があります。
脳梗塞・心筋梗塞リスクの評価
頸動脈エコー検査の結果は、脳梗塞や心筋梗塞の将来的なリスク評価に役立ちます。研究により、IMTの肥厚やプラークの存在が、これらの心血管イベントのリスクを高めることが証明されています。
プラークがある場合、ない場合と比べて、脳梗塞のリスクは約2~4倍、心筋梗塞のリスクは約2~3倍に増加すると報告されています。特に、両側の頸動脈に複数のプラークがある場合や、不安定プラークがある場合は、リスクがさらに高まります。
このような高リスク者には、より厳格な生活習慣管理や、抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)、スタチン(コレステロールを下げる薬)などの予防的治療が推奨されます。
頸動脈エコー検査を受けるべき人
以下のような方は、頸動脈エコー検査を受けることが推奨されます。まず、動脈硬化のリスク要因を持つ方です。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病がある方は、定期的な検査が重要です。
50歳以上の方、特に男性や閉経後の女性は、加齢による動脈硬化のリスクが高まるため、検査を受けることが推奨されます。脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、心筋梗塞、狭心症の既往がある方、家族にこれらの疾患の既往がある方も、検査の対象となります。
その他、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、関節リウマチなどの疾患も、動脈硬化のリスクを高めるため、これらの疾患を持つ方にも検査が推奨されます。人間ドックや脳ドックのオプション検査として、希望すれば受けることも可能です。
検査の頻度
初回検査で異常がなかった場合、3~5年ごとの検査が推奨されます。リスク要因が多い方や、IMTの軽度肥厚やプラークが見つかった方は、1~2年ごとの検査が望ましいです。
動脈硬化の治療中の方は、治療効果を評価するために、医師の指示に従って定期的に検査を受けます。生活習慣の改善や薬物療法により、IMTの進行を抑制できているか、プラークが安定化しているかなどを確認します。
動脈硬化を予防・改善する生活習慣
動脈硬化の進行を抑え、脳梗塞や心筋梗塞を予防するためには、生活習慣の改善が最も重要です。
食生活の改善
バランスの取れた食事を心がけましょう。野菜、果物、全粒穀物、魚類、大豆製品を積極的に摂取し、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、塩分、糖分の摂取を控えめにします。
特に、青魚に含まれるオメガ3脂肪酸(EPA、DHA)は、動脈硬化の予防に効果があります。オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸も推奨されます。食物繊維も、コレステロールの吸収を抑える効果があります。
アルコールは適量(1日あたり日本酒1合、ビール中瓶1本程度まで)にとどめ、過度の飲酒は避けてください。
運動習慣
適度な運動は、血圧やコレステロール値を改善し、動脈硬化の進行を抑制します。週に150分以上(1日30分、週5日以上)の中強度の有酸素運動(速歩、ジョギング、水泳、自転車など)が推奨されます。
筋力トレーニングも、週2回程度取り入れると効果的です。運動習慣がない方は、まずは1日10分のウォーキングから始めて、徐々に時間を延ばしていくとよいでしょう。
禁煙と体重管理
禁煙は動脈硬化予防の最重要課題です。喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を著しく進行させます。禁煙外来などを利用して、確実に禁煙を達成しましょう。
適正体重の維持も重要です。BMI(体格指数)を18.5~24.9の範囲に保つことが推奨されます。特に内臓脂肪型肥満(男性で腹囲85cm以上、女性で90cm以上)は、動脈硬化のリスクを高めるため、減量が必要です。
ストレス管理、十分な睡眠、規則正しい生活リズムも、動脈硬化の予防に役立ちます。定期的な健康診断で、血圧、血糖値、コレステロール値などをチェックし、異常があれば早期に治療を開始することが大切です。
まとめ
頸動脈エコー検査は、超音波を用いて頸動脈の動脈硬化を評価する検査です。IMT(血管壁の厚さ)とプラーク(血管壁のコブ)を観察し、動脈硬化の程度を数値化できます。IMTが1.0mm以上で肥厚あり、1.5mm以上の隆起はプラークと定義されます。
プラークの存在は脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めます。特に不安定プラークは破れやすく、急性の血管閉塞を引き起こす危険性があります。検査は痛みがなく安全で、動脈硬化のリスク要因を持つ方、50歳以上の方、脳梗塞や心筋梗塞の既往・家族歴がある方に推奨されます。
動脈硬化を予防・改善するには、バランスの良い食事、適度な運動、禁煙、適正体重の維持などの生活習慣改善が重要です。頸動脈エコー検査で動脈硬化を早期に発見し、適切な対策を講じることで、脳梗塞や心筋梗塞を予防しましょう。










