健康診断や人間ドックで「尿潜血陽性」と指摘されたことはありませんか?尿潜血は、尿中に赤血球やヘモグロビンが混入している状態で、腎臓や尿路系のさまざまな疾患のサインとなります。本記事では、尿潜血検査の仕組みや基準値、血尿の原因となる疾患(腎結石、膀胱炎、腎炎、膀胱がんなど)、異常が見つかった場合の精密検査と対処法について詳しく解説していきます。
目次
尿潜血検査とは?基本的な知識をわかりやすく解説
尿潜血検査は、尿中に赤血球やヘモグロビンが含まれているかどうかを調べる検査です。健康な人の尿には、通常はほとんど赤血球が含まれません。
腎臓や尿路系(腎盂、尿管、膀胱、尿道)に出血や炎症があると、赤血球が尿中に混入します。目で見てわかる血尿(肉眼的血尿)だけでなく、目では見えない微量の血液(顕微鏡的血尿)も検出できるため、疾患の早期発見に役立ちます。
尿潜血は健康診断の基本項目として広く実施されており、腎臓病、尿路結石、尿路感染症、泌尿器系の腫瘍などのスクリーニングに有用です。
尿潜血検査の方法
尿潜血検査は、主に試験紙法で行われます。試験紙を尿に浸すと、尿中のヘモグロビンと試験紙の試薬が反応して色が変化します。
判定結果は、以下のように表されます。
陰性(-):正常
偽陽性(±):境界域、再検査が必要
1+:軽度陽性
2+:中等度陽性
3+:高度陽性
試験紙法は簡便ですが、ヘモグロビン、ミオグロビン(筋肉のタンパク質)、酸化剤などにも反応するため、偽陽性(実際には血尿でないのに陽性と判定される)を示すことがあります。
より正確な評価のためには、尿沈渣検査(顕微鏡で尿中の赤血球を直接観察する検査)が行われます。
尿沈渣検査による評価
尿沈渣検査では、赤血球数を顕微鏡でカウントします。
正常:赤血球5個/HPF(強拡大視野)未満
顕微鏡的血尿:赤血球5個/HPF以上
尿沈渣検査では、赤血球の形態も観察できます。
変形赤血球(異形赤血球):ドーナツ状や突起のある赤血球。腎臓(糸球体)由来の血尿を示唆
正常形の赤血球:尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)由来の血尿を示唆
赤血球の形態を観察することで、出血部位をある程度推定できます。
検査を受ける際の注意点
正確な検査結果を得るために、以下の点に注意しましょう。
月経血の混入を避ける
女性の場合、月経中や月経直後は、月経血が混入して陽性になることがあります。月経が終わってから数日後に検査を受けることが望ましいです。
激しい運動を避ける
マラソンなど激しい運動の直後は、一時的に尿潜血が陽性になることがあります(運動性血尿)。
清潔な中間尿を採取
外陰部を清拭してから、排尿の最初と最後を避けて中間部分の尿を採取します。
採尿後は速やかに提出
時間が経つと赤血球が壊れてしまい、正確な検査ができなくなります。
血尿の分類と原因
血尿は、出血部位によって大きく2つに分類されます。
糸球体性血尿
腎臓の糸球体(血液をろ過する部分)からの出血です。
特徴
尿沈渣で変形赤血球が多く見られる(通常、80%以上)
赤血球円柱が見られることがある(糸球体腎炎に特徴的)
蛋白尿を伴うことが多い
通常、血尿の色は褐色調(コーラ様)
主な原因疾患
IgA腎症:日本で最も多い慢性糸球体腎炎。感冒後に肉眼的血尿を繰り返すことがある
急性糸球体腎炎:溶連菌感染後に発症することが多い
膜性増殖性糸球体腎炎
薄基底膜病(良性家族性血尿):予後良好
アルポート症候群:遺伝性の糸球体腎炎
ループス腎炎:全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う腎炎
糸球体性血尿は、慢性腎臓病へ進行するリスクがあるため、腎臓専門医による評価が必要です。
非糸球体性血尿(尿路性血尿)
腎盂、尿管、膀胱、尿道などの尿路からの出血です。
特徴
尿沈渣で正常形の赤血球が多い
蛋白尿を伴わないか、軽度
血尿の色は鮮紅色のことが多い
血の塊(血塊)が見られることがある
主な原因疾患
尿路結石(腎結石、尿管結石、膀胱結石)
尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎、尿道炎)
尿路腫瘍(膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、前立腺がん、腎細胞がん)
前立腺肥大症
多発性嚢胞腎
血管異常(腎動静脈奇形など)
外傷
特に、40歳以上で無症候性の血尿(痛みなどの症状がない血尿)がある場合は、膀胱がんや腎臓がんなどの悪性腫瘍の可能性も考慮し、積極的に精密検査を受けることが重要です。
主な疾患の特徴と症状
尿潜血陽性の原因となる主な疾患について、詳しく解説します。
尿路結石(腎結石、尿管結石)
尿路結石は、腎臓や尿管に結石(石)ができる疾患です。日本人の生涯罹患率は約10%と言われています。
症状
突然の激しい腰背部痛や側腹部痛(疝痛発作)
痛みは間欠的で、吐き気や嘔吐を伴うことがある
血尿(結石が尿路粘膜を傷つけるため)
頻尿、残尿感
結石が小さく症状がない場合もありますが、尿潜血が持続的に陽性になることがあります。
診断
腹部X線検査、腹部超音波検査、腹部CT検査で結石を確認します。CT検査が最も感度が高いです。
治療
小さい結石(5mm以下)は、水分を多く摂取し、自然排石を待ちます。大きい結石や症状が強い場合は、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、経尿道的結石除去術(TUL)、経皮的腎結石除去術(PNL)などが行われます。
膀胱炎
膀胱炎は、細菌感染により膀胱に炎症が起こる疾患です。女性に多く見られます。
症状
頻尿、排尿痛、残尿感
下腹部の不快感や痛み
尿の混濁
血尿(出血性膀胱炎の場合)
発熱はないか、あっても微熱程度
原因菌の多くは大腸菌です。女性は尿道が短く、肛門と尿道口が近いため、細菌が侵入しやすく膀胱炎になりやすいです。
診断
尿検査で白血球尿と細菌尿を認めます。尿培養検査で原因菌を特定します。
治療
抗生物質の内服(通常3~7日間)で治療します。水分を多く摂取し、排尿を我慢しないことも重要です。
繰り返す膀胱炎(再発性膀胱炎)の場合は、尿路の形態異常や結石、糖尿病などの基礎疾患がないかを調べる必要があります。
腎盂腎炎
腎盂腎炎は、細菌感染により腎臓と腎盂に炎症が起こる疾患です。膀胱炎から細菌が上行して発症することが多いです。
症状
高熱(38℃以上)、悪寒、戦慄
腰背部痛や側腹部痛
膀胱炎症状(頻尿、排尿痛)
全身倦怠感、吐き気、嘔吐
血尿
診断
尿検査で白血球尿、細菌尿、血尿を認めます。血液検査で炎症反応(CRP、白血球数)の上昇を認めます。画像検査(超音波、CT)で腎臓の腫大や水腎症の有無を確認します。
治療
入院して抗生物質の点滴治療を行うことが多いです。重症化すると敗血症や腎膿瘍を起こすことがあるため、早期の治療が重要です。
IgA腎症
IgA腎症は、日本で最も多い慢性糸球体腎炎で、糸球体にIgAという免疫グロブリンが沈着して炎症が起こります。
症状
多くの場合、無症状で健康診断の尿潜血や尿蛋白で発見されます
感冒やその他の感染症の後、数日以内に肉眼的血尿(コーラ様の褐色尿)が出ることがある
進行すると、浮腫や高血圧が出現
診断
尿検査で血尿と蛋白尿を認めます。確定診断には腎生検が必要です。
治療
ACE阻害薬やARBによる血圧管理と腎保護、ステロイド療法や扁桃摘出術(扁桃摘出+ステロイドパルス療法)などが行われます。早期に適切な治療を行うことで、腎機能の悪化を防ぐことができます。
膀胱がん
膀胱がんは、膀胱の粘膜にできる悪性腫瘍です。50歳以上の男性に多く見られます。
症状
無症候性血尿(痛みを伴わない血尿)が最も特徴的
頻尿、排尿痛、残尿感(進行例)
水腎症による腰痛(進行例)
初期には痛みなどの症状がなく、血尿のみのことが多いため、40歳以上で無症候性血尿がある場合は、必ず膀胱鏡検査などの精密検査を受けることが重要です。
危険因子
喫煙(最も重要な危険因子)
化学物質への曝露(染料、ゴム、皮革産業など)
慢性的な膀胱刺激(結石、慢性感染症)
シクロホスファミド(抗がん剤)の使用歴
診断
尿細胞診(尿中のがん細胞を顕微鏡で調べる)、膀胱鏡検査(カメラで膀胱内を直接観察)、画像検査(CT、MRI)などが行われます。
治療
表在性膀胱がんは、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で治療します。再発予防のため、膀胱内に抗がん剤やBCGを注入することがあります。筋層浸潤性膀胱がんは、膀胱全摘出術や放射線療法、化学療法が行われます。
腎細胞がん(腎がん)
腎細胞がんは、腎臓の実質(腎実質)にできる悪性腫瘍です。50~70歳代に多く見られます。
症状
初期は無症状のことが多く、健康診断や他の理由で行った画像検査で偶然発見されることが増えています
血尿
腰背部の腫瘤(しこり)
腰痛
発熱、体重減少、貧血(進行例)
古典的には「血尿、腰部腫瘤、疼痛」の3徴候が知られていますが、3つすべてが揃う場合は進行例です。
診断
腹部超音波検査、腹部CT検査、MRI検査で腫瘍を確認します。CT検査が最も有用です。
治療
手術(腎摘出術または腎部分切除術)が第一選択です。進行例や転移例では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの薬物療法が行われます。
尿潜血陽性が見つかった場合の精密検査
健康診断などで尿潜血陽性が指摘された場合、以下のように対応します。
再検査
まず、尿潜血検査を再度行い、持続性か一過性かを確認します。女性の場合は月経の影響を避け、激しい運動の直後は避けて検査します。
一過性の場合は、運動性血尿や月経血の混入などの可能性があり、経過観察で良いこともあります。
尿沈渣検査
試験紙法で陽性の場合、尿沈渣検査で顕微鏡的に赤血球を確認します。赤血球の数と形態を観察し、糸球体性か非糸球体性かを推定します。
また、白血球、上皮細胞、円柱、結晶、細菌などの有無も確認します。
尿蛋白検査
尿蛋白が陽性の場合は、糸球体疾患の可能性が高くなります。
尿細胞診
40歳以上で無症候性血尿がある場合、尿中のがん細胞の有無を顕微鏡で調べます。膀胱がんや腎盂がんのスクリーニングに有用です。
血液検査
血清クレアチニン、eGFR(腎機能の評価)、血算(貧血の有無)、CRP(炎症反応)などを測定します。
画像検査
腹部超音波検査
非侵襲的で、腎臓の大きさや形態、腎結石、腫瘍、水腎症などを評価できます。
腹部CT検査
より詳細に腎臓、尿管、膀胱の状態を評価できます。結石の検出感度が非常に高く、腫瘍の評価にも有用です。
MRI検査
造影剤にアレルギーがある方や、より詳細な評価が必要な場合に行われます。
膀胱鏡検査
40歳以上で無症候性血尿がある場合、膀胱内を直接カメラで観察します。膀胱がんの診断に最も確実な方法です。
局所麻酔下で行われ、軟性膀胱鏡では痛みは比較的軽度です。
腎生検
糸球体疾患が疑われ、確定診断や治療方針の決定が必要な場合に行われます。腎臓の組織を採取して顕微鏡で観察します。
精密検査の流れ
一般的に、以下のような流れで精密検査が進められます。
1. 尿検査(尿沈渣、尿蛋白、尿細胞診)
2. 血液検査
3. 腹部超音波検査またはCT検査
4. 40歳以上で無症候性血尿の場合:膀胱鏡検査
5. 糸球体疾患が疑われる場合:腎生検
特に、40歳以上の無症候性血尿は、膀胱がんなどの悪性腫瘍のリスクがあるため、積極的に精密検査を受けることが推奨されます。
一過性血尿と良性の血尿
すべての尿潜血陽性が病気を意味するわけではありません。
運動性血尿
マラソンなど激しい運動の後に一時的に血尿が出現します。運動をやめれば自然に消失するため、病的意義は少ないです。
ただし、持続する場合は他の原因を考慮する必要があります。
月経血の混入
女性の場合、月経中や月経直後は、月経血が混入して陽性になることがあります。月経が終わってから再検査を行います。
薄基底膜病(良性家族性血尿)
遺伝性に糸球体基底膜が薄い状態で、持続的な顕微鏡的血尿を認めますが、腎機能は正常で予後良好です。
家族歴があり、蛋白尿を伴わないことが特徴です。腎生検で確定診断されます。
ナットクラッカー症候群
左腎静脈が上腸間膜動脈と腹部大動脈に挟まれて圧迫され、腎静脈の圧が上昇して血尿が出る状態です。
若い痩せ型の女性に多く見られます。多くは無症状で経過観察となりますが、症状が強い場合は手術が検討されることもあります。
尿潜血を予防するための生活習慣
尿潜血の原因となる疾患を予防するための生活習慣をご紹介します。
水分摂取
適切な水分摂取は、尿路結石や尿路感染症の予防に重要です。1日1.5~2リットル程度の水分を摂取しましょう。
特に夏場や運動時は、脱水にならないよう注意が必要です。
排尿習慣
尿意を我慢せず、定期的に排尿することで、尿路感染症を予防できます。
女性は排尿後に前から後ろへ拭くことで、大腸菌などの侵入を防げます。
食事
尿路結石の予防
シュウ酸を多く含む食品(ほうれん草、たけのこ、チョコレートなど)の摂りすぎに注意します。カルシウムを適度に摂取することも重要です(カルシウムはシュウ酸と結合して吸収を抑制)。
塩分の摂りすぎは尿中カルシウムを増やし、結石のリスクを高めるため注意が必要です。
バランスの良い食事
野菜や果物を多く摂り、動物性タンパク質の摂りすぎに注意します。
禁煙
喫煙は膀胱がんの最大の危険因子です。禁煙は膀胱がん予防に最も重要です。
定期的な検査の重要性
尿潜血は初期段階では症状が出ないことが多いため、定期的な健康診断で尿検査を受け、早期発見することが重要です。
特に、40歳以上の方、喫煙歴のある方、血尿の家族歴がある方は、定期的に尿検査を受けることをお勧めします。
まとめ
尿潜血検査は、尿中に赤血球やヘモグロビンが含まれているかを調べる検査で、腎臓や尿路系の疾患のスクリーニングに有用です。血尿は糸球体性(腎臓由来、変形赤血球が多い)と非糸球体性(尿路由来、正常形の赤血球が多い)に分類されます。
主な原因疾患として、糸球体性ではIgA腎症や急性糸球体腎炎、非糸球体性では尿路結石、膀胱炎、腎盂腎炎、膀胱がん、腎細胞がんなどがあります。特に40歳以上で無症候性の血尿がある場合は、膀胱がんなどの悪性腫瘍の可能性も考慮し、膀胱鏡検査などの精密検査を積極的に受けることが重要です。
予防には、適切な水分摂取、排尿を我慢しない習慣、バランスの良い食事、禁煙が重要です。尿潜血は初期段階では無症状のことが多いため、定期的な健康診断で早期発見・早期治療を心がけましょう。










