ペプシノゲン検査とは?胃がんリスクを調べる重要な検査を徹底解説

ペプシノゲン検査は、胃の粘膜の状態を調べ、胃がんのリスクを評価する血液検査です。萎縮性胃炎の有無を判定することで、胃がんの高リスク群を発見し、適切な検査や治療につなげることができます。本記事では、ペプシノゲン検査の基礎知識、検査値の意味、萎縮性胃炎と胃がんの関係、ピロリ菌検査との組み合わせ(ABC検診)、そして異常が見つかった場合の対処法まで詳しく解説します。ペプシノゲン検査を正しく理解して、胃がんの予防と早期発見に役立てましょう。

ペプシノゲン検査とは

ペプシノゲン検査について、その基本的な性質と医療現場での役割を理解することが重要です。

ペプシノゲンの基礎知識

ペプシノゲンは、胃の粘膜から分泌される消化酵素ペプシンの前駆体で、タンパク質の消化に関与します。ペプシノゲンにはI型とII型の2種類があり、I型は主に胃底腺粘膜から、II型は胃底腺と幽門腺から分泌されます。

健康な胃粘膜ではこれらのペプシノゲンが適切に産生されますが、慢性的な炎症により胃粘膜が萎縮すると、ペプシノゲンI型の産生が減少します。血液中のペプシノゲンI型とII型の値、およびその比率(I/II比)を測定することで、胃粘膜の萎縮の程度を評価できます。

ペプシノゲン検査は採血だけで行える簡便な検査で、人間ドックや健康診断で広く実施されています。胃カメラのような苦痛がなく、気軽に受けられることが利点です。ただし、胃がんを直接発見する検査ではなく、胃がんのリスクを評価する検査であることを理解する必要があります。

ペプシノゲン検査の目的

ペプシノゲン検査の主な目的は、萎縮性胃炎の有無を判定し、胃がんのリスクを層別化することです。萎縮性胃炎は、長期間のピロリ菌感染などにより胃粘膜が薄くなった状態で、胃がん発生の重要なリスク因子です。

ペプシノゲン検査により萎縮性胃炎が発見されれば、その方は胃がんのハイリスク群と判定され、定期的な胃カメラ検査による監視が推奨されます。逆に、萎縮性胃炎がない方は胃がんのリスクが低いと評価され、胃カメラの頻度を減らすことも検討できます。

このように、ペプシノゲン検査は効率的な胃がん検診のために、検査対象者をリスク別に層別化する役割を果たします。ただし、リスクが低いと判定されても胃がんの可能性はゼロではないため、症状がある場合は胃カメラ検査を受けることが重要です。

ペプシノゲン検査の結果の見方

ペプシノゲン検査の結果を正しく理解するために、基準値と判定方法を知ることが必要です。

ペプシノゲン値の基準と判定

ペプシノゲン検査の判定は、ペプシノゲンI型の値とI/II比の組み合わせで行われます。一般的な判定基準は、ペプシノゲンI型が70ng/mL以下、かつI/II比が3.0以下の場合、陽性(萎縮性胃炎あり)と判定されます。

ペプシノゲン陽性の場合、胃粘膜の萎縮が進行していることを示し、胃がんのリスクが高い状態です。陰性の場合は、胃粘膜の萎縮が軽度または無く、胃がんのリスクは比較的低いと評価されます。

ただし、測定方法や施設により基準値が若干異なることがあります。また、ペプシノゲン検査の感度(萎縮性胃炎を正しく検出する割合)は約60から80%、特異度(萎縮性胃炎でない人を正しく判定する割合)は約70から80%とされ、完璧な検査ではないことを理解する必要があります。

萎縮の程度と胃がんリスク

胃粘膜の萎縮の程度により、胃がんのリスクは異なります。軽度の萎縮では胃がんのリスクは比較的低いですが、中等度から高度の萎縮では胃がんのリスクが健常者の数倍から十数倍に上昇します。

ペプシノゲンI型の値が低いほど、I/II比が低いほど、萎縮の程度が強いことを示し、胃がんのリスクが高くなります。特にペプシノゲンI型が30ng/mL以下、I/II比が2.0以下の場合は、高度萎縮性胃炎を示唆し、胃がんのリスクが非常に高いと判断されます。

萎縮性胃炎があると診断された場合、定期的な胃カメラ検査(年1回から2回)により、胃がんを早期に発見することが重要です。早期胃がんは内視鏡的切除術で治癒可能なことが多く、定期検査の意義は非常に大きいです。

萎縮性胃炎と胃がんの関係

萎縮性胃炎が胃がんのリスク因子となる理由を理解することが重要です。

萎縮性胃炎とは

萎縮性胃炎は、胃粘膜が長期間の炎症により薄くなり、胃酸や消化酵素の分泌が低下した状態です。最も一般的な原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌の長期感染です。

ピロリ菌に感染すると慢性胃炎が起こり、数十年かけて徐々に胃粘膜が萎縮していきます。萎縮は胃の出口側(幽門部)から始まり、徐々に胃の入口側(胃体部)に広がります(開放型萎縮)。萎縮が胃全体に広がった状態を高度萎縮性胃炎と呼びます。

萎縮した胃粘膜では、本来胃にない腸の粘膜に似た組織(腸上皮化生)が出現することがあり、これががん化の前段階と考えられています。萎縮性胃炎自体は症状が乏しく、検査で初めて発見されることが多いです。

萎縮性胃炎から胃がんへの進展

萎縮性胃炎がある方は、胃がんの発生リスクが高くなります。日本人の胃がんの約90%以上は、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎を背景に発生します。萎縮性胃炎から胃がんへの進展は、「萎縮性胃炎 → 腸上皮化生 → 異形成(前がん病変) → 胃がん」というステップで進むと考えられています。

ただし、萎縮性胃炎のある全ての人が胃がんになるわけではなく、年間の胃がん発生率は約0.5から1%程度とされます。それでも一般人口に比べるとリスクは明らかに高く、定期的な監視が必要です。

ピロリ菌を除菌することで、萎縮性胃炎の進行を止め、胃がんのリスクを減少させることができます。ただし、既に高度の萎縮がある場合、除菌後も胃がんのリスクは残るため、継続的な検査が重要です。

ABC検診(ピロリ菌検査との組み合わせ)

ペプシノゲン検査とピロリ菌検査を組み合わせることで、より詳細な胃がんリスク評価が可能になります。

ABC検診とは

ABC検診は、ペプシノゲン検査とピロリ菌抗体検査を組み合わせた胃がんリスク層別化検診です。ピロリ菌感染の有無(A:陰性、B:陽性)とペプシノゲン値(C:陰性、D:陽性)の組み合わせにより、A群からD群の4つのリスクグループに分類します。

A群(ピロリ菌陰性、ペプシノゲン陰性)は、胃がんのリスクが最も低い群です。B群(ピロリ菌陽性、ペプシノゲン陰性)は、ピロリ菌感染はあるが萎縮は軽度で、中等度リスク群です。

C群(ピロリ菌陽性、ペプシノゲン陽性)は、ピロリ菌感染があり萎縮も進行している高リスク群です。D群(ピロリ菌陰性、ペプシノゲン陽性)は、萎縮が高度で既にピロリ菌が棲めなくなった状態で、最高リスク群とされます。

各群の対応と管理

A群の方は、胃がんのリスクが非常に低いため、通常の健康診断程度の頻度で良いとされます。ただし、症状がある場合は胃カメラを受けるべきです。

B群とC群の方は、ピロリ菌の除菌治療を受けることが強く推奨されます。除菌により胃がんのリスクを約30から40%減少させることができます。除菌後も、年1回から2回の胃カメラ検査による監視が推奨されます。

D群の方は、既に高度の萎縮があり、胃がんのリスクが最も高い群です。年1回から2回の定期的な胃カメラ検査が必須です。ピロリ菌は既にいない可能性が高いですが、念のため検査を受け、いれば除菌を検討します。

ABC検診により、効率的に高リスク者を抽出し、重点的に胃カメラ検査を行うことで、胃がんの早期発見率を高めることができます。

ピロリ菌と胃がん

ピロリ菌は胃がんの最大のリスク因子であり、その関係を理解することが重要です。

ピロリ菌とは

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃の粘膜に生息する細菌です。日本では40歳以上の約50%、50歳以上の約70から80%が感染しているとされますが、若年層では感染率が低下しています。

ピロリ菌は主に幼少期に、汚染された水や食品、家族からの感染で伝播します。現在の衛生環境が改善された日本では、新たな感染は減少しています。ピロリ菌に感染すると、慢性胃炎を引き起こし、長期間かけて萎縮性胃炎に進行します。

ピロリ菌感染者は、非感染者に比べて胃がんの発生リスクが約5から10倍高いとされます。胃・十二指腸潰瘍の原因でもあり、除菌により潰瘍の再発率が大幅に低下します。世界保健機関(WHO)は、ピロリ菌を胃がんの確実な発がん因子として分類しています。

ピロリ菌の除菌治療

ピロリ菌の除菌治療は、2種類の抗生物質とプロトンポンプ阻害薬(胃酸を抑える薬)を7日間服用する方法です。一次除菌の成功率は約70から80%で、失敗した場合は抗生物質を変更して二次除菌を行い、成功率は約90%以上になります。

除菌治療は、胃・十二指腸潰瘍、早期胃がんの内視鏡的切除後、慢性胃炎などで保険適用となります。除菌により、胃がんのリスクを約30から40%減少させることができますが、リスクがゼロになるわけではありません。

特に、既に萎縮性胃炎が進行している場合、除菌後も胃がんのリスクは残るため、定期的な胃カメラ検査が必要です。除菌の副作用として、下痢、軟便、味覚異常などが現れることがありますが、通常は軽度で一時的です。

ペプシノゲン検査陽性の場合の対処法

ペプシノゲン検査で陽性が出た場合、適切に対処することが重要です。

胃カメラ検査の必要性

ペプシノゲン検査陽性の場合、胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)を受けることが推奨されます。胃カメラにより、萎縮性胃炎の程度を直接確認し、胃がんやその他の胃疾患の有無を調べることができます。

胃カメラが苦手な方は、鎮静剤を使用することで楽に検査を受けられます。最近では経鼻内視鏡(鼻から入れる細い内視鏡)も普及し、咽頭反射が少なく、比較的楽に検査できます。

胃カメラで異常が見つからなくても、萎縮性胃炎がある場合は、年1回から2回の定期検査が推奨されます。胃がんは早期発見により内視鏡的切除で治癒可能なことが多く、定期検査の意義は非常に大きいです。検査を先延ばしにせず、速やかに受けることが重要です。

ピロリ菌検査と除菌

ペプシノゲン検査陽性の方は、ピロリ菌検査も受けることが推奨されます。ピロリ菌が陽性であれば、除菌治療を受けることで胃がんのリスクを減少させることができます。

ピロリ菌検査には、尿素呼気試験、便中抗原検査、血中抗体検査、胃カメラでの迅速ウレアーゼ試験や組織診などがあります。除菌治療には保険適用があり、費用負担も軽減されます。

除菌成功後も、萎縮性胃炎がある場合は胃がんのリスクが残るため、定期的な胃カメラ検査を継続することが重要です。除菌後1から2ヶ月経ってから、除菌が成功したかを確認する検査を受けましょう。

生活習慣と胃がん予防

萎縮性胃炎がある方は、生活習慣の改善も胃がん予防に重要です。塩分の多い食事は胃がんのリスクを高めるため、減塩を心がけ、野菜や果物を多く摂ることが推奨されます。

禁煙も重要で、喫煙は胃がんのリスクを約1.5から2倍高めます。過度の飲酒も避けるべきです。バランスの取れた食事、適正体重の維持、ストレス管理も胃の健康に有効です。

症状(胃痛、胃もたれ、食欲不振、黒色便など)が現れた場合は、定期検査を待たずに速やかに医療機関を受診することが重要です。早期発見・早期治療が胃がんの予後を大きく改善します。

ペプシノゲン検査の限界と注意点

ペプシノゲン検査には限界があることを理解しておくことが重要です。

偽陰性と偽陽性

ペプシノゲン検査は完璧ではなく、萎縮性胃炎があっても陰性となること(偽陰性)や、萎縮性胃炎がなくても陽性となること(偽陽性)があります。

特に、軽度の萎縮や限局性の萎縮では陰性となることがあり、また食道胃接合部の胃がんや未分化型の胃がんではペプシノゲン値が正常のこともあります。そのため、ペプシノゲン検査が陰性でも、症状がある場合や胃がんの家族歴がある場合は、胃カメラ検査を受けることが推奨されます。

逆に、腎機能障害がある場合、ペプシノゲンの排泄が低下して偽陽性となることがあります。プロトンポンプ阻害薬(胃酸を抑える薬)を服用している場合も、検査値に影響することがあります。

胃カメラとの併用の重要性

ペプシノゲン検査は、胃がんを直接発見する検査ではなく、胃がんのリスクを評価する検査です。胃がんの確定診断には胃カメラ検査が不可欠であり、ペプシノゲン検査はあくまでスクリーニングや層別化のツールです。

理想的には、ペプシノゲン検査とピロリ菌検査(ABC検診)でリスクを評価し、リスクに応じた頻度で胃カメラ検査を受けることが推奨されます。高リスク群は年1回から2回、中リスク群は2から3年に1回、低リスク群は症状時または5年に1回程度が目安です。

ただし、これはあくまで目安であり、個々の状況(家族歴、症状、既往歴など)に応じて、医師と相談しながら検査計画を立てることが重要です。

まとめ

ペプシノゲン検査は、血液検査により胃粘膜の萎縮の程度を評価し、胃がんのリスクを層別化する有用な検査です。ペプシノゲンI型が70ng/mL以下かつI/II比が3.0以下の場合、萎縮性胃炎ありと判定され、胃がんのハイリスク群となります。

萎縮性胃炎は主にピロリ菌の長期感染により発生し、胃がんの重要なリスク因子です。ペプシノゲン検査とピロリ菌検査を組み合わせたABC検診により、より詳細なリスク評価が可能です。

ペプシノゲン検査陽性の場合は、胃カメラ検査を受けて萎縮性胃炎や胃がんの有無を確認し、ピロリ菌陽性であれば除菌治療を受けることが推奨されます。定期的な胃カメラ検査により胃がんを早期に発見し、生活習慣の改善とともに、胃の健康を守ることが重要です。ペプシノゲン検査は胃がん予防の第一歩として、積極的に活用しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。