健康診断や人間ドックで行われる血液検査の中で、血小板検査(PLT)は出血を止める機能を評価する重要な項目です。血小板の数が多すぎても少なすぎても、さまざまな健康リスクにつながる可能性があります。本記事では、血小板検査の基本的な知識から、異常値が見つかった場合の対応まで、詳しく解説していきます。
目次
血小板検査(PLT)とは?基本的な知識をわかりやすく解説
血小板検査(PLT:Platelet)は、血液中の血小板の数を測定する検査です。血小板は骨髄で作られる血球成分の一つで、直径2~4マイクロメートルの小さな細胞です。
血小板の主な役割は、出血した際に傷口に集まり、血液を固めて止血することです。血小板が正常に機能することで、私たちは日常的な小さな傷から大きなケガまで、適切に止血することができます。
血小板検査は血液検査の基本項目である血算(CBC:Complete Blood Count)に含まれており、一般的な健康診断や人間ドックで必ず実施されます。採血した血液をそのまま自動血球計数器で測定するため、特別な前処置は必要ありません。
血小板の正常な働き
血小板は出血が起こると、まず血管の損傷部位に付着します。その後、血小板同士が凝集して血栓(血の塊)を形成し、出血を止めます。この過程を一次止血と呼びます。
さらに、血小板は凝固因子と呼ばれるタンパク質の働きを助け、より強固な血栓を形成します(二次止血)。血小板が適切な数と機能を維持することは、止血機能にとって不可欠なのです。
血小板の寿命と産生
血小板の寿命は約7~10日間と短く、常に骨髄で新しい血小板が作られています。骨髄の巨核球という細胞から、1日あたり約10万個/μLの血小板が産生されます。
血小板の産生は、トロンボポエチンというホルモンによって調節されています。血小板が減少すると、トロンボポエチンの分泌が増加し、骨髄での血小板産生が促進されるという仕組みになっています。
血小板検査の基準値と検査方法
血小板検査の基準値は、一般的に15万~40万個/μL(マイクロリットル)とされています。ただし、検査機関や測定方法によって、若干の違いがある場合があります。
基準値の範囲
血小板数の評価は以下のように分類されます。
正常値:15万~40万個/μL
軽度減少:10万~15万個/μL
中等度減少:5万~10万個/μL
重度減少:5万個/μL未満
軽度増多:40万~60万個/μL
中等度以上の増多:60万個/μL以上
10万個/μL以下になると出血傾向が現れやすくなり、5万個/μL以下では重篤な出血のリスクが高まります。一方、100万個/μL以上の著しい増多では、血栓症のリスクが上昇します。
検査方法と注意点
血小板検査は、一般的な血液検査と同様に、静脈から採血を行います。採血した血液は抗凝固剤(EDTA)を含んだ採血管に入れられ、自動血球計数器で測定されます。
検査前の特別な準備は基本的に必要ありませんが、以下の点に注意が必要です。
採血時に血液が凝固してしまうと、正確な測定ができません。また、採血後は速やかに検査を行う必要があります。時間が経過すると血小板が凝集し、正確な数値が得られなくなるためです。
また、血小板数は個人差が大きく、同じ人でも時間帯や体調によって変動することがあります。朝よりも夕方の方がやや高値になる傾向があり、運動後や妊娠中も変動します。
血小板減少症の原因と症状
血小板が基準値よりも少ない状態を血小板減少症(血小板減少)と呼びます。血小板減少には、さまざまな原因があります。
血小板減少の主な原因
産生低下による減少
骨髄での血小板産生が低下する場合です。再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、白血病などの血液疾患や、抗がん剤治療、放射線治療の副作用として起こることがあります。
破壊亢進による減少
血小板の寿命が短くなり、通常よりも早く破壊される場合です。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が代表的で、自己免疫機序により血小板が破壊されます。
消費亢進による減少
播種性血管内凝固症候群(DIC)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などで、血小板が過剰に消費される場合です。
分布異常による減少
脾臓が腫大すると、血小板が脾臓に溜まってしまい、血液中の血小板数が減少します。肝硬変などで見られます。
血小板減少の症状
血小板が5万個/μL以下になると、出血しやすくなる症状が現れます。
代表的な症状として、皮下出血(あざができやすい)、点状出血(皮膚に赤い点々が現れる)、鼻血が出やすい、歯茎からの出血、月経過多などがあります。
さらに血小板数が減少すると、消化管出血や脳出血などの重篤な出血が起こるリスクが高まります。特に1万個/μL以下では、自然出血のリスクが著しく上昇するため、緊急の治療が必要になります。
血小板増多症の原因と注意点
血小板が基準値よりも多い状態を血小板増多症(血小板増多)と呼びます。血小板増多にも、さまざまな原因があります。
血小板増多の主な原因
反応性血小板増多
他の疾患や状態に反応して、一時的に血小板が増加する場合です。感染症、炎症性疾患、鉄欠乏性貧血、悪性腫瘍、手術後、脾臓摘出後などで見られます。
多くの場合、原因となっている疾患が治癒すれば、血小板数も正常化します。
本態性血小板血症
骨髄増殖性腫瘍の一つで、骨髄で血小板が過剰に産生される疾患です。JAK2やCALRなどの遺伝子変異が原因となります。
真性多血症や骨髄線維症
これらも骨髄増殖性腫瘍に分類され、血小板増多を伴うことがあります。
血小板増多による健康リスク
血小板が著しく増加すると、血栓症のリスクが高まります。血栓症とは、血管内で血液が固まり、血流が妨げられる状態です。
脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺塞栓症などの重大な合併症を引き起こす可能性があります。また、血小板機能異常により、逆に出血傾向が現れることもあります。
特に100万個/μL以上の高値では、血栓症予防のための治療が必要になることが多いです。
血小板異常が見つかった場合の対応と治療
健康診断や人間ドックで血小板異常が指摘された場合、原因を特定し、適切な対応を取ることが重要です。
精密検査の内容
血小板異常が見つかった場合、以下のような精密検査が行われます。
血液検査の再検査
まず、偽性血小板減少(検査上の誤差)ではないことを確認するため、再検査を行います。
血液像検査
顕微鏡で血液を詳しく観察し、血小板の形態や他の血球の状態を確認します。
凝固機能検査
出血時間、PT、APTTなどの検査で、血液の固まりやすさを評価します。
骨髄検査
原因が不明な場合や血液疾患が疑われる場合、骨髄穿刺や骨髄生検を行い、骨髄での血小板産生状態を評価します。
血小板減少の治療
治療は原因によって異なります。
原因疾患の治療
感染症や炎症性疾患、薬剤性など、原因が明らかな場合はその治療を行います。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療
ステロイド療法、免疫グロブリン大量療法、脾臓摘出術、トロンボポエチン受容体作動薬などが選択されます。
重症例の対応
血小板数が著しく低く、重篤な出血のリスクがある場合は、血小板輸血が行われます。
血小板増多の治療
反応性血小板増多
原因疾患の治療を行います。多くの場合、特別な治療は不要です。
本態性血小板血症
血栓症のリスクに応じて、アスピリンなどの抗血小板薬や、ヒドロキシウレアなどの骨髄抑制薬が使用されます。
高齢者や血栓症の既往がある方、血小板数が150万個/μL以上の方では、より積極的な治療が推奨されます。
血小板検査結果を改善するための生活習慣
血小板異常の原因によっては、生活習慣の改善が有効な場合があります。
血小板減少への対策
栄養バランスの良い食事
葉酸、ビタミンB12、鉄分など、造血に必要な栄養素をしっかり摂取しましょう。緑黄色野菜、レバー、赤身肉、魚、大豆製品などがおすすめです。
アルコールの制限
過度の飲酒は骨髄での血小板産生を抑制します。適量を心がけましょう。
出血予防
血小板が少ない場合は、ケガや打撲を避けるよう注意が必要です。激しいスポーツは避け、歯磨きは柔らかいブラシを使用します。
血小板増多への対策
水分補給
脱水状態になると血液が濃縮し、血栓のリスクが高まります。こまめな水分補給を心がけましょう。
適度な運動
ウォーキングなどの適度な運動は、血流を改善し血栓予防に効果的です。ただし、長時間同じ姿勢を続けることは避けましょう。
禁煙
喫煙は血管を傷つけ、血栓症のリスクを高めます。禁煙は非常に重要です。
定期的な検査の重要性
血小板異常が指摘された場合は、定期的に血液検査を受け、経過を観察することが大切です。
軽度の異常であっても、自己判断で放置せず、医師の指示に従って適切なフォローアップを受けましょう。血小板数の変動パターンを把握することで、早期に問題を発見できます。
まとめ
血小板検査(PLT)は、止血機能を評価する重要な検査です。基準値は15万~40万個/μLで、この範囲を外れると出血傾向や血栓症のリスクが高まります。
血小板減少症は骨髄での産生低下、破壊亢進、消費亢進などさまざまな原因で起こり、5万個/μL以下では出血しやすくなります。一方、血小板増多症は感染症や炎症などの反応性増多と、本態性血小板血症などの血液疾患によるものがあり、血栓症のリスクに注意が必要です。
健康診断で異常値が見つかった場合は、原因を特定するための精密検査を受け、適切な治療や生活習慣の改善に取り組むことが重要です。定期的な検査で経過を観察し、健康管理に役立てましょう。










