脂質異常症とは?LDL・HDLコレステロール・治療法を徹底解説

脂質異常症とは?基本的な知識をわかりやすく解説

脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪の値が基準値から外れている状態を指します。

以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い場合も含まれるため、現在は「脂質異常症」という名称が使われています。自覚症状がほとんどないため「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれ、気づかないうちに動脈硬化が進行するリスクがあります。

日本では成人の約4人に1人が脂質異常症に該当すると推定されており、生活習慣病の代表的な疾患です。

放置すると動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾患を引き起こす危険性があります。しかし、早期に発見し適切な治療を行えば、これらのリスクを大幅に減らすことができます。

脂質異常症には、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いタイプ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低いタイプ、中性脂肪が高いタイプの3つがあります。

それぞれ原因や対策が異なるため、自分のタイプを理解することが重要です。

コレステロールと中性脂肪の役割

コレステロールと中性脂肪は、体にとって必要不可欠な脂質ですが、バランスが崩れると健康に悪影響を及ぼします。

LDLコレステロール(悪玉)、HDLコレステロール(善玉)、中性脂肪の3つの役割を正しく理解しましょう。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)

LDLコレステロールは、肝臓から全身の細胞にコレステロールを運ぶ役割を担っています。

細胞膜やホルモンの材料として必要なものですが、血液中に増えすぎると血管壁に沈着し、動脈硬化の原因となります。特に酸化したLDLコレステロールは、血管壁を傷つけ、プラーク(脂質の塊)を形成します。このプラークが破れると血栓ができ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすのです。

HDLコレステロール(善玉コレステロール)

HDLコレステロールは、血管壁や全身の細胞から余分なコレステロールを回収し、肝臓に運ぶ「掃除屋」の役割を果たします。

HDLコレステロールが高いほど、動脈硬化のリスクが低下します。運動不足、喫煙、肥満などによってHDLコレステロールは低下しやすくなります。逆に、適度な運動や禁煙によって増やすことができます。

中性脂肪(トリグリセライド)

中性脂肪は、エネルギー源として蓄えられる脂質で、食事から摂取した糖質や脂質が変換されて作られます。

適量であれば問題ありませんが、過剰になると肝臓に蓄積して脂肪肝の原因となったり、HDLコレステロールを減少させたり、小型のLDLコレステロールを増やしたりして、動脈硬化のリスクを高めます。食後に数値が上昇するため、血液検査は空腹時に行うことが推奨されます。

脂質異常症の診断基準

脂質異常症の診断は、血液検査の脂質値によって行われます。

日本動脈硬化学会が定める診断基準に基づいて判定されます。

各脂質の基準値

LDLコレステロールは、140mg/dL以上で「高LDLコレステロール血症」と診断されます。

120~139mg/dLは「境界域高LDLコレステロール血症」とされ、注意が必要です。HDLコレステロールは、40mg/dL未満で「低HDLコレステロール血症」と診断されます。60mg/dL以上が望ましいとされています。

中性脂肪は、空腹時で150mg/dL以上が「高トリグリセライド血症」の基準です。

500mg/dL以上の高値では、急性膵炎のリスクが高まるため、緊急の治療が必要になります。これらの値は健康診断や人間ドックの血液検査で測定できるため、定期的なチェックが重要です。

リスク管理目標値

脂質異常症の治療では、他のリスク要因(糖尿病、高血圧、喫煙、加齢など)を考慮して、個別に管理目標値が設定されます。

心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方、糖尿病がある方は、LDLコレステロールを100mg/dL未満、場合によっては70mg/dL未満にコントロールすることが推奨されます。

脂質異常症の原因とリスク要因

脂質異常症の原因は、遺伝的要因と生活習慣要因に大きく分けられます。

多くの場合、食生活の乱れ、運動不足、肥満、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣が原因です。

生活習慣による脂質異常症

最も多いタイプが、生活習慣に起因する脂質異常症です。

飽和脂肪酸の多い食事(肉の脂身、バター、生クリームなど)、コレステロールの多い食品(卵黄、内臓肉など)の過剰摂取はLDLコレステロールを上昇させます。糖質や脂質の摂りすぎ、アルコールの過剰摂取は中性脂肪を上昇させます。

運動不足は、HDLコレステロールの低下と中性脂肪の上昇につながります。

肥満、特に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)では、複数の脂質値が異常になりやすくなります。喫煙はHDLコレステロールを減少させ、LDLコレステロールを酸化させるため、動脈硬化のリスクを大幅に高めます。

遺伝性の脂質異常症

家族性高コレステロール血症は、遺伝的にLDLコレステロールが非常に高くなる疾患です。

両親のどちらかから遺伝子変異を受け継いだ場合、LDLコレステロールが通常の2~3倍に上昇し、若年でも心筋梗塞を発症するリスクが高まります。アキレス腱が太くなる、まぶたに黄色腫(コレステロールの沈着)が見られるなどの特徴的な症状があります。早期診断と積極的な治療が必要です。

二次性脂質異常症

他の疾患や薬剤が原因で脂質異常症が起こることもあります。

糖尿病、甲状腺機能低下症、腎疾患(ネフローゼ症候群)、肝疾患などが代表的です。また、ステロイド薬、利尿薬、一部の降圧薬なども脂質値に影響を与えることがあります。これらの場合は、原因疾患の治療が優先されます。

脂質異常症の治療法:食事療法と運動療法

脂質異常症の治療の基本は、生活習慣の改善です。

特に食事療法と運動療法は、すべての患者に推奨される重要な治療法です。

食事療法のポイント

LDLコレステロールを下げるには、飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を増やすことが重要です。

肉の脂身、バター、ラードなどを控え、魚(特に青魚)、オリーブオイル、ナッツ類を積極的に摂取しましょう。食物繊維(野菜、海藻、きのこ、大豆製品)は、コレステロールの吸収を抑える効果があります。

中性脂肪を下げるには、糖質(ご飯、パン、麺類、甘いもの)の摂りすぎに注意し、アルコールを控えることが大切です。

青魚に含まれるEPA・DHAは、中性脂肪を下げる効果が高く、積極的な摂取が推奨されます。また、腹八分目を心がけ、1日3食規則正しく食べることも重要です。

運動療法の効果

有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど)は、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果があります。

週3~5回、30分以上の運動が推奨されます。運動により内臓脂肪が減少し、インスリンの働きも改善するため、複数の生活習慣病の改善につながります。激しい運動でなくても、日常的に体を動かす習慣を持つことが大切です。

その他の生活習慣改善

禁煙は脂質異常症の改善に非常に重要です。喫煙をやめるだけでHDLコレステロールが10~15%上昇します。

適正体重の維持、ストレス管理、十分な睡眠も脂質代謝の改善に役立ちます。健康診断で異常を指摘されたら、まず3カ月間生活習慣の改善に取り組み、その後の数値変化を確認することが一般的です。

脂質異常症の薬物療法

生活習慣の改善だけでは目標値に達しない場合、または心血管疾患のリスクが高い場合には、薬物療法が開始されます。

スタチン系薬剤がLDLコレステロールを下げる第一選択薬として広く使用されています。

スタチン系薬剤

スタチンは、肝臓でのコレステロール合成を抑制する薬で、LDLコレステロールを20~40%低下させる効果があります。

アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチンなど、さまざまな種類があります。心筋梗塞や脳梗塞の予防効果が科学的に証明されており、世界中で使用されています。副作用として筋肉痛や肝機能異常が起こることがありますが、多くは軽度です。

その他の薬剤

スタチンで効果が不十分な場合、小腸でのコレステロール吸収を抑えるエゼチミブを併用します。

中性脂肪が高い場合は、フィブラート系薬剤やEPA製剤(イコサペント酸エチル)が使用されます。EPA製剤は、中性脂肪を下げるだけでなく、動脈硬化を抑制する効果もあります。近年では、PCSK9阻害薬という注射薬も登場し、スタチンで十分に下がらない方に使用されています。

薬物療法の継続

脂質異常症の薬は、基本的に長期間継続する必要があります。

「数値が下がったから」と自己判断で中止すると、再び数値が上昇してしまいます。定期的に血液検査を受け、効果や副作用をチェックしながら、医師の指示に従って服薬を続けることが大切です。薬物療法中も、生活習慣の改善は継続します。

脂質異常症と動脈硬化の関係

脂質異常症が怖いのは、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる疾患を引き起こすからです。

動脈硬化は、血管の壁が厚く硬くなり、血液の流れが悪くなる状態です。

動脈硬化のメカニズム

LDLコレステロールが血管壁に入り込み、酸化されると、免疫細胞がそれを取り込んで泡沫細胞となります。

これが蓄積してプラーク(粥腫)を形成し、血管が狭くなっていきます。プラークが破れると血栓ができ、血管が完全に詰まって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。このプロセスは無症状で進行するため、定期的な検査が重要です。

合併症の予防

脂質異常症の治療目的は、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など)の発症を予防することです。

高血圧、糖尿病、喫煙などの他のリスク要因が重なると、危険度は相乗的に高まります。複数のリスクを持つ方は、より厳格な脂質管理が必要です。健康的な生活習慣と適切な治療により、これらの合併症のリスクを大幅に減らすことができます。

まとめ

脂質異常症は、血液中のLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の値が基準値から外れている状態です。

自覚症状がほとんどないため、健康診断での早期発見が重要です。

放置すると動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾患につながります。原因の多くは食生活の乱れ、運動不足、肥満、喫煙などの生活習慣です。

治療の基本は生活習慣の改善で、飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸や食物繊維を増やす食事、週3回以上の有酸素運動が推奨されます。

生活習慣の改善で目標値に達しない場合は、スタチン系薬剤などの薬物療法が開始されます。

薬は長期間継続する必要があり、定期的な検査を受けながら、医師の指示に従うことが大切です。家族に脂質異常症の方がいる場合は、若いうちから検査を受けましょう。

脂質異常症は適切な治療により、心血管疾患のリスクを大幅に減らせる疾患です。

健康診断で異常を指摘された場合は、放置せずに早めに医療機関を受診し、生活習慣の見直しと必要に応じた治療を開始しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

20代のとき父親が糖尿病の診断を受け、日々の生活習慣からこんなにも深刻な状態になってしまうのかという経験を経て、人間ドックや健康診断を猛勉強。 数々の書籍などからわかりやすく、手軽に病気の予防に活用してほしいとの思いで「からだマガジン」を運営しています。