慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、日本の成人の約8人に1人が罹患すると推計される「国民病」です。糖尿病・高血圧・脂質異常症と並ぶ重大な生活習慣病のひとつで、進行すると透析(週3回、1回4時間の血液透析)が必要となる末期腎不全に至る可能性があります。CKDの最大の特徴は初期にほとんど症状がないことで、健康診断でクレアチニン値やeGFRの異常を指摘されて初めて気づくケースがほとんどです。本記事では、CKDの診断基準・症状・進行の仕組み・食事療法・治療・日常生活での注意点を解説します。
目次
慢性腎臓病とは|診断基準とeGFRの見方
CKDは、「①尿検査の異常(尿蛋白が3ヶ月以上持続)」または「②eGFRが60mL/分/1.73㎡未満が3ヶ月以上持続」のいずれか(または両方)を満たす状態と定義されています。
eGFR(推算糸球体濾過量)は腎臓のフィルター機能の指標で、クレアチニン値・年齢・性別から計算されます。健康な成人では100mL/分/1.73㎡前後で、この数値が低いほど腎機能が低下していることを意味します。eGFRによってCKDはG1〜G5の5ステージに分類され、G3b(eGFR 30〜44)以下では腎専門医への紹介が推奨されます。G5(eGFR 15未満)になると、透析や腎移植の準備が必要な末期腎不全と診断されます。
慢性腎臓病の症状|初期は無症状が多い
CKDの厄介な点は、腎機能が50%以下に低下しても自覚症状がほとんど現れないことです。腎臓はもう一方が補うことができるため、片方の機能が完全に失われても症状が出ないほどの予備能力を持っています。このため、定期的な健康診断で尿蛋白・クレアチニン・eGFRを確認することが早期発見に不可欠です。
症状が現れ始めるのは主にG4〜G5(eGFR 30未満)の段階からで、むくみ(浮腫)・倦怠感・食欲不振・貧血(腎臓でのエリスロポエチン産生低下による)・夜間多尿・皮膚のかゆみ・高血圧の悪化などが現れます。進行すると、尿毒症症状(吐き気・頭痛・意識障害)が現れ、透析の開始が必要となります。
慢性腎臓病の原因
日本でCKDの最大の原因となっているのは糖尿病性腎臓病(糖尿病性腎症)で、透析導入の原因疾患の約4割を占めます。高血糖が持続することで腎臓の細小血管が障害され、徐々に腎機能が低下していきます。次いで多いのが慢性糸球体腎炎(免疫の異常による腎炎)で、高血圧による腎硬化症がこれに続きます。
その他、鎮痛薬(NSAIDs)の長期使用・造影剤・過度の塩分摂取・肥満・喫煙もCKDの進行を促す因子として知られています。
慢性腎臓病の食事療法
CKDの食事療法は腎機能の段階と合併症によって異なりますが、全ステージに共通して重要なのが塩分制限(1日3〜6g未満)です。高塩分食は血圧を上げ、腎臓への負担を増やして進行を早めます。日本人の平均塩分摂取量は1日約10gで、意識的に減塩を実践することが求められます。
たんぱく質制限
たんぱく質の代謝産物は腎臓から排泄されるため、腎機能が低下した段階(G3b以降)ではたんぱく質制限が推奨されます。一般的な目安はステージG3〜G4で体重1kgあたり0.6〜0.8g/日です。ただし、たんぱく質を減らしすぎると筋肉量が低下(サルコペニア・フレイル)するリスクがあるため、腎臓専門の管理栄養士による個別指導が欠かせません。
カリウム・リンの制限
腎機能が低下するとカリウムとリンの排泄が困難になります。高カリウム血症は心臓に重大な不整脈を引き起こすリスクがあり、G4〜G5ではカリウムの多い食品(バナナ・里芋・ほうれん草・納豆・柑橘類)の制限が必要です。リン制限は骨粗鬆症・石灰化(血管や臓器へのカルシウム・リンの沈着)の予防に重要で、加工食品・インスタント食品に多く含まれる添加物由来のリンは特に吸収率が高く注意が必要です。
慢性腎臓病の治療
薬物療法
CKDの薬物療法の柱は、原因疾患の治療と腎機能保護です。高血圧の管理にはRAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)が第一選択で、血圧を下げるだけでなく腎臓の内圧を低下させて蛋白尿を減らし、腎機能の低下速度を遅らせる効果があります。
2型糖尿病を合併したCKD患者には、SGLT2阻害薬が腎機能保護・心血管リスク低下の両面で有効であることが複数の大規模臨床試験で示されており、近年ガイドラインでの位置付けが大幅に上がっています。貧血に対してはエリスロポエチン製剤(ESA)、骨ミネラル代謝異常には活性型ビタミンD製剤とリン吸着薬が使われます。
透析療法と腎移植
腎機能が回復不可能なレベルまで低下した場合(eGFR 15未満、または尿毒症症状が現れた場合)、腎代替療法(透析または腎移植)の導入が必要となります。日本では血液透析が最も一般的で、週3回・1回4〜5時間の通院が生涯にわたって必要となります。腎移植は透析と異なり生活の質が大幅に改善し、長期生存率も優れていますが、臓器提供者(ドナー)不足が課題です。
日常生活での腎臓の守り方
腎機能の低下を遅らせるための日常生活のポイントは、禁煙・適切な水分摂取・体重管理・定期的な受診です。喫煙は腎機能低下を2倍以上速める独立したリスク因子であり、禁煙はすべての腎臓病患者に強く推奨されます。水分摂取は腎機能が正常に近い段階では1日1.5〜2リットルが目安ですが、むくみが強い場合や透析患者は医師の指示に従った水分管理が必要です。
市販の鎮痛薬(NSAIDs:イブプロフェン・ロキソプロフェンなど)は腎血流を低下させるため、CKD患者は必ず医師・薬剤師に相談してから使用してください。造影CTを受ける前も、腎機能の状態を主治医に伝えることが重要です。
まとめ
慢性腎臓病は早期に発見して生活習慣を改善することで、進行を大幅に遅らせることが可能な疾患です。健康診断でeGFRやクレアチニン・尿蛋白の異常を指摘された場合は放置せず、必ず腎臓内科を受診してください。塩分制限・たんぱく質管理・血圧・血糖の適切なコントロールが腎臓を守る最大の武器となります。










