目次
マンモグラフィとは?基本的な知識をわかりやすく解説
マンモグラフィは、乳房専用のX線撮影装置を使って乳房を撮影し、乳がんの早期発見を目的とした検査です。触診では見つけにくい小さなしこりや、石灰化(カルシウムの沈着)を発見することができます。
日本では年間約9万人以上が乳がんと診断されており、女性のがん罹患数の第1位となっています。早期発見により、90%以上の治癒率が期待できるため、定期的なマンモグラフィ検診が重要です。
マンモグラフィは、1960年代にアメリカで開発され、現在では世界中で乳がん検診の標準的な方法として確立されています。日本では、40歳以上の女性に対して、2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています。
検査では、乳房を透明なプラスチック板で挟んで圧迫し、薄く引き伸ばした状態でX線撮影を行います。乳房を圧迫することで、より鮮明な画像が得られ、被曝量も減少します。
マンモグラフィの検査方法と撮影の流れ
マンモグラフィの検査がどのように行われるかを理解しておくことで、当日の不安を軽減できます。検査は女性技師が担当することがほとんどです。
検査前の準備
検査当日は、上半身のみ脱衣できる服装が望ましいです。ワンピースよりも、上下が分かれた服装が便利です。制汗剤、パウダー、ボディクリームなどは、石灰化と紛らわしい影を作ることがあるため、使用を控えましょう。
ネックレスやピアスなどのアクセサリーも外します。生理前や生理中は乳房が張って痛みを感じやすいため、可能であれば生理終了後1週間程度での受診が推奨されます。
撮影の流れ
検査室に入ったら、上半身の衣服を脱ぎ、専用のガウンを着用します。撮影は通常、左右の乳房をそれぞれ2方向(上下方向と斜め方向)ずつ、計4枚撮影します。
技師が乳房を装置の台に乗せ、透明なプラスチック板で上から圧迫します。圧迫時間は片側10~15秒程度で、撮影自体は数秒で終了します。両乳房の撮影を含めた全体の所要時間は、10~15分程度です。
2方向撮影の重要性
マンモグラフィでは、CC(頭尾)方向とMLO(内外斜位)方向の2方向から撮影することが標準です。2方向撮影により、病変の位置を正確に把握でき、偽陽性(異常なしを異常ありと判定)や偽陰性(異常ありを異常なしと判定)を減らせます。
自治体の検診では、費用削減のため1方向(MLO方向のみ)撮影の場合もありますが、可能であれば2方向撮影を受けることが推奨されます。
マンモグラフィの痛みと軽減するコツ
マンモグラフィで最も懸念されるのが、圧迫時の痛みです。個人差がありますが、痛みを軽減する方法があります。
圧迫が必要な理由
乳房を圧迫する理由は、乳腺組織を薄く均一に広げることで、重なりを少なくし、小さな病変も明瞭に映すためです。また、圧迫により乳房の厚みが減少し、X線の透過性が向上して被曝量を減らすこともできます。
適切な圧迫がないと、乳腺が重なって病変が隠れたり、画像がぼやけたりして、診断精度が低下します。多少の痛みを伴っても、適切な圧迫は検査の質を保つために必要です。
痛みを軽減するコツ
痛みを感じやすい方は、生理周期を考慮して受診時期を選びましょう。生理前は乳房が張って痛みを感じやすいため、生理終了後1週間程度が最適です。
検査中は、肩の力を抜いてリラックスすることが重要です。緊張して体に力が入ると、より痛みを強く感じます。深呼吸をして、ゆっくりと息を吐きながら検査を受けましょう。痛みが強い場合は、遠慮なく技師に伝えることで、圧迫の調整をしてもらえます。
痛みの個人差
痛みの感じ方には大きな個人差があります。乳房が小さい方、乳腺密度が高い方、痛みに敏感な方は、痛みを強く感じる傾向があります。一方、乳房が大きい方や脂肪の割合が多い方は、比較的痛みを感じにくいです。
初回は不安と緊張で痛みを強く感じることがありますが、2回目以降は慣れて痛みを感じにくくなる方も多いです。
マンモグラフィで発見できる異常所見
マンモグラフィでは、さまざまな異常所見を発見できます。主な所見とその意味を理解しておきましょう。
腫瘤(しこり)
腫瘤は、マンモグラフィ画像上で白い塊として映ります。良性の腫瘤(線維腺腫、乳腺症など)は境界が明瞭で円形・楕円形をしていることが多いです。
悪性の腫瘤(乳がん)は、境界が不明瞭で不整形、周囲にトゲ状の突起(spiculation)が見られることがあります。ただし、画像だけでは良悪性の判断が難しい場合もあり、超音波検査や生検が必要になります。
石灰化
石灰化は、乳房組織内にカルシウムが沈着したもので、マンモグラフィ画像上で白い点として映ります。石灰化には良性のものと悪性のものがあります。
良性の石灰化は、粗大で丸く、散在性に分布します。悪性を疑う石灰化は、微細で不規則な形状、集簇性(一箇所に集まっている)、線状・分枝状の配列などが特徴です。早期の乳がん(特に非浸潤がん)では、石灰化のみが唯一の所見となることもあり、マンモグラフィの重要性がここにあります。
構築の乱れと非対称性陰影
構築の乱れは、正常な乳腺の構造が歪んでいる状態で、乳がんや術後の瘢痕などで見られます。非対称性陰影は、左右の乳房を比較したときに、片側だけに見られる濃淡の違いです。
これらの所見が見つかった場合は、追加の画像検査や超音波検査で詳しく調べる必要があります。
マンモグラフィの被曝と安全性
マンモグラフィはX線を使用するため、放射線被曝が気になる方も多いでしょう。しかし、被曝量は非常に少なく、安全性は確立されています。
マンモグラフィの被曝量
マンモグラフィ1回(両側2方向撮影)の被曝量は、約0.05~0.15 mSv(ミリシーベルト)程度です。これは、東京からニューヨークへの飛行機往復で受ける自然放射線被曝(約0.2 mSv)よりも少ない量です。
また、日常生活で1年間に受ける自然放射線被曝(約2.1 mSv)と比較しても、マンモグラフィの被曝量は非常に少ないと言えます。現代のデジタルマンモグラフィ装置では、従来のフィルムマンモグラフィよりもさらに被曝量が減少しています。
検査を受けてはいけない方
妊娠中または妊娠の可能性がある方は、原則としてマンモグラフィは受けられません。胎児への放射線被曝のリスクがあるためです。授乳中の方は、検査自体は可能ですが、乳腺が発達しているため画像の質が低下します。
可能であれば授乳終了後3~6ヶ月経過してから受診することが望ましいです。豊胸手術(シリコンやヒアルロン酸注入)を受けている方は、撮影方法に工夫が必要なため、事前に申告しましょう。
高濃度乳房(デンスブレスト)の問題
近年、高濃度乳房(デンスブレスト)という言葉を耳にする機会が増えています。これは乳房の構成によって、マンモグラフィの診断精度が変わることを示しています。
乳房構成とは
乳房は、乳腺組織と脂肪組織から構成されています。乳腺の割合が多い乳房を「高濃度乳房」と呼びます。日本人女性の約40~50%が高濃度乳房と言われており、特に若い女性に多く見られます。
乳房構成は、脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、極めて高濃度の4つに分類されます。不均一高濃度と極めて高濃度が、高濃度乳房に該当します。
高濃度乳房とマンモグラフィの限界
マンモグラフィでは、乳腺組織と腫瘤が同じように白く映るため、高濃度乳房では病変が乳腺に隠れて見つけにくくなります。これを「マスキング効果」と呼びます。
高濃度乳房の方では、マンモグラフィの感度(がんを見つける能力)が低下し、約30~50%のがんが見逃される可能性があります。ただし、石灰化は高濃度乳房でも発見できるため、マンモグラフィが全く無意味というわけではありません。
高濃度乳房の方への対応
高濃度乳房と判定された方は、マンモグラフィに加えて乳腺超音波(エコー)検査を併用することが推奨されます。超音波検査は、乳腺密度の影響を受けないため、高濃度乳房でも腫瘤を明瞭に描出できます。
日本の一部の自治体では、マンモグラフィとエコー検査の併用検診が実施されています。40歳未満の若い女性も、乳腺密度が高いため、エコー検査を中心とした検診が適しています。
乳がん検診の推奨年齢と頻度
適切な年齢と頻度で乳がん検診を受けることが、早期発見につながります。国際的なガイドラインと日本の推奨を理解しておきましょう。
マンモグラフィ検診の推奨年齢
日本では、40歳以上の女性に対して、2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています。これは「対策型検診」と呼ばれ、自治体の補助により比較的安価に受けられます。
40歳未満の女性は、乳腺密度が高いためマンモグラフィの有効性が低く、対策型検診の対象外です。ただし、乳がんの家族歴がある、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の可能性がある、乳房にしこりなどの症状があるなどの場合は、年齢に関係なく検査が推奨されます。
セルフチェックの重要性
定期的な検診に加えて、月に1回のセルフチェック(自己触診)も重要です。生理終了後5~7日目頃、乳房が柔らかい時期に行うのが最適です。
鏡の前で乳房の形や左右差を確認し、仰向けになって指の腹で円を描くように乳房全体を触診します。しこり、皮膚のくぼみやひきつれ、乳頭からの分泌物(特に血性)などの異常があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。
まとめ
マンモグラフィは、乳房専用のX線撮影装置を使って乳がんを早期発見する検査です。乳房を圧迫して撮影するため痛みを伴いますが、生理終了後1週間程度に受診し、リラックスすることで痛みを軽減できます。
検査では腫瘤や石灰化などの異常所見を発見でき、特に早期乳がんの石灰化はマンモグラフィでしか見つからないこともあります。
被曝量は0.05~0.15 mSv程度と非常に少なく、安全性は確立されています。日本人女性の40~50%は高濃度乳房で、マンモグラフィの診断精度が低下するため、超音波検査の併用が推奨されます。
40歳以上の女性は2年に1回のマンモグラフィ検診を受け、月に1回のセルフチェックも行うことで、乳がんの早期発見と治癒率の向上につながります。異常を感じたら、検診時期を待たずに医療機関を受診しましょう。

 
						 
																						 
																						 
																						 
																						 
	        		             
	        		             
	        		             
	        		             
	        		             
	        		             
	        		             
	        		             
						








