「階段を上るだけで息が切れる」「足がむくんで靴が履けない」「夜中に突然息苦しくなって目が覚める」——これらは心不全の典型的な症状です。
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な量の血液を送り出せなくなった状態を指します。「心不全=心臓が止まること」と誤解されやすいですが、正確には心臓が動いているものの十分に機能していない状態です。日本では約120万人が心不全と診断されており、高齢化に伴いさらに増加が予測されています。本記事では、心不全の症状・原因・治療・予防・むくみとの関係・入院の必要性・受診すべき科について詳しく解説します。
目次
心不全の主な症状
息切れ・呼吸困難
心不全の最も代表的な症状が息切れ(労作時呼吸困難)です。心臓のポンプ機能が低下すると肺に血液が滞留し(肺うっ血)、肺が膨らみにくくなって息苦しさが現れます。初期は階段の昇降や急ぎ足で現れますが、進行すると安静時でも息苦しさが続くようになります。
夜間発作性呼吸困難(就寝中に突然息苦しくなって目が覚める症状)や、起座呼吸(横になると苦しく、座ると楽になる状態)は重篤な心不全サインとして特に注意が必要です。
むくみ(浮腫)
心臓のポンプ機能が低下すると血液循環が滞り、静脈圧が上昇します。これにより血管から水分が組織に漏れ出し、足首・すね・足の甲を中心とした浮腫(むくみ)が現れます。指で押すとへこんで戻りにくい「圧痕性浮腫」が特徴です。
重症化すると腹部への水分貯留(腹水)・肺への水分貯留(胸水)が起こり、腹部膨満感や更なる呼吸困難につながります。体重が1週間で2kg以上急増した場合、体内への水分蓄積が起きているサインとして警戒が必要です。
疲労感・倦怠感
心臓が十分な血液を全身に送れないため、筋肉や臓器へのエネルギー供給が不足します。その結果、ちょっとした動作でも著しい疲労感・脱力感が現れ、日常生活の活動量が著しく低下します。
その他の症状
食欲不振・吐き気(消化管のうっ血による)・夜間頻尿(就寝時に足のむくみが戻って尿量が増えるため)・意識朦朧・混乱なども心不全の症状として現れることがあります。
心不全の原因となる主な疾患
心不全はそれ自体が病名ではなく、さまざまな心疾患が進行した結果として到達する「状態」です。主な原因疾患として以下が挙げられます。
虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
冠動脈の狭窄・閉塞により心筋への血流が低下・途絶することで心筋が障害され、ポンプ機能が低下します。心筋梗塞は心不全の最も多い原因のひとつであり、梗塞後の心筋は瘢痕化して収縮力を失います。
高血圧性心疾患
長期にわたる高血圧は心臓に常に過剰な負荷をかけ続け、心筋の肥厚・硬化を招きます。最終的に心臓が拡張・収縮する能力が失われ、「高血圧性心不全」へと進行します。日本における心不全の主要な原因のひとつです。
弁膜症・不整脈・心筋症
心臓弁の異常(弁膜症)・持続する不整脈(心房細動など)・心筋そのものの病変(拡張型心筋症・肥大型心筋症)も心不全の原因となります。
心不全の治療
薬物療法
心不全の治療の中心は薬物療法です。ACE阻害薬・ARB・βブロッカー・利尿薬・ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)・SGLT2阻害薬などが使用されます。これらは心臓の負担を軽減し、生命予後を改善することが多くの臨床試験で証明されています。
利尿薬は体内の余分な水分・塩分を排泄し、むくみや呼吸困難を改善するために重要な薬剤です。自己判断での服薬中断は急性増悪につながるため、必ず処方通りに継続することが必要です。
非薬物療法(デバイス治療)
重症心不全には植込み型除細動器(ICD)・心臓再同期療法(CRT)といったデバイス治療が検討されます。心臓移植が適応となる極めて重症のケースもあります。
入院治療が必要な場合
急性心不全(急激に症状が悪化した状態)では入院治療が必要です。点滴による強心薬・利尿薬投与・酸素療法・必要に応じた人工呼吸管理が行われます。「いつもより息苦しい」「体重が急に増えた」「足のむくみが悪化した」という変化に気づいたら速やかに受診することが、入院・重篤化を防ぐカギとなります。
心不全の予防と生活習慣の改善
基礎疾患のコントロール
心不全の最大の予防は高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動などの基礎疾患を適切にコントロールすることです。薬を処方通りに服用し、定期受診を継続することが心不全発症リスクを大幅に低下させます。
減塩と水分管理
塩分の過剰摂取は体内の水分貯留を促し、心臓への負荷を増大させます。心不全の方は1日6g未満の塩分制限が推奨されることが多く、加工食品・外食での塩分に注意が必要です。ただし水分制限については個人差があるため、医師の指示に従ってください。
禁煙・節酒・適度な運動
喫煙は心臓病・動脈硬化の最大のリスク因子のひとつです。禁煙は心不全の一次・二次予防に極めて重要です。適度な有酸素運動(ウォーキング・サイクリングなど)は心機能の維持・改善に有効ですが、症状が安定しているときに限り、医師に相談のうえで実施することが前提です。
心不全は何科を受診すればよいか
心不全が疑われる症状(息切れ・むくみ・倦怠感・夜間の呼吸困難など)がある場合は、循環器内科の受診が最適です。地域のクリニックで初診の場合はまず内科を受診し、循環器専門医への紹介を求めることも有効です。
急激な息苦しさ・意識障害・胸痛を伴う場合は救急対応が必要です。ためらわず119番への連絡・救急外来への受診をしてください。
まとめ
心不全は心臓のポンプ機能低下により息切れ・むくみ・疲労感などが現れる状態で、高血圧・虚血性心疾患などが主な原因です。薬物療法と生活習慣の改善によって症状のコントロールと進行抑制が可能ですが、自己判断での服薬中断は危険です。
むくみや息切れの悪化・急激な体重増加といった変化を日頃から自分でモニタリングし、異変を感じたら早めに循環器内科を受診することが大切です。高血圧・糖尿病などの基礎疾患を持つ方は、将来の心不全予防のためにも定期的な管理と受診を続けましょう。










