日本人の死因第5位に位置する肺炎は、決して「ただの風邪の悪化」ではありません。特に65歳以上の高齢者では重症化しやすく、入院・死亡リスクが格段に上がります。また近年は誤嚥性肺炎が高齢者の肺炎死の主因となっており、予防への取り組みが急務です。この記事では、肺炎の種類・症状の見分け方・原因・治療法から、ワクチンによる予防まで幅広く解説します。
目次
肺炎とはどんな病気か
肺炎は肺の組織に炎症が起きる感染症で、主に細菌・ウイルス・マイコプラズマなどの病原体が気道を通じて肺胞に到達することで発症します。肺胞に炎症が起きると酸素の取り込みが妨げられ、呼吸困難・発熱・咳・痰といった症状が現れます。重症化すると血中酸素が低下し、集中治療や人工呼吸管理が必要になることもあります。
健康な成人では免疫機能が病原体を排除できますが、高齢者・基礎疾患のある方・免疫抑制状態の方では防御機能が低下しており、重症化しやすい傾向があります。
肺炎の種類と原因
細菌性肺炎(市中肺炎・院内肺炎)
最も多い原因菌は肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)で、市中肺炎全体の30〜40%を占めます。高熱・膿性痰・呼吸困難が急に起こることが特徴です。次いで多いのがインフルエンザ菌・黄色ブドウ球菌・クレブシエラ菌などです。院内感染では緑膿菌やMRSAなど薬剤耐性菌が問題になります。
マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は細菌と異なる非定型病原体「マイコプラズマ・ニューモニエ」が原因で、主に若年者(5〜35歳)に多く見られます。症状は比較的軽く、発熱・頑固な乾いた咳(3〜4週間持続)が特徴です。市販の風邪薬や通常の抗生物質(ペニシリン系)は効かず、マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系抗生剤が有効です。飛沫感染するため家族内・学校内での集団感染が起こりやすいです。
ウイルス性肺炎
インフルエンザウイルス・RSウイルス・新型コロナウイルスなどが原因となります。抗生剤は効果がなく、抗ウイルス薬(タミフルなど)や対症療法が中心になります。ウイルス性肺炎に細菌が二次感染する「混合感染」も重症化の原因になります。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は食物・唾液・胃液などが誤って気管・肺に入ることで起こります。高齢者では嚥下機能(飲み込む力)と咳嗽反射が低下しているため発症しやすく、日本の高齢者肺炎の約70%が誤嚥性と言われています。就寝中に少量の唾液が気管に流れ込む「不顕性誤嚥」が繰り返されることで発症することも多く、気づきにくい点が問題です。
肺炎の主な症状と重症度の見分け方
典型的な症状は発熱(38℃以上)、悪寒・震え、咳・痰、胸の痛み、息切れ・呼吸困難です。高齢者では発熱が軽度またはなく、食欲低下・ぐったりした様子・意識の変化が主な症状として現れる「非典型例」が多いため注意が必要です。
緊急性を判断する目安としてSpO2(血中酸素飽和度)が93%以下、呼吸数が30回/分以上、血圧低下などがある場合は入院治療が必要です。市販のパルスオキシメーターで酸素飽和度を確認することも、自宅での重症度判断に役立ちます。
肺炎の治療
治療の基本は原因に応じた抗菌薬・抗ウイルス薬の投与と、安静・水分補給・栄養管理です。軽症〜中等症は外来での経口抗菌薬治療が可能ですが、重症例・高齢者・基礎疾患がある場合は入院して点滴治療を行います。入院期間は軽症で5〜7日、重症では2〜4週間に及ぶこともあります。
細菌性肺炎にはペニシリン系・セフェム系・マクロライド系などの抗生剤が使用されます。薬剤耐性菌には感受性試験の結果に基づいて使い分けます。誤嚥性肺炎には嫌気性菌もカバーするクリンダマイシン・スルバクタム/アンピシリンなどが用いられます。
肺炎の予防——ワクチンと生活習慣
肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌ワクチンは最も重要な予防手段の一つです。日本では定期接種として65歳以上の方を対象に肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の定期接種が実施されており、自己負担額が軽減されています。接種により肺炎球菌による肺炎・菌血症の予防効果が期待できます。インフルエンザワクチンも二次性細菌性肺炎の予防として有効です。
誤嚥性肺炎の予防
誤嚥性肺炎の予防には口腔ケア(歯磨き・義歯の洗浄)が最も重要で、口腔内細菌数を減らすことで肺炎リスクが有意に低下します。食事中は姿勢を正し、一口量を小さくしてゆっくり食べることが大切です。嚥下リハビリ(舌の体操・頸部のストレッチ・嚥下訓練)も効果的です。ACE阻害薬(降圧薬の一種)は咳嗽反射を強める作用があり、誤嚥性肺炎のリスク低下が示されています。
日常的な予防
手洗い・うがい・マスクの適切な着用など感染対策の基本に加え、禁煙・適度な運動・栄養バランスのよい食事・十分な睡眠による免疫力の維持が肺炎予防の基礎となります。
まとめ
肺炎は決して軽視できない感染症であり、高齢者・基礎疾患のある方は特にリスクが高いです。発熱・咳・息苦しさが続く場合は早めに内科・呼吸器科を受診しましょう。肺炎球菌ワクチンの定期接種、口腔ケア、嚥下機能の維持といった予防策を日常的に取り入れることが、重症化を防ぐ最善の方法です。高齢の家族がいるご家庭では、食事姿勢や口腔衛生の管理を意識して取り組むことを強くお勧めします。










